表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

黒い波

アクションシーンは省きます・・・蛇足と間延びしかないので()

技術が欲しい・・・

 いつの間にか空が曇っていた。低く重たい雲は冷たい空気を運び雨が降り出しそうだ。美しかった光景は見る影もない。陰鬱とした雰囲気と何処か腐ったような臭いが充満している。


 まだ昼で、夜ではないはずなのに、風景に落ちるのは暗い影。その影の間には爛々と不揃いな光が輝いていた。


 感じるのは殺気。ピリリとした空気に息を飲んでから私は剣を構えていた。ぐるると低く唸るような声が聞こえてくる。


「――つ」


 ――怨妖。


 普段群れることもないそれは、何処から現れたのか、いつから居たのか。確かなことはテノールが消えたと同時にその存在を表した。


 魔術、だろうか。そんなものを怨妖が使えるとは聞いたこともなかった。テノールに対しては規格外ばかりだ。


「本当に何者なの、あいつは」


 愚痴が思わず口を付いて出る。


 しかも多すぎて数えられないし。


 それは黒い波のように見えた。あんなものこの先の街に進んでしまえばひとたまりもなく蹂躙されるだろうことは私にも分かる。


 ここで食い止めないと。さすがにあの数に勝てる見込みは私にもない。頭に過る最悪を軽く振ってから口を開いていた。


「――聖王様。これは提案ではないです。逃げてください。さすがに守り切れません。兄さまと私でも――」


 クラベルは私よりも――というかこの国で上澄みの方だ――数段強いが、多勢に無勢。どのくらい持たせるかが勝負のようなものだ。


 どのくらい耐えれば加勢が来るだろうか。と私はぐっと口元を結んだ。


「いいや。言ったでしょう? ここで食い止めるって」


「何言ってんですか。馬鹿なんですか?」


 おっと。思わず本音が。それに気づいているのかいないのかアドラーは口を開く。


「それに僕が消えても問題は無いよ。聖王の『代わり』はすぐさま用意されるからね」


 言いながら私の背中合わせになっていたクラベルの横に立った。パリっと電流のようなものが手の手に走っているのが見える。風もないのにふわりと黒い髪が巻き上がった。その目は真っ直ぐに群れを射抜く。


 自身で言った何気ない言葉など気にも留めていないように。


 でも。と私は歯噛みをする。


「……」


 聖王は死ねば『次』が現れる。何事も無かったように。でも、だからと言って個人を軽んじていいはずがない。死んでもいい。なんて思わないで欲しかった。だって私はそう思っていないのだから。


 アドラーはアドラーで大切な友達で。


 大体……前回からどうしてその思考は変わっていないんだろう。


 あれほど言い聞かせたのに――。いや、今回は何も言っていないけど。兎も角、腹立たしく思えた。


「クラベル。前衛は任せるよ。僕は後衛を。シャロは取りこぼした奴らを叩いてくれる?」


「聖王さ……つ」


 抗議しようとして、口を開いたところにクラベルが止める。そんな場合ではない――と。


 確かに、今はそんな場合ではないが。とぐぐっと口元を結ぶ。ちらりとクラベルは私を見、アドラーに目を戻した。


 生きていたら後で絶対に文句を言ってやる。


「死んだら盛大に称賛しますよ。国を上げて」


 何処か厭味の混じった様なクラベルの声に『はは』と声を上げてアドラーは困ったようにして笑う。


「もちろん、死ぬ気は無いよ。僕がしなければならない事をまだ何一つしていないしね。それにテノールに聞かなきゃいけないこともあるし。テノールは面倒になって逃げた気もするけれど」


 テノールの姿は辺りを見回しても何処にもいないようだ。どこかで見ているのだろうか。なんだかそれも腹立たしかった。


「兎も角。目の前のコレ。どうにかしようか」


 ピリリと糸を張った様な空気が漂っていた。睨みあいと言うもので、多分きっかけさえあればなだれ込んでくるだろう。


 というか、痺れを切らしたように向こうはよくわからない唸りを上げているけど。ぽたりと落ちた涎は地面を濡らしている。


「……春には元に戻りますかね」


 アドラーは軽く目を細めた。その光景を夢想する様に。微かに口角が上がる。そのまま私を見ると柔らかく笑った。


 ……。


 私は息を飲んでいた。これは――いけないと思う。


 いけない――。


 勘違いをしそうになる。


 私はぐっと口元を結んだ。


 ――違うのに。脳裏に微かに過った画像は何だったか。それはすぐに霧散して消えた。


「そうしたら一緒に来よう? きっと綺麗だよ。それまでに浄化しないと……」


 ぽつりと雨が頬に当たった。ざりっと足を踏みしめる音は何処から出たものだろう。


 刹那――なだれ込む様にして怨妖が駆けだし、私は、私たちは地面を蹴っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ