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【02】 「ぽんこつパーティー」


【登場人物】

■セカンドパーティー

「ルドラ」   (18)男 戦士

 南の貴族の次男 リーダー 両手斧 やや褐色 黒髪

「マリ」    (18)女 魔術師

 西の貴族の次女 金髪ボブ 

「ジュウォン」 (18)男 治療師 魔拳銃使い

 東の貴族の次男 緑スパイラルマッシュ 

「ライサ」   (17)女 剣士

 北の貴族の次女 犬系の半獣族 茶色い長髪 


「ハンナ」   (17)長老の孫

「全体的にふわふわしてて可愛い(ルドラ評)」 

「長老」 (81)ヴォンガ村の長老 


「妖精」

 緑の肌と真っ赤な目、虫の羽を持つ。鱗粉撒く。80匹。

「ハクイノシシ」

 真っ白なイノシシ。体長はルドラ三つ分ほど。





 ファーストパーティー───。


 それは、ガイア帝国の帝王より魔王討伐の任を受けた四大貴族の長男長女によって結成された、人類最強のパーティーである。


 世界最高峰と名高い弓使い、

 人類の到達点と噂される剣術を持つ剣士、

 世界一の魔導王と称される魔術師、

 覇王という二つ名に相応しいリーダーの戦士。


 彼ら彼女らは破竹の勢いで魔族を撃破し続ける。

 いずれはその刃は、魔王の喉元へ届こうとしていた───。







「マリ! ちょっと来てくれ!」

 ルドラは必死の形相でマリを呼び寄せる。


「え、なになに!? 一体どうしたの!?」

「いいから早く。マリが必要なんだ!」


 私は目を丸くさせて困惑していたが、そんなことお構いなしに彼女の手を引いて長老の家を出る。


 夕暮れの淡い光が二人を照らしていた。

 ルドラの硬くて大きな手が、私の小さな手を包みこんで、どこかへ連れてこうとする。

 ルドラの強引な行為に、私は顔が赤くなる。

 

「ちょっと! ルドラったらどうしたの!?」


 突然の出来事に戸惑いを隠せず、不安が募る。

 もしかして、何か大変なことがあったのだろうか……。


「とにかく来てくれ! 見ればわかる」

 具体的な事情を話さずにぐいぐいと彼女を引っ張っていく。


 ツバをゴクリと飲み込んだ。

 これは、きっととんでもないことがあったに違いない―――。




 マンドラゴラ―――それは大陸の西部に主に分布している根菜の形をした魔獣。頭に生えてる葉の付け根あたりに顔面が付いており、突然地中から引っこ抜くとその口から奇声を発する。その奇声には聞く者の精神を混乱させる効果があるので注意されたし。奇声を発さないように引っこ抜くには特殊な訓練が必要。じっくり煮込むと美味しい。【「魔獣図鑑 第六版」 帝立ガイア出版 89pより】


「・・・」


「ほら見てくれよ! マンドラゴラだ! いやーびっくりしたよ。この村の近くにも生えてるんだな。ジュウォンがさっき見つけて取っときたんだ! 見ろ、コイツ可愛い顔してるよな~」


「・・・」


「にしても、コイツ結構でかいな。料理にしたらコイツだけで長く持つんじゃないか? よし後で長老の家の台所借りてマンドラゴラの煮物でも作るか! 漬物にしたらもっと長持ちするぞ~」


「・・・」


「見てくれよコイツの顔! マリの笑顔そっくりだろ! なかなかチャーミングだと思わないか? あ、そうだ、マリもこの顔してくれよ。 いいだろ? 並べて見たらもっとそっくり……」


「”メテオ”!!!」


 ―――ドォォォォン。


 長老宅の庭先に、それはそれは大きな岩が落下した。






「もう! 心配して損したんだから!」


 マリは激怒して高い声で怒鳴っている。

 落下した大岩をモロに食らった俺は、イスに座りながら頭のたんこぶをジュウォンに治療してもらっている。

 ここは長老の家の一室だ。


「……俺なんかした?」

「何かしたわけじゃないけどぉ! ないけどぉ!……なんかこう……緊迫した空気感というかさぁ! そういうヤバいことが起きたみたいな雰囲気だったじゃん! 誰か魔獣に襲われたのかなーとかさぁ! それが”マンドラゴラ”って!」


「あははは、落ち着きなよ。でも実際似てるよ。だってマリは表情作るの下手なんだもん」


 頭から湯気が出てるマリをジュウォンがなだめる。

 なだめるというか火に油だったらしい。


「はぁぁぁぁぁァァァァ!?⤴︎⤴︎⤴︎(転調) ぜんッッッッッぜん似てないんですけど!!!」


 手をブンブン振り回してジュウォンに叫び散らす。 

 にしてもうるさいな。

 やっぱりマンドラゴラに似てるよ、君は。


「ごめんごめん。でも落ち着かなきゃ。せっかく俺が包帯巻いたのに、傷が開くよ?」

「……フン。誰かさんたちのせいで落ち着けないんですけどね!」


 そう言いながらマリは 膝にある包帯をさすった。


 ……そう、俺たちは妖精たちにまんまとやられて敗走してきたのだ。


 撤退を決めた直後、ジュウォンが手作り煙玉を投げたあと、四人とも全力疾走で麓のヴォンガ村まで帰ってきたのだ。一応人間より速いとされている妖精とハクイノシシだったが、なんとか振り切ってこれたのである。

 俺たちは、逃げ足の速さだけは誰にも負けないのだ。


 途中でマリが沼にハマって足をひねったのだが、それ以外は大事にならずにすんだ。

 ちなみに俺は体がやたらと頑丈なので、ジュウォンの治療のおかげもあってほぼノーダメージである。

 ヴォンガ村に戻ったあとは、医師であるジュウォンの指示により近くの川で水浴びをした。


「なんで水浴び?」と思ったがちゃんとした理由があるらしい。


「そういえばマリ、折れた杖は直りそう?」

「……あぁ……そうだったね。この杖は……やっぱりダメっぽい」


 魔術師の杖というのはかなり繊細な魔道具だ。

 先端ががっつり折れてしまったので、もう専門の修理業者に頼まなきゃならないレベルらしい。

 ……というかそんな繊細な道具で俺を叩くなよ。


 だいだいマリって結構うっかり屋さんなんだよな。


 杖振り回して木に当てて折っちゃうし、

 妖精たちから逃げてた時も沼に足突っ込んじゃうし、

 ついさっきも「ちょっとこのドア開かないんですけど!」って家のドアをガンガン押してたら、長老から「あ、それ引き戸ですよ」って言われて顔赤くなってたし。


 そんなこと思いながら、俺はマリをじーっと見つめる。


 「……? なによ、顔に何か付いてる?」

 「……はぁぁ」

 「ちょっとなんなのよ今のため息は!?!? もしかしてあなた今『マリがファーストの天才魔術師だったらなー』とか思ったでしょ!」

 「……思ってないよ」


 うちの魔術師は今日もうるさい。

 

「ちょっと二人とも落ち着きなよ~。マリは早くルドラのたんこぶ治療して、新しい薬草の調合したいんだからさー」

「……ジュウォンってほんと草いじり好きだよね~」


 ジトっとした目でマリがつぶやいた。


 ジュウォンは生粋の医療オタクだ。


 昔は、父親から命じられた弓の訓練をせずに薬草や医術の本を読んでいたらしい。

 そのせいで弓の腕はお粗末だが、治療に関する技術はピカイチだ。

 彼の出身である東の貴族は伝統的に弓を極めるらしいが、彼はそれの訓練をしなかったらしい。


 今は比較的使いやすい魔拳銃を使っている。

 多種多様な弾丸を使い分けることで、幅広い戦い方をしている。

 しかし、彼のメインの職業は治療師だ。

 戦力として期待しすぎるのも酷だろう。


「ただいま戻りました……」


 村の外へおつかいに行っていたライサは、パンパンの大きい袋を両手で大事そうに抱えていた。

 よしよし。ちゃんと頼んだものを取ってきたな。えらいぞ。


「はぁぁぁぁ……」

 

 非常に深い溜め息をついたライサは、両手で抱えた袋をどさっと下ろした。

 彼の顔がかなり暗い。

 おそらく昨日の妖精討伐で活躍できなかったことを引きずっているのだろう。


「おい大丈夫か? そんな落ち込むことはな……」

「いいえ、お気遣いなく……分かってます、分かってますよ、私が役立たずだってことは。あぁ、あの時コケたりしなければなァ……兄さんだったらこんな凡ミスしないだろうなァ。はぁ……先輩たちを支えるどころか、ただの足手まといになってる始末……情けない。こうしている間にも魔獣たちが村を襲ってくるのかもしれない……数時間後にでも全滅かも……そうだ、世界はジワジワと終末への道を突き進んでいるんだ……もう終わりだ……あ、その前にガイア帝国は少子高齢化問題について真剣な対策を打たないと……」


 ……まぁ、あれだな。

 めちゃくちゃ落ち込んでいるということは把握できた。


 いったん呪詛を全部吐き出させ切ったほうがいいな。

 ライサは真面目すぎるがゆえに、極端な思考に走りがちなのだ。

 そして、ネガサに変身するのだ。

 てか少子高齢化は関係ないだろ。


「……死にたい」


 と、ライサがぼやいた。


 ……むむむ。


 これはかなり重症だ。

 自暴自棄になっている。

 これは先輩である俺がフォローしてあげないと。

 なんかライサがうつむきながら俺をチラチラ見てくるのが気になるが、とりあえず励ましてやるか。


「いいかライサ。この世にはな、お前よりツラい思いしてるやつが沢山いるんだよ。だから死ぬな」


 マリが俺たちの間に割って入った。


「ちょっとルドラ! そんな強引な励まし方でライサが立ち直るわけ……」

「……ちょっと元気になりました。ありがとうございます、ルドラ先輩」


 そう言ってライサは顔を赤くして頭を下げた。

 耳をピンと立てて、尻尾をブンブン振っている。

 どうやら多少気分が良くなったらしい。


 あーよかったよかった、一件落着。


「「……チッ」」


 マリとジュウォンが同時に舌打ちをした。

 しかも二人でコソコソ何か言い合っている。「きっとそういうプレイなんだよ」とか「ライサもけっこう演技派だよね」とか聞こえてくる。

 一体なんのことだ。


 ……さて、ライサも戻ってきたことだし。


「じゃあ妖精討伐の作戦会議をはじめっか!」


 俺はパンッと手を叩いて、三人にイスに座ることを促した。

 ライサは気を取り直して座った。

 マリとジュウォンも、真面目な顔でイスに腰を下ろす。


「じゃあ、ジュウォン。よろしく」

「おっけー」


 こういう討伐の作戦の立案は賢いジュウォンが担当している。

 基本的に、戦闘前の綿密な計画はジュウォンが、刻々と戦況が変わる戦闘中は俺が指揮と取っている。

 お互い頭の使い方が違うからな。


 策士と隊長の関係。

 これが合理的分業だ。


 ジュウォンはが作戦を説明しはじめた。

 三人が静かに説明に耳を傾ける。


 ・・・。


 ふむ……。


 なるほど……。


 あぁ、これはそういうことだったのか。へぇー。


 うん、たしかにこれなら解除できるな。


「……以上だ。なにか質問は?」


 ジュウォンは三人を見渡す。どうやら質問はないらしい。

 会議は滞りなく進行した。

 途中でジュウォンが「うちに岩バカことマリの魔術で~」とか言って、マリがキレたこと以外は特に問題なかった。


「うっし、決まりだな!」


 俺は全員に確認するように三人を見回した。

 全員の目に決意が籠もっている。


「決行は明日だ!

 全員で妖精とハクイノシシをぶっ飛ばすぞ!」

「「おー!」」

「ほーい」


 俺たちはいずれ魔王を倒す。

 そのためには妖精なんかにつまずいてちゃいられない。


 今に見てろよ、兄貴。

 いずれはお前ら「ファースト」を追い越して、年の差なんか関係ねぇってことを、証明してやるさ。







読んでいただきありがとうございます!


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