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第三部・第11話 文化祭当日

――役に立つということ


朝から、学園は騒がしかった。


戦場で聞く騒音とはまるで違う、

人の声が重なり合う音。

笑い声、足音、呼びかけ、

どれもが雑多で、無秩序で、そして——安全だった。


「……人、多いですね」


紬が、少し驚いたように言う。


「文化祭だからな」


紫陽はそう答えながら、

視線を巡らせた。


校門の前には、

一般来場者の列。

保護者、近隣住民、

そして、能力を持たない普通の人たち。


能力者専門学校の文化祭は、

本来なら非公開のはずだった。


だが、

「能力を戦争以外に使う場を示す」

という管理側の判断で、

限定公開が決まった。


——その決断が正しいかどうかは、

まだ誰にも分からない。


観測・保留クラスの展示は、

派手さこそないが、

人が途切れなかった。


能力の仕組み。

欠点。

できないこと。


あえて“弱い部分”から説明する構成が、

来場者の足を止めている。


「へえ……

 万能じゃないんですね」


「戦争だと、

 すごい能力ばかりに見えますけど」


「普段は、

 こんな制限があるんだ……」


影野蒼汰は、

説明パネルの横で、

質問に答えていた。


声は小さい。

だが、

逃げてはいない。


「この能力は……

 使い方を間違えると、

 むしろ危険です」


その言葉に、

来場者が真剣に頷く。


——それだけで、

彼の能力は、

十分役に立っていた。


一方、

裏手のスペースでは、

小さなトラブルが起きていた。


「すみません!

 装置、止まりました!」


「電源じゃない、

 内部が——」


展示用の簡易設備が、

突然沈黙した。


人が集まり、

焦りが広がる。


「直せる人、

 いませんか?」


その声に、

八乙女いろはが、

一歩前に出た。


「……見る」


短い一言。


誰かが、

止めようとした。


「危ないから——」


だが、

彼女はもうしゃがみ込んでいる。


壊れた装置を、

じっと見て、

少し考え、


「……これ、

 形、

 合ってない」


次の瞬間、

部品が一つ、

“あるべき形”に変わった。


装置が、

低く音を立てて動き出す。


「……え?」


「直った……?」


拍手が起きる。


いろはは、

少しだけ困った顔をして、

袖を引いた。


服に、

汚れがついていないか確認してから、

静かに下がる。


誰も、

それ以上何も言わなかった。


それが、

自然だった。


午後。


校内放送で、

急なアナウンスが流れた。


「来場者の方、

小体育館付近で迷子が出ています」


紬が、

反射的に動いた。


「行ってきます」


迷子になっていたのは、

小さな男の子だった。


泣いてはいない。

ただ、

不安そうに立ち尽くしている。


「……大丈夫」


紬は、

しゃがんで目線を合わせる。


能力は使わない。

必要ない。


少し話して、

名前を聞いて、

手を引いて歩く。


それだけで、

十分だった。


——能力があるから助けたのではない。

人がいるから、動いただけだ。


夕方。


文化祭は、

大きな事故もなく終わりを迎えた。


撤収作業の中、

紫陽は校舎の壁にもたれて、

校庭を見下ろしていた。


「……今日は、

 誰も死ななかったな」


ぽつりと、

独り言のように呟く。


隣にいた紬が、

少しだけ笑った。


「それ、

 すごいことですよ」


紫陽は、

頷いた。


能力は、

敵を倒すためだけのものじゃない。


今日、

それが証明された。


目立たなくてもいい。

評価されなくてもいい。


役に立つというのは、

生きて帰れる場所を作ることだ。


文化祭当日は、

そういう一日だった。

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