0.これが魔女の始まりです!
「おいっさっさとドアを開けろ!!大罪者!!!」
男の人の怒声が耳をつんざく。同時にドアを叩く音が聞こえる。ドアの外では村中の人々が集まっている様だ。
ボロい家の中には私とお母さんの二人きり。
たった数年しか生きていない私でも分かる。これはおかしい。そして怖い。
その恐怖でお母さんに泣きつく。お母さんの身体も細かく震えていた。私は必死に小さい頭を働かせ、お母さんに質問する。
「お母さん…。怖いよぉ…。なんでケンゾウさん怒ってるの…?私がケンゾウさんの金槌で遊んだのバレたからかなぁ…?」
ケンゾウさんは今ドアを叩いている男の人。この村で鍛冶屋を営んでいる。私ともよく遊んでくれて、優しい人だった。
だから急に怒り出したのが不思議で怖かった。
「大丈夫、貴方は悪くないのよ…。悪いのは、お母さんとお父さんだから。大丈夫よ…。」
お母さんが泣きながら答えるので大丈夫なはずもなく、ただただ混乱する。
顔がぐちゃぐちゃになる。…そしてその時
「おい、もうこのドア壊そうぜ。」
突然1人の男性の声が響く。その声がしたあと辺りがざわつく。「ああ、そうだな。」「誰かこのドア壊せるものないか?」
「ええ、そうですね…。私オノを持ってきます。」
女性がそう言ったのが聞こえ、早足で駆けていった音がした。
悪寒がする。涙がまた自然と溢れ出す。
怖い、怖い。
「オノだって、オノ。ドア壊れちゃうよ…。」
私は母にまた泣きじゃくる。そして腕の中で、母の顔を見上げる。そんな顔は何か、意を決したような表情だ。
ドアをドンドンと激しく叩く、音がする。その音は最初の頃よりも、幾分か強くなっている気がする。
「はい、持ってきました。」「よし、これで強行突破する。開いたら全員で流れ込むぞ!」
「おー!」といった十数名の男女の声が聞こえる。
その声をさかいにドアが大きく軋み出す。家の内部からもオノらしきものが見えた。
その時、母が私の目を真っ直ぐ捉え、言い出す。
「ねぇ、良く聞いて。この家に暖炉があるでしょう。その暖炉の中に入ったら梯子があるはず。それを登って煙突から出て、逃げなさい。」
私の肩に手をのせ、早口で言う。それを聞き私は母に
「逃げるの?」と不安気に聞いてみる。
「ええ。」と答える。
「…分かった。逃げる。……お母さんも行くよね?」
そう聞くと
「いいえ、私はここに居る。」と首を横に振り言う。
「え!?なんで!」
「私がここに残れば、貴方が暖炉から逃げたなんて皆んな気づかないと思うのよ。だから貴方だけ逃げて。」
と笑顔で答える。
私がまた言い返そうとしたとき
ミシミシとドアが派手な音をたてて壊れ出す。
「もう、壊れそうだ!」「よし、次の一振りをした後流れこむぞ!」
この会話が聞こえた瞬間、母は私を小脇で抱え、暖炉の方へ連れ込む。
そして中に放り込み、自らの背中で蓋をする。
「お母さん!!」
「貴方はこれから私達夫婦のせいで、色々苦労するかも知れない。でもね私も、もちろんお父さんも貴方のことを愛してるわ。」
その途端、大きな音がなった。ドアが完全に破壊されたのだった。
「厄災の魔女を殺せー!!八つ裂きにしろー!!」
ドタドタと複数の足音がする。こちらに向かって来ている。
もう時間がないと分かる。母にまた声をかけようとした。
しかし、足音の方をしっかり見て、私に背中を向け母は言った。
「逃げて…生きるのよ。━シャラ」
これが最後に聞いた母の言葉だ。
そして、母は私を更に奥へ押し込む。そして私を守るため背中を向ける。
私は背を向け暖炉内の梯子を登り始める。
目尻の涙を落とすまいと、必死に堪える。
甲高い女性の叫び声がした気がする。だけど振り返らないで登る。
振り返れば、涙で前が見えなくなるからだ。
煙突を出た。屋根の上に降りる。屋根から家の裏を覗く。幸い人は居なかった。
下にある藁の束を見つけた。私はそこめがけて、恐々飛び降りる。藁がクッションになり無事だ。
そこから出て、家の裏にある、暗い森林の中へ入って行く。
これがのちに世界へ混乱をらもたらす、魔女の始まりである。




