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偽物聖女は世界を救いたい(希望)  作者: stenn
聖都へ

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人型

ゲームしてた・・・

人型の怨妖は滅多に現れることが無い。一説によると怨妖が発生したとき、その周りには森しかなく人が住んでいなかったそのため獣の姿をしているのだという。そのまま人里に降りて退治され、その時に人に憑依するらしい。尤も他に生物がいなければ。の話しであるが。


 兎も角として、憑依したのが普通の村人だったら良いんだけど。大体は屈強な兵士だったりする。だって彼らが率先して狩るから必然とも言える。


 で。払われずに凝縮した結果。


 ――最強が出来上がるらしい。


「この国自体聖地では無かったかな?」


 ね。聖地。聖地。せいちって何か知ってる? そのおかげか怨妖なんてほとんど出ないのに。たまに出るそれを狩るのが最近の楽しみだったのに。


 しかも。


 目の前の怨妖は美麗な青年だ。普通怨妖になって仕舞えば外見の美しさなど消え去る。異形のものになり果てる者が多い。まるで『私が怨妖です』と挨拶しているみたいに。だけれど、この青年はどうだろうか。街にいてもそれほど変わらない。ごく普通――と言うよりは目立つ整った顔立ちをした青年だ。まぁ、私の天使と、神の領域と呼ばれる聖王には劣るけどね。


 黒い髪と両眼はまるで闇を纏っているようだ。白すぎる顔は青い――人形と言うよりは死体のようだ。年の頃は私たちより上。二十代前半の青年だった。


 優し気な面差し。けれどその纏う雰囲気は聞か寄りがたく、その踏みしめた土からジワリと何かが広がるように草が枯れた。それだけでも『人』ではないことは明らかであった。


 これは良くないものだ。私に手に負えるだろうか。


 引きっった顔を冷やすように冷たい風が通り抜けている。


 笑えないよね。これ。相手は笑っているけど。


 笑う?


「まぁ。例外もいるわよね。初めまして、かな? そっちの聖王様も」


 よく通る低い声だ。たけれど心を冷やすような不気味さを感じるのはなぜだろうか。いや、喋り方。


 ……ん?


「喋っ――」


 驚いて声を上げようとした私を庇う様にしてアドラーが前に立っていた。にっこりとこちらは聖王の笑顔。何もかも浄化しそうな笑顔で、眩しい気がする。


 ……ま。相殺されるけど。


「初めまして。テノール様だったかな?」


「わぁ。知っていてくれたんだ。嬉しいわ。聖王様」


 うふふ。と笑う仕草は人間のようだ。


 いや。この人――怨妖なのだろうかと疑念がよぎる。人でないことは明らかだけど、基本自我をほとんど無い怨妖。脳が生きているかも怪しいのに。だいたい涎をだらだら垂らしている子が多い……。


 涎は出てないし、臭くない。でも怨妖特有の気配のようなもの――私の勘だけど――はそれだと告げている。


「当たり前ですよ。君何年僕ら(・)が探してきたと思うんです? 会いに来てくれて嬉しいですよ」


「まぁ、熱烈。ふふふふ。歴代に好かれるなんて。私は付いてるわね」


 ついでにテノールはどう見ても青年である。顔は整って中性的な美男子であるが、その身体は分厚く、筋肉が付いているようだ。その腰には長年使い込んでいるような剣がベルトで固定されていた。剝き出しの剣はくすんでいて、所々錆びているようだ。手入れはされていない。


 柄の茶色の塊は何……いや、何でもないです。


「当たり前ですよ。尊敬してますし。聞きたいことも在ったんですよ。良かった。出向いてくれて。あ、ついでに聞きますが、ここに来たのは僕らに聞きたいことがあって。ですか? 偶然では無いでしょう?」


 尊敬にしては――何だろう。朗らかなのにピリピリしている気配がある。気を緩めるな。そう言われているようで、私は持っていた剣の柄をぐっと握っていた。


「あらぁ。失礼な子ね。警戒しなくても良くない? 私は貴方のお姫様の気配がしたので見に来ただけよ」


 『ねー』と同意を求められましても。引きっった顔で『はぁ』と曖昧に答えるしかない。大体『姫様』って何処にいるんだろうか。剣を持っている私かな。


 ……。


 ……ないな。多分、今年の聖女だから幼馴染のよしみで連れてこられただけだし。そう言えば魔術練習はどうなったんだろう。まぁこの状況だから仕方ないけれど。


 ちらりとアドラーを見れば表情の読めない笑顔を相変わらず浮かべている。


「ごく普通の子よね。聖女でもないし」


 でしょうね。


 基本聖女は一目見ただけで『それ』だと分かるらしい。感覚的にも外見的にも。歴史書にある容姿のすべてが美しく、太陽の光を一心に受けたような人と描かれている。


 だって神さまの生まれ変わりだし。


 どちらかと言えばシュガーの方が近い様な。少し落ち込んで顔を上げた。


「こ、今年の聖女なので」


 黒い両眼が覗き込んでその闇の深さに『ひゃっ』と小さく声を上げそうになってしまった。そこが見えない闇は本能的な恐怖を掻き立てる。それでもぐっとすべての感情を飲み込んでいた。


 さらりと黒い髪が頬に触れると微かに腐臭がしたのは気のせいだろうか。


 『ふぅん』と覗き込んでいた美麗な顔は肩眉を不思議そうに跳ね上げた。


「あら、でも貴方――」


「そこまでですよ。せっかくなので僕の質問にも答えてくださいよ。テノール様……その首落とされたくなければ」


 同時――。ひゅっと風を切る音が耳に届いていた。見えるのは銀の一閃。


 ごとりと鈍い音。


 声もなく、まるで時が止まったかのように黒い血をまき散らして落ちたのはテノールの首であった。それを私は現実味無く、アドラーに至ってはニコニコと笑顔を浮かべたまま見つめていた


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