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授業中

 ――まぁまぁ。あの日から随分大きく成って。あらあら。私より身長が高いじゃない。あめちゃん食べる? ふふふ。あははは。


 と近所のおばちゃんムーブをしたら『僕が嫌いなの?』なんて十七歳男子に泣かれたんですが。それは。


 あれは誰よ。と会うたびにいつも思う。前回の無表情キャラどこ行ったんだろう。シュガーなんてブリザードを巻き起こしそうな目で聖王様――そう言ったらまた泣く――アドラーを見ているし。気にしないアドラーもアドラーだけど。二人が揃うと殺伐としていて怖い……。前回は……あぁそう言えば前回もなんか殺伐としていたわ。


 ははっと思わず乾いた笑いが漏れていた。


「シャロン・ハーバリストさん。式がおざなりですよ。増幅装置を付けているのですから、下手をすると爆発してしまいます。確り集中なさい」


 溜息交じりの声に私は顔を上げる。


 本日の授業は魔術の実習である。演習場で、生徒がペアになって攻撃魔術を打ち合うという基礎的なものだ。もちろん防御の魔術も兼ねている。


 そして、二人組なのに私は木に向けて練習って……。それに爆発するほど出力も出ないし。あら、ヤダ。向こうでうちの子が無双してる。と現実逃避してみる。


 そのまますっ飛ばそうとしたら先生に笑顔で肩を掴まれた。あ、これ、出来る迄返さないぞ。みたいな奴だ。


 泣く泣く『式』を練る。魔術は数学の計算式とも似てる。一定の法則があるため、その法則に従って式を頭の中で組めば大体同じ魔術を放つことができるのだ。


 まぁ。威力は置いておいてだけれど。


 ついでに練る事は得意だ。シュガーをずっと見ていたからかも知れない。


 にしても、ぷしゅうと消えかかった火を見て泣きそうになる。これでも増幅のブレスレットを付けているんだけど、どういう事なんだろう。


 せっかく可愛い弟がくれたものなのに。活かせなくて辛い。


シャラり小さく音をさせてはそれに触れる。手首のブレスレット中心にあるガラス玉が薄く輝いていた。


「シャロ。相変わらず魔力ないんだね」


 ……。


 ……なぜ、私の横にちんまりとこの国最高権力者が座っているのか分からない。先ほどまで居なかったよね。と教師に目を向ければ、『私は何も見ていない』という雰囲気で、無視を決め込まれた。


 ついでに言えば、聖王で在ることは教師と一部の生徒しか知らない。未成年である為、国からの公式発表は一切去れていない為だ。


 まぁ。その雰囲気で何となく察してしまうだろうけども。


「……何処から湧いて出てきたんですか? 今授業中では?」


「基本無視されるんだよね。引きっった顔で。何でだろう?」


 関わりたくないんだと思います。なまじ先生たちよりも『できる』から。


 基本聖王はこの国の中心にある大神殿で、大切に育てられる。外に出ることもなく、すべての危険から遠ざけて。基本教育も神殿の中。実際前回はそうして育てられていたはずだ。


 まぁ、前回は無理やり外に連れ出してたんだけども。……私たちが。だって『話し相手』として連れてこられたのに、話すことが無いんだよ。仕方ないよね。私たちは悪くない。


 ……。


 世話係の何人かはやっぱりロープを持って待機していたけど。あのままだったら歴史ある大神殿に世にも珍しいなんかぶらぶらしたものが飾られる所だった……。


 兎も角学校に通うなんてことは前代未聞だ。大体、聖王は何だって『知っている』。何だって出来るし、本来教わることも少なかった。実際この学年の主席は断トツでアドラーである。


 当然魔術だって……。ふと考えて私はパッと顔を上げていた。少しだけ驚いた灰色の双眸が見開かれる。


「あ。アドラー様。魔術のコツとか知りませんか?」


「コツの前に魔力量足りないよ。シャロは」


 悪気の無い純粋な笑顔で言わなくても。がくりと肩を落とす。それを見ていたアドラーは可哀相に思ったのか口を開いていた。


「あ、でも。手伝う事なら」


「え?」


 少し考えてアドラーはパッと顔を上げていた。


「うん。多分僕しか出来ないけど……。ねぇ、センセー。ちょっとハーバリストさん借りて良い?」


 何事と他の生徒が私たちを注目しているし、シュガーに至ってはその視線で居殺しそうにこちらを見ていた。


 まって。サボる宣言しているのは私ではないので。生徒には『何あの子』という顔をされ、先生は分厚い眼鏡をくいっと上げた。その眼鏡の奥は見えないが挙動不審に泳いでいることが何となく推測できる。


 何言ってるんだろう。この人。


「え。あの、いや――だめ、だめですよ。勝手な事をされては。授業中ですよ? ふ、フローリスさん。ハーバリストさんは貴方の足元にも及ばない――」


「そう。ありがとう。じゃあ、少し借りてくね?」


 いや、許可なんて誰もしてない、ないよね。先生の顔が引きつってるし。にこりと綺麗な笑顔を浮かべてもダメでしょうアドラー。私が何かを言う前にその笑顔のままかっちりと手首を掴まれた。何となく、手錠の様に見えたのは気のせいではない。


 有無を言わせない圧――っ。


「ちよ――」


「じゃ行くね。見せたいものも在るし」


 刹那。ぐらりと空間が歪んでいた。それと共に絶望じみた悲鳴が聞こえたのは――気のせいではないだろう。私は悪くないけれど、課題が増えなければいいな。とそんなことをぼんやり考えていた。


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