表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
許氏の塢  作者: 熊谷 柿
第5章
16/20

形勢の傾き

 黄巾賊と許塢きょうの攻防は、一進一退だった。

 黄巾賊にとって厄介なのは許褚きょちょだった。四つの門のどれから、いつ出てくるかわからなかった。

 に矢を放ちながら、恐る恐る墻壁しょうへきに近づき、門を丸太で突こうとする。何度か繰り返しているうちに許褚が現れると、甚大な被害をもたらした。その縦横無尽な許褚に代わって、許淵きょえんが東門の指揮をっている。

 黄巾賊は、寄せては退き、退いては寄せることを余儀なくされていた。それが三日ほど続いた。夜間は攻撃を止めている。

らちが明かねえな」

 鬱屈うっくつとした戦況にごうを煮やした劉辟りゅうへきは、四方から火矢を射込むよう下知した。塢内は無傷で手にしたかったが、進展を見ない戦況に新たな一手を投じた形だった。

 それが、塢には利いた。

 四方から一斉に飛んでくることもあれば、一方から飛来することもあった。家屋に火が回っている。塢内の老夫や女たちは、降る火矢をも恐れず、張平ちょうへいを筆頭に消火に走った。

 だが――。

 遂には工房にも火が移り、食糧庫にまで火の手が回った。

「不覚。ときを見誤ったか――⁉」

 これに歯軋はぎしりしたのは、元緒げんしょだった。巫支祁ふしきの手札はもうない。紙片にあやかしを呼び込む霊気を込めるのに十日は要する。代わりに、許林杏きょりんあんと二手に分かれ、ありったけの護符を負傷者に貼って回った。

 不思議な護符だった。傷が治る訳ではないが、怪我をしたところに貼るだけで痛みが消える。これにより、負傷した若人たちが戦線に復帰していた。

 そんな折、南楼なんろうから矢を射続ける薛麗せつれいは、依然として精彩せいさいを放っていた。黄巾賊に向かって走る矢は、相変わらずの必中を見せていた。

「ここの難は、あの女と見た。誰か弓と矢を持ってこい」

 馬上の劉辟が指示すると、すぐに弓矢が手渡された。劉辟は門に向かって馬を駈けさせた。弓に矢をつがえ、狙いを定める。放った。

「ぐっ……!」

 宙を切るように走ったその凶矢は、薛麗の左腕に突き立った。

「よし! 一気に門をぶち破れ!」

 劉辟は、駈け回りながら黄巾の餓狼に号令した。勢いを増した賊徒が南門へ寄せる。

「これはまずい」

 南門の窮地に気づいたのは、元緒だった。元緒は咄嗟とっさ懐中ふところから人型の小さな白紙を二枚取り出すと、ふっと一息吹きかけた。

 すると、その小さな白紙は、見る見るうちに龍頭人身の妖し、計蒙けいもうに変化した。漆黒の襤褸ぼろまとい、剣を背負っている。二体の違いは、黒と白の剣の柄だけだった。

 二体の計蒙は、黄巾の荒波へ飛び込むように、そろって墻壁しょうへきから跳躍した。

「――――⁉」

 黄巾の賊徒は目をくと凍りついた。空から降ってきたのは、からだは人のようだが頭は龍の化け物だった。

「な、何だ――⁉」

 二体の計蒙は、固まった賊徒たちが動き出すよりも先に背の剣を引き抜くと、疾風はやての如く黄色の群れに身を投じて斬りまくった。手練者てだれだった。二体の計蒙が繰り出す閃光の如き剣筋は、どれも餓狼の首を虚空こくうね飛ばした。

 恐れを成した黄巾の賊徒は、折り重なるようにして逃げ出した。

 本陣に返した劉辟も異変を察知した。逃げ出す兵の先に視線を走らせると、そこには二体の龍頭人身が旋風のように剣を走らせている。

「珍しいな。ありゃあ、妖しじゃねえか? 塢の中に妖しを召喚できる方士ほうしがいるな?」

 涼しげな笑みを浮かべた劉辟は、馬から降りると二体の計蒙へ向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ