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偽物聖女は世界を救いたい(希望)  作者: stenn
偽物聖女

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再会

 第一区画。商店などが立ち並ぶ一角に救護院というものがある。けっして大きくはなく、大した事も出来ない民間の医師がいる所であった。そこに運び込まれた私は全治――一か月程。骨折が二か所ほどで、右肺と左腕を骨折しているらしい。


 絶対安静でベッドに括りつけられた私は同じ病室のお爺さんと見舞いに来ていたトトとネネでカードゲームに興じていた。


 ちなみにあの時の事件で運ばれたのは私だけではないが、他は重症なので別の救護院に運ばれたらしい。


「はいっ。上がりっ。私の勝ちですぅ」


「えー。もういっかい、もういっかい。ねっね。良いでしょう? 聖女ね―さま」


 泣きのもう一回。何度繰り返したかな? このまま続けると永遠に終わらない気がする。


「年寄りと子供に何ムキになってんだ。大人げないのぅ」


 いやいや。勝つ気満々だったじゃん。


 勝負は厳しいもの。負ける気はさらさらないので。


「いや、こんなことをしてていいの? あぁあ、ネネ。オレのカード取るなよぅ」


 今日も和やかな一日だった。あれから一週間。意図せず発した大魔術――多分――の威力はすさまじいものだったらしく、首都にいた怨妖の遺体がゴロゴロと道端に落ちていたらしい。曰く浄化もされているらしく、ただの獣の遺体と言っても差支えなかったと聞いている。


 肉に困らないな。と嬉しそうに会長がほくほくしていたのを思い出した。肉が。まともか知らないけど貴重な肉が手に入るからね。


 あの人型の元はどうにもならないだろうけど。街の外にある共同墓地に埋葬されるだろうなと思う。今回の犠牲者と共に。あの人自体は悪くないから。


 にしても凄いな私。聖女だわ―。わはははは。と思わず棒読みしてしまいそうになる。


 だって私の力でもなんでもないから。


 そんなことを考えていると、私たちが遊びに興ずるベッドの前に一人の男性が仁王立ちで立っていた。医師を表す白い衣服。黒い眼鏡のガラスがギラリと光る。その下の両眼は見えないが怒っていることだけはなんとなくわかった。


「あ。院長先生」


 ここで唯一の医師であり、院長である男はじろりとお爺さんを見た。『ぁあん? お前何してんの?』みたいな雰囲気だ。


「じ、じゃあわしはここで」


 あ、逃げた。そそくさと自分のベッドに。


 にしても、無言の圧で見送っている医師が怖い。お爺さんはお爺さんで風邪を拗らせてこないだまで寝込んでいた人だ。帰れと言われているに居座っている負い目もあるのだろう。


 ワザとらしい溜息と共にくいっと眼鏡を押し上げている。


「ここは遊び場ではありませんが? 宿屋でもありませんよ?」


 暗に『遊ぶなら出ていけ』だろう。


「うぅ……ごめんなさい」


「なさぃ」


 私の言葉にネネが続き、トトは頭を軽く下げた。『すいません』と私たちより立派に謝っている。少しだけ戸惑ったように『まぁ、良いでしょう』と院長は言うと、ポンとトトの頭に手を置いた。『君たちは悪くないので』と優し気に付け加えるが、私を見る目。


 厳しくない?


 ぶつぶつ心の中でいじけていたが、院長は咳払い一つ。


「そんなことより、貴方に面会したいという人がいるのですが」


 『はぁ』と私は曖昧に返事をしていた。別に改めて言う事なのだろうか。それは。会長も、街の人たちもずかずかと他の患者に構わずに入ってくるし。適当に話して適当に帰っていく。院長に話を通す人間はまずいなかった。


 そう言えば、このカードを置いて行ったのも街の人だと思う。


 私悪くな……いや、ごめん。


「そりゃそうでしょう。あれだけ『やらかせば』聞きたくなる人もいるでしょうよ」


 ぁあ。大展開した術式の事で聞きたいと言う事か。と察した。普段何もしない国の人間だろうか。むしろ今まで聞いてこなかったのが不思議なくらいだった。


 でも。何度も言うように私の成果ではないので話せることはないんだよなぁ。


 もう一回。と言われても絶対にできない。相変わらず私の魔力は無いのに等しい。増幅器が無いために、光さえ作り出す事も出来ないし。


 まぁ。説明して分かってもらうしかない。


「わかりま――」


「姉さまっ」


 私が言い終わる前に入ってきたのは神官服を纏った青年だった。見覚えのある蜜色の髪。顔も見る迄なく、ぐっと抱きしめられていた。


「シュガー?」


 なぜここに。と問うても本人は無言のままである。泣いているのか、死も思ったけれど――。


 ……。


 ……いや、これ。絞め殺す気だ。


 助けて。


 べしべしと背中を殴りながら、視線を揺らして助けを求める先に見たのは、これまた見覚えのある黒い髪で。こちらもなぜか神官服。よほど面白いのか笑いを堪えているようだ。なぜ神官服を来ているのか知らないが似合いすぎて腹が立つ。


 あの分では助けなどしないことは明白だった。


 あいつ……。


「うがぁ」


 声にならない声が漏れる。その横でシュガーが低く、低く。まるで呪いを込めるように呟いていた。


「もう逃がさないからね」


 ……。


 ひぃいいいい。怖い……。


 うちの天使がまた一つ壊れたようです。助けて。助けを求めるように見回したがトトとネネにかっこ悪い所を見せることは出来ないために顔を引きつらせるしか無かった。



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