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許氏の塢  作者: 熊谷 柿
第1章
4/15

復活の邑

 離散していたむらの者たちが三々五々と戻ってきた。いつまで経っても戻らない者もあった。代わりに、戦乱を避けて流民となった者たちが来訪した。

 許淵きょえんは、その者たちを受け入れた。ほとんどが華北で農業を営んでいた者たちだった。

 邑の者は、総出で邑の再建に尽力した。見る間に邑の外縁は四方四百六十間(約八百四十m)、高さと厚さ共に四丈(約十二m)の墻壁しょうへきとなった。

 それだけではない。

 自由に往来できる墻壁上の四隅には、外敵を監視するための角楼かくろうと呼ばれるやぐらを置いた。

 墻壁の上には女墻じょしょうと呼ばれる凹凸のあるしょうを設置した。矢を避けながら、眼下の敵をつためだった。

 東西南北の門は懸門けんもんにした。扉を後ろから補強するために分厚い戸板を吊るしてある。戸板の表面には鉄板が貼られ、門の道を断ち切るように掘られた狭い縦穴に沿って上下する。門楼もんろう内に設置した滑車で戸板を昇降する仕組みだった。

 万一に備え、城門や城壁を破壊するために作られた攻城兵器である衝車しょうしゃなどの攻撃に門扉もんぴが破られるのを防ぐため、四つの門の近くに護城墻ごじょうしょうこしらえた。衝車などが入る隙間がない上、出入り口となる門が外部から見えない。門を覆うように墻が築かれており、敵に悟られることなく門の開閉ができる。

 取って置きは、関城せきしろだった。東西の門外に縦横約五十間(九十m)、高さと厚さ四丈(約十二m)の小城を建設した。敵が接近すれば門を固く閉ざして籠城ろうじょうする。邑の墻壁や門に取りつく敵を背後から撃退するためだった。

 西暦一八七年、秋――。

「これで、いい」

 腕組みした許淵は、南の門楼の上から得意げに邑内を展望した。

 北門近くの墻壁の下を通し、近くの小河川から水も引いている。許淵が中心となって再建した邑は、墻壁により有に二千家を囲繞いぎょうするに足る規模となった。六十間(約百十m)の間隔で住居や工房、田畑などの区画が見渡せた。今は墻壁の内側だけだが、やがては外側にも田畑を広げる算段だった。

 日々は平穏だった。邑の糧食も蓄えができつつあった。

「やればできるもんだな」

「ほかにやることもなかったからな」

 許淵の両脇で、張平ちょうへい薛宇せつうも顔に深いしわを浮かせて満足気に邑を見下ろしていた。

 穏やかな夕陽だった。

 南西の角楼では、許定きょてい許褚きょちょが遠方を監視するように目を凝らしていた。

「父上が築きたかったものは、これだったんだな」

「…………」

 何気なく言った許定に、許褚はただ、夕陽を眺めながらほほに風を受けていた。妙に清清すがすがしさを覚えていた。

「わかってるな、褚。この邑を守るのは、俺たちの仕事だぞ」

「ん」

 許定と許褚が、決意を新たにした時だった。

「こんなところで怠けてたのかよ」

 両手で頭の後ろを抱えている。皮肉な笑みを浮かせた張鴦ちょうおうが歩みを寄せていた。

 許林杏きょりんあんの手を引いた薛麗せつらんも一緒だった。

「定兄! 褚兄!」

 兄たちを見つけたとでも言うように、薛麗の手を解いた許林杏が笑顔で駈け出した。

 開け放たれていた四方の門が閉まる音が響いた。

 邑の中央付近には、ほこらが静かに建っていた。


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