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偽物聖女は世界を救いたい(希望)  作者: stenn
偽物聖女

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絵本

絵本の下りは読み飛ばしてもらって・・・読みにくいので

『勇者と木の洞』


 ぼくらのくににはおおきなあながあいています。


 そのあなからはみんなをこまらせるあくまがすんでいました。


 だけれどあくまはみんなをこまらせたくありませんでした。ただ、みんなとなかよくしたかったのです。ただ、そのためのくちも、かんがえるあたまももっていません。


 だからあくまはみんなをこまらせてここにいるとおもわせるしかなかったのです。


 それから、なんねんも、なんねんもきらわれてきたあるひ。あくまをころすためにゆうしゃがたちあがりました。


 うらやましい。あくまはおもいました。


 みんなからすかれて、わらいかけられて。けれどあくまはひとりぼっち。ずっとずっとひとりぼっち。


 このままきえてしまいたい。くらいあなのなかでなくのです。


 そんなあくまにゆうしゃはいいました。


 おとなしくころされるなら、ともだちになってやってもいいと。あくまはともだちがほしかったのです。ひとりはいやだったのです。


 だから、たおされました。ふういんされました。


 あくまはわらいかけてくれるともだちがほしかったからです。


 つめたいきのした。つめたいつちのなか。いつか、いつか。ゆうしゃが。ぼくのともだちがむかえにきてくれるとしんじて。


 ずっと、ずっとまっているのです。


####


 えぇ。なんだろう。これは。


 困惑しかない。一体、子供にどうしろと言うんだろう。何の希望もないし。この悪魔がただ、ただ可哀相な絵本なんですが。そして勇者が畜生だ。


 当の子供たちはつまらな過ぎて途中で寝てしまったし。山場は何処にいったんだろうか。あぁ。でも簡単な文字ばかりだから覚えるのには良いのかな。


 ついでに言えば絵は可愛らしいし綺麗だ。所々擦り切れているし落書きまであるけど。


 遠い目をしながらぱたんと本を閉じた。


「……よし。違う子に回そう」


 私は決意を込めて言うと、目の前の影に視線を落とす。


 小さなベッドに兄弟二人仲良く眠っている。その子たちに布団をかけて、カンテラの灯りを消した。


 カタカタと窓が揺れ、寒さで軽く曇っていた。外はさらに気温が下がったようだ。この部屋も直に冷えるだろう。布団を念入りに確認してから二人の頭を順番に撫でると『ままぁ』と嬉しそうに身動ぎするのが少し切なかった。


 私は部屋の扉を音もたてず閉めると近くの椅子に腰を掛ける。静かな部屋。ぱちぱちと暖炉の中で火が爆ぜた。


 残ったスープは……。明日頑張ろうと決めて蓋を閉めていた。


 今日はもう寝ようかな。疲れたし。そんなことを考えつつ欠伸を噛み殺していると、扉が慌ただしく叩かれるのが聞こえる。


 食堂ではない――この家のだ。


 うるさい。このまま居留守をとも考えたが子供たちが起きるのも困ると考えて、『ああ、もう』と切れ気味に立ち上がる。


 どう考えても聞きなれた声に『仕事』の予感。しかも何処か緊迫しているように思えた。


 なんだろう。どことない不安を感じる。


「聖女のねーちゃん。ねーちゃん。いるんだろう? ――つと」


 端む扉を開ければ、予想の通りでそこには先ほど別れた会長が立っていた。いつもは酒をいつも嗜んでいる赤ら顔であるのに今は酷く青い――いや、白いだろうか。しかも表情が固まってしまっているから尋常でないように思えた。


 こくりと息を飲んで、ほとんど無意識に壁に掛けてあった外套と剣を取る。


「なにがあったんですか?」


 訝しむ様に見れば、会長は慌てて口を開いていた。


「あ、あぁ。『人型』が出たんだよ。俺たちじゃ無理だ。つかれているところ済まんが……このままでは第七区画の人間が全滅する」


 第七区画。此処の区画から斜めに行ったところにある区画だ。それほど遠くはない。基本細かく地区構成されているだけだから。


「戦況は?」


「使えるやつらは出て戦っているが――たぶん」


 眉を顰めて言葉を濁す。それは最悪の状況と言う事だろう。


 この街の人間のほとんどが戦えない。『まとも』な人間は兵に取られるからだ。それでも何とか対応はしていたが、私より強いものはいないんではないだろうか。ちなみに私が過去にいた狩りを専門とする集団は料金が高く――知らなかった――依頼出来ないのだという。


 というか。数少ないのに、どうしてここに現れるんだよ。と愚痴りたくなってしまう。


 自慢ではないが、私だってそれほど強くはない。あの時だってクラベルがいたから何とかできただけだし。一般人に毛が生えた程度とクラベルには評されている。


 人型……。


 テノール程の化け物だとは思わないが。凄く倒せる気がしない。むしろ倒される予感しかなかった。


 体力は既に削られているし、また死ぬかも。それは少し怖い。やっぱり怖いな。とも思う。実際どれ迄生きられるかもう分からないし。


「聖女のねーちゃん。ダメか? 俺たちにはアンタしかいねぇし。頼む聖女様。何とか助けてくんねぇか?」


 パンっと勢いよく手を合わせて頭を会長が下げている。そうは言われても。


 うーんと考えて。まぁ本当に私しかいないのだし。と溜息一つ。大概人が良くない? 私。シュガーが知ったらまた怒るだろうなぁ。


 ……ふと思い出したけど、アドラーは泣くかもしれない。いや、泣くかな。何となく確信が持てた。


『絶対来るって言ったのに――どうして』記憶の隅にかかる苦い記憶。私の声ではない低い声だ。でもそれがいつの事なのかは思い出せなかった。前回であることは確かだけど……。まぁいいや。


 大丈夫。と呟いてから顔を上げる。


「皆の避難を中心に。私、危なく成ったら逃げますので」


 手早く外套を羽織ると冷たい空気が漂う外に出る。


 昏い、暗い空は――曇り始めていた。


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