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かつての友人


 灰色の地味なローブには水晶と蔦をモチーフにした刺繍が縫われている。それはこの世界最大宗教『ユイリア=デリアス』を象徴するもの。神官は基本的にその宗教の神官を指している。これは前回と何ら変わらない。まぁ、浄化の力なんて当然無かったんだけど。在っても意味はないからね。


 ともかくとして神官が使うのは浄化――そして前回から在るものは癒しの力。生命が持つ回復力を利用して傷や病気などを治すというものだった。是も魔術と基本は同じ。けれど彼らのみが使えるもの。


 ユイリア=デリアスの神官たちだけに与えられる神さまの加護と言われてる。


 やってやらぁとばかりに治癒を身に着けようとしてもがいているのは私の天使。だけど未だに完成はしていない。副産物として物騒な術だけが増えていくような気もする。天使な顔して『中』から引き裂く様な魔術はどうなのか……怖い。あれはトラウマものだと思いました。


 ――神官は魔術も使えるのに。四つん這いになりながら悔しさに滲んだ声が思い出される。


「おちてる、ものなのかな?」


 訝し気にシュガーは言うと少年の身体を確認する様に覗き込んでいた。どうやら幸いに大きな傷はないみたいで安堵したのか軽く息を吐く。はっきり言って大きな傷であればここで死ぬのを待つことしか出来ないし、子供が死ぬのはいつだって夢見が悪い。


 クラベルは私の隣にドカリと座って、椀に並々と食事を注いでいる。うまそう。と言っているけど、うまそうだろうか。色は緑色でいかにも謎物体なんですけど。


 ……あ。


 美味しそうに食べてる。私の料理の方が美味し……くないのか。なるほど。


「どうする? クラベル兄。多分この子デリアスから迷い込んできたんだよね?」


 隣国デリアスはその名前だけあって、ユイリア=デリアスの本拠地。そこからすべての神官は世界に派遣されているから自ずとこの子もデリアスから迷い込んだと言うことは分かる。警護も付けずなぜこんな所――ある意味巣窟――にいるのかは無謀すぎて分からないけど。


 クラベルはスプーンを齧りながら天を仰いだ。少し雲がかかっているためか星は見えない。霞んだ月が浮いているだけだ。


「うーん。そうだなぁ。なら、デリアスまで送ってくか?」


 にっと悪戯っぽくクラベルは笑う。


 デリアス。そこはユイリア=デリアスの本拠地で在り聖地。そしてこの世界最古の国。神さまが創った国だと言われている。閉ざされた国で在り、神官の行き来を除けば他国から入ることは出来ない国だった。たとえ飢えた子供で在れど……。


 であるので内情は誰も知らず、噂によれば地上の楽園とも言われている。そこに行けば永遠の命すら得られるとも。


 ……それはもはや天国なのでは? 死んでないかな、それは。


 まぁ、天国かどうかは置いておいて、実際の所平和で豊かなのは間違いないんだよね。多少窮屈だけど。誰も飢えることもないし、凍えることもない。もちろん血を血で洗う事もない国だ。


 ……。


 改めて考えると禄でもないなぁ。私たちの母国。ははははは。はぁ。


「入れなくない?」


 シュガーは軽く水で濡らした布で少年の傷を手早く拭いながら言った。


 私の記憶が確かなら、多分入ることは出来る。だってこの子、デリアスにとって『特別』だから。


 アドラー・エッジ・フローリス。私の記憶が確かで、前回とその立場が揺らいでいないとなれば、少年は隣国デアリスとユイリア=デリアスの頂点に立つ者。


 稀人――聖王だ。


 ……つまり偉い人であり、今の時点で確か私たちと同じ年の筈だった。私の記憶に在る少年とは多少誤差が在るけれど。


 なんでここにいるんだろう。


 今頃デリアスのお偉いさん達は発狂してそうだなぁ。いくつか思い当たる知り合いは首を釣るためにローブとか買ってそう。


 早まっていないといいけどなぁ。と薄笑いしか漏れない。


 それにしても、今回は会わないと思っていた。この世界は前回と違うし、私も違う選択をしてきたつもりだった。だからこんな形で会うなんて思ってもみなかったんだ。


 かつての友人に――。


 いや、初恋だったかな。


 懐かしい景色が断片的に頭を過って少しだけ心が温かくなった。


「まぁ、その時はその時だろ。ただ働きは嫌なんで金でも貰うさ。こんなところから這い出したいし。いつまでも出来るわけじゃない仕事じゃん?」


 かたんと音を立て椀を空になった鍋に投げ入れる。そのまま煮ようとしたわけではなく、片づける為に鍋ごと持ち上げていた。


「さぁ、明日も早いよ。隊長達にバレないように動かないとだから二人とも早く寝ようか」





 夢を見た気がする。


 どんな夢だったか――思い出せないけど、私は泣きながら目覚めた。

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