私は貴方を救いたい
年末なので終わる・・・よ
ほへー。と間抜けな声を出して私は見たこともない大木を眺めていた。どれくらいの樹齢なのだろうか。幹は大人が何人も必要になるほど太く見上げれば天を覆いつくすようにして枝を広げていてた。その木漏れ日が心地いい。先ほどまでとは打って変わったように心地よい世界が広がっている。
「上手く行ったようだな」
振り向けば満身創痍と言っていいのだろうか。マニフィスが手をひらひらさせて近づいてきた。
というか。腹に大きな穴が……。向こう側が見えているんですが。足も骨が……。骨が。平然とするのを止めて欲しい。マニフィスは疲れた様に『散々だった』と独り言ちて壁のような幹に凭れ掛かりながら滑るように座りこんだ。
「さすが。加護持ち。平気そうだな?」
「ここ迄来れたことが凄いよ。君」
呆れたように言いながらゆるりと歩いてきたのはアドラーだ。銀色の長い髪を背でまとめ、いつか見た白い礼服を纏っていた。その身体もやせ細っているわけではなく、健康そうに見える。優し気に見える顔は聖人そのものだ。
マニフィスは訝し気にアドラーに目を向ける。
「……こじれにこじれ切った感じは無い、か? なんかもう少しこう面白げなことしたかったんだけどなぁ。まじでやってくれる」
「それでも此処へたどり着いたじゃないか」
凄いねー。と棒読みである。その顔は無表情。当然に褒めてはいないだろうな。
「腹立つけどな。まぁ。前に見た顔よりはいい。やめたやめた。動けねぇし俺は寝るから、勝手にやってろ」
ごろりと寝転がるまでを見届けてからアドラーは私を見た。
「シャロ――」
さあっと一陣の風に私は『あっ』声を上げて、アドラーの腕を掴んでいた。些か驚いた顔でアドラーは私を見る。
必死そうな私の顔が変だっただろうか。
いや。そんなことより。
「魔術式を解いてほしいんだ」
「うん」
「みんな、今とっても頑張っていて……」
「うん」
「って聞いてる?」
どうしてどこか嬉しそうなんだろう。
「大丈夫だよ。君たちがここにたどり着いたときに解除したから」
「そう、なんだ」
良かったと息を吐いてから胸をなでおろしていた。これで大丈夫だろうと。それを柔らかい表情でアドラーは見つめていた。かちりと目が合うと些か恥ずかしい。
「シュガーは天才だ。クラベルは強い」
「私の自慢の兄弟なので」
「で。二人とも僕の事は嫌いだと」
「……そうかな。そうかも」
そんなことはないよ。とは言えず愛想笑いするしかない。アドラーはふふと小さく笑って空を、木漏れ日を眺めている。特には気にしていない用で安心した。
別に二人とも本気で嫌っているわけではないと思うんだけど……。うーんと考えていた。なぜ嫌うのか思いつかない。何でだろう。
「ねぇ。シャロ」
「ん?」
「僕がこの世界から消えても。僕と幸せになってくれる?」
――一般的に人間は生まれ変わるとされているが、聖王は生まれ変わることは出来ない。だって神が作ったものだから。神のもとに帰るだけだ。
神さまの下へかぁ。
あ。でも。
「もちろん。何処にだって迎えに行くよ。ここ迄迎えに来たじゃない。一人にはさせないから」
ふと、私は地震の手元が気になって見ると更々と消えていくのが分かった。痛くも、痒くもない。ただその現実をぼんやりと見つめている。
「時が修正されて僕も君もこの世界から居なくなるから。続いた時間には僕も君もいない、から」
「うん。でも、アドラーはいるよね。私が居なくなっても。アドラーはまだいる。そしたら、私はまた走っていくから。ちよっと頑張ってくれれば」
えへんと胸を張る私にアドラーはぐっと口元を結んだ。そんなことは出来ないと言いたそに。
でもね。
別にあの時から時間が続くのであれば死なないはずだ。命とすべてを掲げた結果なのだから。何年になるかなんて分からないけれど。きっとそう。迎えに行くから。
「頑張って、て」
「それと」
ふわっと幾重もの声が風に乗って消えていく。泣いていた声も今は遠く。どこかで笑っているのだろうなと思った。
「ごめんなさい」
謝っても許されることではないし自己満足ではあるが。責めても。
「さぁ。帰ろう。貴方を皆が待っているから」
ぐんとアドラーの背中を押したとき、すべての視界が弾けて。
――消えた。




