第三部・第23話 「次は、違う」
雪花は、空を見ていた。
雲の流れ。
高度。
風向き。
どれも、
戦場で確認するには
あまりにも穏やかな情報だった。
「……変だな」
誰に聞かせるでもなく、
そう呟く。
攻撃を止めてから、
時間はそれなりに経っている。
外部からの指示は、
来ていない。
観測も、
干渉もない。
——放置。
それが、
彼女に与えられた扱いだった。
雪花は、
自分の手を見る。
白い手袋。
汚れはない。
あのとき、
攻撃を止めた理由。
未だに、
言葉にはならない。
ただ、
続けるべきじゃないと
思った。
それだけだ。
「……次は」
雪花は、
小さく息を吸う。
「同じには、
ならない」
それは、
宣言でも誓いでもない。
ただの、
判断だった。
彼女は、
自分が“止まった”瞬間を
思い返す。
敵が強かったわけじゃない。
命令が変わったわけでもない。
恐怖を感じたわけでも、
迷ったわけでもない。
ただ、
意味が見えなくなった。
「……理由がない攻撃は、
綺麗じゃない」
ぽつりと、
そんな言葉が落ちる。
戦争に、
綺麗も汚いもない。
それは、
分かっている。
でも、
それでも。
雪花は、
自分の魔法を思い浮かべる。
雪。
氷。
白。
跡に残る、
巨大な花の形。
壊すための魔法。
でも、
壊れたあとに
残るものを、
彼女は初めて考えていた。
管理側からの、
短い通信が入る。
「次の行動案を提出せよ」
文章だけ。
感情も、
評価も、
含まれていない。
雪花は、
少しだけ考えてから
返信する。
「同じやり方は、
しない」
数秒後。
「理由を記せ」
雪花は、
一瞬、止まる。
理由。
まだ、
分からない。
だから、
正直に返す。
「理由は、
分からない」
「でも、
次は違う」
通信は、
それ以上続かなかった。
おそらく、
管理側は理解しなかった。
だが、
雪花自身は理解している。
これは、
気まぐれでも、
反抗でもない。
価値基準が、
少しだけ変わった。
遠くで、
警報が鳴る。
次の準備。
次の戦場。
次の役割。
雪花は、
立ち上がる。
その足取りは、
迷っていない。
「……汚れるなら、
最初から
分かっていた方がいい」
誰に向けた言葉でもなく、
誰かに届くこともない。
それでも、
確かにそこにあった
意思。
その頃。
管理側の記録には、
短い追記が残る。
・雪花、
行動指針に変化あり
・理由は不明
・再現性なし
ただし、
最後に一文だけ
付け加えられていた。
・次回行動は、
前回と同一ではない
可能性が高い
雪花は、
もう一度、
空を見る。
次は、
同じことをしない。
それだけが、
はっきりしていた。
理由は、
まだない。
でも——
理由がなくても、
変わることはある。
それを、
彼女は知ってしまった。




