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偽物聖女は世界を救いたい(希望)  作者: stenn
貴方と共に

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焚火


 本来の姿を取り戻した洞窟はとても静かだった。私たちの行く手を阻むものなどいない。ただ、冷たい風が通り過ぎていく。


「え、お前が初めからいればよかったんじゃね?」


 クラベルの魔術も解けたからという理由もあったが、休憩もそこそこに私たちは歩き始めていた。疲れがとれているわけではないが、内緒で回復――やってみれば出来る――を掛けておいたので少しはマシになるだろうか。なんか軽くなった気がするというのはクラベルの談。真剣に携帯肉を食べたからだと思っているらしい。


 そして刺さるように見てくるシュガーの視線に全力で誤魔化すしかなかった。小脇に抱えられて強制送還はやはり嫌だからね。


 兎も角。


 テノールは口を尖らせ、じっとりと不服そうにマニフィスを見つめた。


「五月蠅いわね。来れたら来てるわよ。ったく。ご存じの通り、私は怨妖にカテゴライズされるのよ。

人間すら通さないあのお城に入れると? 剣と置換するのもここ迄時間かかったのに。ここを私を褒め讃えるべきだわ。本当に殺すわよ?」


「さすがだな、人類史上最大の天才」


「王様に褒めていただいて嬉しいございますわ」


 ふふふ。ははは。


 二人の視線の間に花火が視えそうな気がしてきて私は目を揉んでいた。力を使ったせいで体力は衰えているけれど目も掠れてきた気がする。


 何だろうあの二人を置き去りにして前に進みたいんですが。


「でも、テノール様が天才だってことは本当だよ。姉さま」


「そうなの?」


「うん。魔術は元より生活にいろんな役立つものを発明しているし、政治については荒れ果てたデリアスの国土を平常に戻したことでも知られてる。まぁ――怨妖喰いがあったし、本人も時々暴れるわで相殺以上に悪名が響き渡っているけど……世界に」


「肉は旨くないよなぁ。よく昔血を抜いただけの肉を食べさせられた記憶があるけど」


 練習台の二人は遠い目をしている。でも決してまずいとも言わなかったし――顔は歪めていたけど――吐き出しもしなかった。最終的に調理法が確立したのは兄弟たちのおかげだと思う。私の舌は馬鹿だったしね。


 よくそんなもん食べたなぁ。とクラベルは感心している。大体私たちが確立する前はそんなことを考えた気配さえ無かったし。


「旨くないわよぅ。というか、私が食べていたのは魂の方」


「語弊が……食べるっていうか、封印したんだよ。その身体に。当時の半分の怨妖がその身体に封印されているらしいぜ。なので、テノール様が倒れたら当時のそれが溢れるって訳」


「えっと」


 ……地上には触れているのが本当は半分以下で、その他が地下にあって。


 現実逃避をする様にわざわざ指を立てて数えてみる。特に意味はないのだけれど。何度数えても『すごくおおい』という幼児の思考に陥って私は縋るようにシュガーを見た。頷くシュガーに眩暈を覚える。


 あ。世界が死ぬ。


「なので、こいつ倒してはいけないって訳。当代の聖王たちが面倒になって放置していたのもそれが一つの理由だと思う」


「いや、単純にどうでもよかっただけだと思うわよ。あいつら薄情だし」


「聖王様だもんなぁ」

 クラベルは何を知っているのかうんうんと言っている。雰囲気に合わせているだけのような気がしなくもなかった。


「ということは何かあってはいけないと?」


「守ってくれると嬉しいわ」


 いや。強いよね。強くない? 魔術使えるし。そして女子――自分でいうのは何だが――にいう言葉ではない様な気がする。


 まぁ、その顔は護りたくなる様な一番の美貌だけれども。芸術品に傷一つ付けてはいけない。そんな護り。


「倒される方が稀だろお前」


 そう言うのはマニフィスだ。


「アンタから倒してもいいのだけど? いてもいなくてもどうだっていいし。そう言えばなんでいんのよ。アンタ。きっしょ」


「俺だって当事者だろう? アイツに言いたいこともあるし。直接この手で――」


「お姫様。悪いことは言わないから、今すぐこいつ殺した方がいいわよ。そう言う趣味でもあるの?」


「いえ。あの。何となく?」


 そう言う趣味って、何の趣味だろうか。


 ともかく今更切り捨てるという事も出来なくて。一本道だし余計な体力ももう使いたくない。大体死なない気がするし。


 え。あのひと死ぬの?


 ちらりとマニフィスを見、そんなことを考えていれば呆れたように溜息一つ落とされる。


「浄化できるんだから出来るでしょうよ」


「へぇ」


 知らなかった。所詮は怨妖というところなのだろうか。


 けれどもはやそんなものはおいそれと使えないし、実のところもう私自身は『厳しい』というのを分かっていた。


「まぁ――、そうね。いいわ。特別に『何か』あればそれを私が切り殺してあげる。知っている通りそいつ本当に人間としては『塵』だから」


「全く持って酷いな。お前」


 にっこりと綺麗に笑うテノールにマニフィスは塵と言われて怒ることもなく、何処か挑戦的な笑みを浮かべてテノールを見つめていた。


 『は』と静かに息を落とすとテノールはゆるりと視線を洞窟の奥に向ける。ふわりと冷たい風がテノールの髪をかき上げて通り過ぎていった。



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