表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/129

第三部・第14話 動かない数字

翌朝。


文化祭の後片付けも終わり、

学園はいつもの静けさを取り戻していた。


それなのに、

紫陽の胸の奥には、

説明のつかないざらつきが残っていた。


理由は、

はっきりしている。


——評価が、更新されていない。


廊下の端末表示。


各生徒の能力評価、

LFB方式による数値一覧。


本来なら、

文化祭のような全体行事の後には、

必ず微調整が入る。


戦闘でなくてもいい。

対人行動。

判断。

対応速度。


何かしら、

必ず動く。


だが。


「……変わってない?」


紬が、

小さく呟いた。


紫陽も、

無言で頷く。


昨日と、

完全に同じ数値。


小数点以下まで、

一切の変化がない。


「おかしいですよね」


紬が続ける。


「文化祭、

 何もなかったわけじゃないのに」


迷子対応。

トラブル処理。

設備修理。

説明対応。


能力者として、

人として、

確実に“何か”をしている。


なのに、

数字は沈黙したままだ。


「……評価されなかった、

 ってことか?」


紫陽が言うと、

紬は首を振った。


「違います」


即答だった。


「評価されなかった、

 なら

 “下がる”か

 “保留”の表示が出ます」


「今回は、

 何も表示されてない」


それが、

一番おかしい。


教室に入ると、

同じ空気が流れていた。


誰も、

声に出しては言わない。


だが、

端末を見る視線が、

いつもより長い。


「……ねえ」


相馬ユウが、

低い声で言う。


「昨日、

 俺、

 何もしてなかった?」


「してたろ」


誰かが返す。


「手伝ってたし、

 来場者対応も」


「だよな」


相馬は、

端末を見つめたまま、

苦笑した。


「なのに、

 数字が一ミリも動いてない」


笑えない冗談だった。


影野蒼汰は、

自分の席で、

静かに端末を伏せていた。


確認は、

もう済んでいる。


数値は、

昨日と同じ。


0.00。


文化祭中、

何度も声をかけられた。

質問に答えた。

説明した。


それでも、

“無かったこと”にされた。


彼は、

それをどう受け止めるべきか、

まだ分からない。


ただ一つ、

分かることがある。


——動かない数字は、

失敗よりも怖い。


廊下の掲示板。


管理側からの連絡は、

いつも通り簡潔だった。


「能力評価は

現行基準を維持する」


理由は書かれていない。


例外も、

注釈もない。


ただ、

維持。


「……維持、

 って」


誰かが呟く。


「何も見てなかった、

 ってこと?」


答えは、

返ってこない。


八乙女いろはは、

掲示板を見上げていた。


表情は、

いつもと変わらない。


だが、

指先だけが、

ランドセルの端を強く握っている。


数字は、

彼女にとって重要ではない。


それでも、

“見られていない”ことは、

分かる。


そして、

それがどういう意味かも。


——今は、

触れられていない。


それだけだ。


昼休み。


紫陽は、

校庭を見下ろしながら、

ぽつりと言った。


「……何も起きなかった、

 っていうのが、

 一番不安だな」


紬は、

少し考えてから答える。


「管理側が、

 “動かさない”って

 決めたんだと思います」


「評価できない、

 じゃなくて?」


「……評価したくない、

 かもしれません」


その言葉が、

胸に残る。


評価できない能力。

判断できない行動。

測れない何か。


それを、

数字にしたくない。


「……つまり」


紫陽は、

静かに続けた。


「俺たちは今、

 安全だからじゃなくて、

 危険すぎて放置されてる」


紬は、

否定しなかった。


数字は、

今日も動かない。


誰かが成長したわけでも、

誰かが失敗したわけでもない。


ただ、

“何かを見た”結果として、

動かさないと決められた。


それが、

評価更新が行われない異常の正体だった。


そして、

紫陽は確信する。


これは、嵐の前だ。


動かない数字は、

止まっているのではない。


——溜められている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ