【05】 「ゲーティス到着」
"商業の街"ゲーティス。
それはガイア帝国の東側の国境から319km南東に進んだところにある街だ。
ガイア帝国とその他の国を結ぶ街として栄えているのだ。
「……ただ、様々な国の人たちが行き交っているので治安がそこまで良くないんですよ」
ハンナそう付け加えた。
たしかに、このゲーティスという街はかなり雑多な印象を受ける。
商人のみならず、冒険者が多い街でもあるらしい。
「マリさんはどこに行ったのでしょうか?」
そうだよな。
まずは激怒して先にガーティスに入ってしまったマリを探さないと。
「ジュウォンが怒らせたんだから、ジュウォンが探してよ」
ジュウォンは「えー」みたいな表情をした。
すごく面倒くさそうだ。
「……十中八九、杖の店に向かってるんだろうね。
でもね、マリのことだ。
どうせ土地勘のない街で裏路地を通って、無理矢理ショートカットしようとしてるんだろうね。
案の定、道に迷って迷子。
困ってる所で悪い輩に目を付けられて、子供と間違われて人攫いに遭うんじゃないか?」
「おぉ……」
「……なんか想像できます」
俺とライサが感嘆の声をあげる。
ジュウォンが予想したシーンが妙にリアルだったのだ。
うっかり屋さんのマリなら全然ありうる。
「もちろん、マリならそこら辺の輩くらいは魔術で倒せるけど、いかんせん杖がないからね」
たしかに、そこは心配だ。
早く見つけてあげないと。
というよりジュウォンもなんだかんだマリのことを理解してるよな。
犬猿の仲だと思ってたけど。
「……こっちからマリさんの匂いがします」
ライサは鼻をクンクンとさせながら、裏路地の方へ俺たちを案内した。
ハンナが不思議がる。
「どうしてマリさんの場所が分かったんですか?」
「私はね、犬系の獣族だから嗅覚が人間の約3000倍あるんですよ。
だから馴染みあるマリさんの匂いはすぐ分かるんです」
それを聞いたハンナが尊敬の眼差しでライサを見つめていた。
ライサは少し尻尾をフリフリした。
彼女も尊敬されて気分がいいようだ。
そうだぞ、うちのライサはすごいんだから。
でもなー。
嗅覚がありすぎるのも問題なんだよね。
この前なんか、酒場でたまたま居合わせた女冒険者と一緒に飲んだあと、宿に帰ったら冷たい目をしたライサに「ふーん、魔王討伐の旅なのに女の子にうつつを抜かす余裕があるんですね」と言われてしまった。
俺から別の女の匂いがしたのだろう。
「エッチなことはしてないよ」と言うと、顔を真っ赤にして「知ってますよ!」と怒鳴られてしまった。
ライサと結婚する男は浮気できないな。
三人はライサの後をついていきながら歩く。
すると突然、曲がり角の向こう側で甲高い女性の声が聞こえた。
聞き馴染みのありすぎる声だった。
急いでその路地の曲がる。
その声の主は……
「ちょっと離しなさいよ!」
「ぐへへ、いいじゃねぇか」
「げへへ、俺たちと遊ぼうぜ」
「うへへ、ちょっとの間だけだからさぁ〜」
その声はもちろんマリだった。
彼女は三人の柄の悪い大男に絡まれていた。
三人ともすごく悪そうな顔している。
マリは男から掴まれた腕を引き離そうとする。
……えぇ。
「……言っとくけど仕込みじゃないからね」
ジュウォンが誰も何も言ってないのに言い訳をする。
さっき想定した通りのことがまんま起きているのだ。
「あんたたちとなんか遊ばないわよ! 杖を買わなきゃいけないんだから!」
「ぐへへ、おじさんに付いてくれば杖買ってあげるぜ」
「うそつけ!」
マリが必死に拒絶する。
……いや、マリも大変なんだろうけど。
なんだか、あのやりとりがコントみたいに見えてくる。
「……なんかマリって生き様が面白いよな」
「マリの人生って、近くから見ても遠くから見ても喜劇だからね」
「それただの愉快な人じゃん」
「2人ともふざけてないで助けないと!」
ライサからのお叱りを受けた。
マリが強いからといって余裕こいていた。
すまんすまん。
「そこの三人組、おやめなさい!」
ライサは堂々と声を張り上げた。
実はライサ、かなり正義感が強い。
ちょっと前までは、自信を失ってネガティブな状態になっていた。
「死にたい」と言うくらいには。
しかし、妖精討伐を通じて久しぶりに自信を取り戻したのだ。
つまりポジティブライサ、ポジサなのだ。
ポジサになると、彼女は騎士道精神溢れる正義漢となり、人を選ばず助けたり、正々堂々といった戦いを好むようになる。
「男三人が女性一人に卑怯ですよ!」
「ぐへへ、そういうお前らはいったい何なんだよ」
真ん中の男がニヤニヤしながら聞いてくる。
ふふふ、よくぞ聞いてくれた。
俺はライサの前に出る。
そしてジュウォンとライサに合図を送る
”あれ”をやるぞ、という合図だ。
二人はこくんと頷いた。
「聞いて驚くなよ……なんと……俺たちは……!」
見してやるぜ、俺たちの伝説の名乗りを!
「俺たちは! 皇帝より直々に魔王討伐を任命された最強の四人組……」
そう、これは俺たちが裏で散々練習した名乗りのポーズ……。
それは、英雄を目指す俺たちにとって必須のものだった。
マリは恥ずかしがって練習にあまり参加してくれなかったが、俺は気に入っている。
……ヤツらにもこれを見せてやる。
「セカンドパーティーだ!!!」
「・・・」
ふふふ、決まったな。
かつてないほどの完成度のポーズだ。
ライサもドヤ顔でポーズを決めているし、ジュウォンも決め顔をしてくれてる。
ただ、なぜかマリが顔を真っ赤にして、他人ですよみたいなフリして目を逸らしている。
おいおい、なぜ目を逸らすんだい。
俺たちは君を助けにきたんだよ。
「ダ、ダサい……」
ハンナはかなり正直な感想を漏らした。
結構マジメな顔してそう言っている。
そう思われたのはちょっとショックだった。
チンピラの三人はほとんど動じなかった。
「お前ら、あのセカンドパーティーか……でも関係ねぇな、別に悪いことしてるわけじゃねぇんだぜ」
チンピラは余裕の表情だ
ちょっとはビビって欲しかった。
あ、でもセカンドは知ってるんだ。うれしい。
「でもな、あいにく『ファースト』のことしか知らないんだ。お前たちのことはよく知らん」
・・・。
また、”兄”か。
ずっと昔からそうだ。
みーんなファーストファーストばーーーっかり。
だれも弟と妹のことなんか見てくれない。
いい加減慣れてきたが、ずっとモヤモヤしている。
世間は俺の兄貴をことを「英雄」だと称えている。
うげぇ、としか思わない。
あんな偽善者のどこがいいんだか。
マリも、ジュウォンも、ライサもそのセリフを聞いて暗い顔をした。
俺たち四人はずっと「ファースト」に対する確執がある。
四者四様の劣等感とコンプレックスがある。
なにもマリだけじゃない。
みんなその想いは共有しているのだ。
だから兄より弟の方が優れていると、世間に示さねばならない。
『「セカンド」は「ファースト」よりも先に魔王を討伐する』
これがセカンドパーティーの目標であり、結成理由である。
───突然、俊敏なウサギのように駆け出した者が居た。
ライサである。
彼女は一瞬で一人のチンピラに向けて走り、剣の平な面を相手に向けた。
そして、その面を男にぶつけた。
「ぐぉっ!?」
チンピラはあっけなく倒れた。
俺もそれに続く。
瞬時にもう一人の男に近づき、一瞬で蹴りをお見舞いしてやった。
「がはぁっ!?」
苦しそうに蹴られたお腹を抑えて、ノックダウンした。
「マリ! 頭を下げろ」
叫んだのはジュウォンだった。
その右手にはすでに魔拳銃が構えられている。
マリが瞬時に頭を下げる。
彼女を取り押さえていた最後のチンピラが、ジュウォンの射線に入る。
───魔拳銃から灰色の弾が噴出し、一直線にチンピラへ向かう。
直撃。
男のオデコで灰色の弾が破裂。
そこから漏れ出たのは、薄茶色の粉末だった。
モクモクとしたものが空気中に広がる。
殺傷能力はない。
これは……
「ブェェッックション!!ブェェッックション!!」
「ふふふ、流石に強力すぎたかな?」
チンピラはくしゃみをしまくる。
そう、これはジュウォンお手製”鬼胡椒”と呼ばれる非常に強力なスパイスなのだ。
しばらくくしゃみが止まらなくなるだろう。
男の手が緩む。
その間にマリはするりと男の手を抜けて、俺たちの元へやってきた。
「はぁ……はぁ……ありがと……」
マリは目を合わせず感謝を述べる。
やっぱりまだ気まずいと思っているのだろうか。
そして、マリはジュウォンの方をちらっと見る。
「……」
「……なに?」
少し見たあと、プイッと目を逸らしてしまった。
まだ仲直りできないらしい。
「ブェェッックション!!ブェェッックション!!」
リーダー格の男はまだくしゃみをしている。
可哀想だけど自業自得だな。
そう思っていた矢先だった……
「キャァァァァ!! ガボン会長!!」
甲高い悲鳴。
俺はとっさにその方向を見る。
そこに居たのは、見知らぬ女性だ。
その悲鳴の主の女性は口に手を当てて、愕然としていた。
その女性はなんだか性格がキツそうな秘書のような見た目だった。
彼女は横たわっていたリーダー格の男に駆け寄る。
ん? 今なんて言った?
ガボン会長?
秘書風の女性は俺たちを睨んだ。
「あなたたち……ガボン商会の会長である、ガボン様にいったい何を……」
俺たちはポカンとするほかなかった。
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