拾い物
ずるずると重い躯を引き摺りながら野営地にたどり着くと『姉さま』と弟が抱き着いてきた。すぐに『くさっ』と言って距離を取られたけど。とりあえず近くの川に漬けこんでから――ついでに私も――今日のご飯に在りつく。
その辺で採れた雑草。白米。その辺で狩ってきた動物の肉。それを水て混ぜ込んで煮たもの。味付けは塩と胡椒……。色は何とも言えない緑色。
……うん。いつもの。貧乏だし仕方ないね。この討伐も限られた予算しか国から渡されてないし。
「相変わらず、まずい」
焚火の前でずるずると音を立てる。私が遅かったため、皆自分の天幕に戻り休んでいるようだ。向こうで見張り番が居るが『話しかけんな』という雰囲気でなんか木彫りをしてる。ちなみにエドという名前で二十代前半。木彫りは好評で資金源の一つ。まぁ、これだけでは割にあわないので複数人が副業を細々としていたりする。
双方向からごーっと聞こえて来るのはいびきか……。うーん。五月蠅い。
「姉さま。怪我は? 痛い所とか」
私の濡れてしまっていた頭を拭いていた少年――私の天使は手を止めて私を覗き込んでいた。私より少しだけ濃いエメラルドの双眸。滑るように流れる蜜色の髪は凝り固まった私の亜麻色のくすんだ髪とは大違いだ。整った顔立ちはいずれ美しい青年に為るのを私は知っている。
ただ。なぜ今回は『姉さま』になっているのか……。未来はどうあれこの時期ならまだ『お姉ちゃん』という呼び名であるのに。どこかで少し前回が残ってるのかも知れないね。
それとなく調査したところ残ってはなさそう。覚えていれば、私の薄らぼんやりとした記憶保管出来ると思ったんだけど、そうもいかない。
「んー。少し打撲しただけよ。それより最後は、私?」
しっかしこれ全部食べていいのかな。……美味しくないけど勿体ないから。あと少しだし。お腹空いているし。あの怨妖をさばくには少し時間が必要だし。
「それが、まだ。クラベル兄が戻っていないんだ」
「へぇ。クラベル兄。珍しいね」
私たちの五歳上で同期の青年だ。姉弟のように面倒を見てくれて兄のような人。ちなみに私たちの同期は結構いたが逃げるか死んでいて、私たち三人しか居ない。
精鋭と言えば聞こえはいいけど、ただ運が良かっただけど思ってる。少しだけ落ち込んでしまった気分を振り切るようにして頭を振った。
「通信は?」
「返ってこないよ。――隊長の反応は捨て置けと」
いつも通りの反応に驚かない。そんなものか。とも思う。軽く息を吐いた。
「そ、か。じゃあ迎えに行こうか」
『よいしょっと』まだ若いのに呟くのはもう癖なので。中身が大人――特に何にもならない――なので仕方ない。でも何だろう。その不思議そうな――間抜けな顔は。私は肩を竦めて見せた。
「意外? でも、家族を迎えに行くのは当たり前でしょう? 大体クラベル兄も迎えに来てくれたじゃない」
迷子にも沢山なった。子供なので真っ先に狙われることも。だけどそれを助けに来てくれたのはクラベルだ。危険も顧みずに。自分だって子供だったのに。
なら、私たちだって助ける。昔より私たちは強い。助けになれるし。
ない胸を張ると弟――シュガーは目を瞬かせた。いい事言った。お姉ちゃんを尊敬しなさい。さぁ。私は偉大なの。たかだか十二年とは重みが……。
「あ。クラベル兄だ。お帰り」
重みは無かったらしい。
シュガーは私の横でひらひらと手を振って『心配したよー』と暢気に言っている。その向こうでまだあどけなさを残した青年が『ごめんなぁ』とヘラヘラ笑っていた。血まみれの剣を抱えて。その肩には獲物だろうか。にしては真っ白の二つの足が見えるんですが……。
それは美味しいですか?
「食べ物じゃないよ? シャロ」
よいしょと言う癖は私から移ったのだろう。クラベルは肩に載せていた荷を地面へと乱雑に落とすと『疲れたぁー』と伸びをする。
「え、この子」
そう。『この子』だった。どう見ても人間で、年の頃は私たちより少ないだろうか。幼い少年――いや、少女にも見えるが少年だ。白い肌に張り付く様な黒い髪。整った顔立ちはシュガーにも勝るとも劣らない。その服はボロボロであったが、纏っているのは見覚えのあるローブを纏っている。
あ――。
「落ちてたんだ。で、なんか怨妖に囲まれてたから助けるのちよっと手こずっちゃってさぁ。神官かなぁ。この服だし」