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その夜ふたたび俺は掲示板の様子を見に行った。
『え、まさかお前らこの程度の情報しか持ってないの?アホなの?』
『えっ、お前何言ってんの?馬鹿なの死ぬの?』
『うるせえ、アングラ最高峰の力を見せてやんよ!』
かなり荒れてるな。
そのときひとつの投稿が目に止まった。
『おい、お前ら知ってるか?』
『何だよ』
『実はこの前自殺した田端って奴、サイバー犯罪組織の一味だったらしいぞ』
『はぁ!?マジかよ』
『ああ、間違いないぜ』
『それって自殺なの?消されたんじゃないの?w』
『さあな、でも田端が所属していた組織が他の組織と抗争してたのは間違いない』
『なにそれ面白そう』
『よし、決まりだな!明日みんなで作戦会議するぞ』
『おう』
なんだこれ……どういうことだ?
***
俺は掲示板に書かれていたアドレスを辿り、とあるサイトにたどり着いた。
『サイバー犯罪組織について語るスレ』というタイトルのスレッドだ。
『よう、お前ら集まってくれてありがとう』『いいってことよ!それよりどうすんだ?田端を殺したやつを見つけ出すのか?』
『いやまだだ。まずはこの前の事件について話すとしよう』
『そうだな、俺もその話を聞きたい』
『俺も』
『じゃあとりあえず最初から説明するとするか』
俺はその書き込みを読み進めていった。
そして俺はある結論に至った。
「これは……もしかしたらとんでもないことが起きているかもしれないな……」
田端さんの死と謎の集団が関わっている可能性がある。そう思った俺はすぐに田宮さんに連絡をした。「もしもし、今大丈夫ですか?」「はい、平気ですよ」
「先日の事件なんですけど、田端さんが関わっていたという証拠が見つかったのですか?」
「いえ、まだ何も見つかっていません」
「そうですか……田端さんはどんな方でしたか?」
「そうですね、少し変わった人でしたね」
「というと?」
「よく分からないのですが、自分のことを「天才」とか言っていたんですよ」
「なるほど、彼はなにか特技のようなものを持っていたのですか?」
「いえ、特にそういったものはなかったと思います」
「そうですか……」
何の天才なんだろう。
「すみません、私では力になれないようです」
「いや、そんなことはないですよ」
「そうですか……あっ、そろそろ時間なので失礼しますね」
「はい、お疲れ様でした」
俺は電話を切り、再び考え込んだ。
田端さんが死んでからもうかなりの時間が経っている。
何か有力な情報は無いのか、そう思いもう一度掲示板に目を向けた。するとそこには驚くべき情報が書き込まれていた。
『実は田端が所属していた組織の名前は「チーム・ゼロ」っていうんだよな』
『そうそう、なんかかっこいい名前だよねー』
『確かにかっこいいな』
『でしょ?で、そのチームのトップは田端の上司でもあった人らしいんだけど、最近になって突然行方不明になったみたいなんだよね』
『へぇ、そうなんだ』
『うん、でね、その人の名前は「田代」って言うみたい』
『ふぅん、それ本当なのか?』
『多分、だってさっきまでこの人が書いてたし』
『マジかよw』
『まあ、信憑性は薄いかもだけど一応報告しとく』
『いや、その情報なら俺もソースある』
『マジ?』
『ろだにupしたから見てくれ。パスはxxxだ』
『了解、見てくるわ』……嘘だろ? 俺は急いでXXXにアクセスしてみた。
そこに表示されていたのはメグちゃんねるの有志がサーバーから集めたメールの断片をまとめた記事だった。
『【速報】サイバー犯罪組織「チーム・ゼロ」のトップが死亡していたことが判明』この記事によると、どうやら田端さんの所属していた組織は田代という人物によって壊滅させられたらしい。
ということはつまり……
「田端さんを殺したのは田端さんが所属している組織のトップの田代という人物で、その組織はその田代により壊滅させられた。そしてその田代も死んでいる。意味が分からないな……」
しかしここまで来ればほぼ間違いなくこの田端さんが所属していた組織はサイバー犯罪組織の一味だろう。
そして田端さんが死んだ理由は恐らく田端さんが属していた組織のボスである田代によるものだ。
なぜ田端さんが殺されたのかは今のところ不明だが。
まあ田端さんの死因について深追いするのはこのあたりでやめておこう。
俺は俺の仕事をやる。俺は組織が作ったというソフトの断片を集めることにした。
それから数日、ついに手がかりを掴んだ。
どうやら組織が作ったというソフトのひとつはサーバーに負荷をかけたりする、いわゆるDDoSの一種らしい。
おそらく他のソフトも侵入ツールとかハッキングに関するソフトのはずだ。
それなら話は早い。俺はさっそく掲示板に情報を垂れ込んだ。
『おいおい、マジかよ』
『えっマジ?これマジ?』
『おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい』
俺はその反応を見てほくそ笑んだ。
「やっぱりみんな同じ気持ちだよな……」
俺はそう呟きながら掲示板を閉じた。