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第三部・第17話 止まった理由は、誰にも分からない

異変は、

あまりにも静かだった。


爆音が止んだわけでもない。

雪が消えたわけでもない。


ただ——

次の一撃が、来なかった。


「……?」


前線の指揮系統が、

一斉に息を止める。


「攻撃、

 間隔が空いています」


「冷却完了の兆候?」


「違います。

 エネルギーは、

 まだ十分残っている」


なら、

なぜ。


誰も答えを持たない。


雪花の周囲では、

雪の花がまだ咲いている。


空気は冷たい。

氷片も舞っている。


だが、

落ちてこない。


白い結晶が、

宙で留まり、

ゆっくりと溶け始めている。


「……待機?」


誰かが、

信じられないという声で言う。


「いや、

 そんな命令が出るはずがない」


「なら、

 制限か?」


「この規模で?」


どの仮説も、

噛み合わない。


紫陽は、

前線の遮蔽物の陰で、

空を見上げていた。


「……止まってるな」


「止まってますね」


紬も、

同じ方向を見ている。


「でも、

 引いてはいません」


雪花の位置は、

変わっていない。


撤退でもない。

迷っているようにも見えない。


ただ、

攻撃だけが中断されている。


「警戒を解くな!」


指揮官の声が響く。


「これは、

 フェイントの可能性が高い!」


「次が来るぞ!」


誰も、

その判断を疑わない。


——この規模の能力者が、

理由もなく止まるはずがない。


それが、

常識だ。


だが、

次は来ない。


十秒。

二十秒。


一分。


戦場に、

不自然な空白が生まれる。


砕けた建物。

凍りついた地面。

立ち尽くす人影。


そして、

沈黙。


「……何か、

 見落としてる」


紫陽が、

低く呟く。


「外的要因ではありません」


紬も、

同意する。


「能力自体に、

 問題は起きていない」


「じゃあ、

 本人か?」


その可能性に、

二人は言葉を失う。


あの圧倒的な存在が、

自分の意思で、

攻撃を止めた?


理由は?


遠く。


雪花の立つ場所で、

雪の花が一輪、

ゆっくりと崩れ落ちる。


破壊ではない。

解除に近い。


「……?」


前線の誰かが、

違和感に声を上げる。


「今、

 解除音が——」


通信が、

一瞬だけ乱れた。


同時刻。


八乙女いろはは、

雪の中を歩いていた。


足元が、

きしむ。


彼女は、

気にしていない。


視線は、

ただ一つ。


白の中心。


雪花。


「……?」


雪花側の反応は、

分からない。


だが、

攻撃が止まっている。


地球側は、

まだ知らない。


この沈黙が、

“戦術的な判断”ではないことを。


この空白が、

誰かの価値基準によって生まれたことを。


「全隊、

 警戒維持!」


「次に備えろ!」


指揮官の声が、

やや荒れている。


理由の分からない停止は、

攻撃よりも恐ろしい。


だが、

それでも命令は同じだ。


戦場では、

理由より結果が優先される。


雪は、

まだ降っている。


だが、

刃ではなくなっている。


誰も、

それを説明できない。


ただ一つ言えるのは——


雪花の初陣は、

この瞬間、

予定外の形で中断された。


そしてその理由は、

この戦場にいる

誰一人として、

正しく理解していなかった。

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