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俺たちは会社の近くにある喫茶店に入った。

「単刀直入に言いますと、あなたの力を借りたいのです」

「僕の力を?一体どういうことですか?」

「それは……これからお話します」そう言うと彼女はバッグから1枚の紙を取り出しテーブルの上に置いた。

「これは?」

「先日の事件の記事のコピーです」

そこには『凶悪組織がついに壊滅』という見出しで大きく取り上げられていた。

「これがどうかしましたか?」

「この組織には私の上司が所属していました」

「えっ!?」俺は驚きの声を上げた。

「驚くのも無理はないと思います。でも事実なんです」

「そんなことが……」

「私はその組織の情報を詳しく調べました。すると驚くべきことが分かったんです」

「なんでしょう?」

「その組織は表向きは普通のIT企業なんですが裏ではサイバー犯罪に手を出していることがわかったんです」

「サイバー犯罪?」

「はい、簡単に言えばコンピュータウイルスの作成やハッキングなどですね」

「なるほど……それで僕に何をして欲しいのですか?」

「組織が壊滅させられたとはいえ、まだ残骸は残っているはずです。そこでこの組織が作ったソフトを復元してほしいんです」

「えっ!?それって違法じゃないんですか?」

「もちろん違法です。ですから警察にバレないようにお願いしたいのです」

「そういうことでしたら……」

「ありがとうございます!具体的な内容と報酬についてはまた後日にご連絡いたしますね」

いや、OKしてないんだけど、と思ったが口に出すのは辞めた。

「分かりました。じゃあ失礼します」

そう言って立ち上がろうとした時、女性が口を開いた。

「あっ、待ってください」

「何ですか?」

「一つだけ忠告しておきたいことがあるんですけどいいですか?」

「はい、なんでしょう」

「もし、この事件に関わることを誰かに言った場合……分かっていますよね?」

彼女の目は鋭く光っていた。

「えぇ、もちろんですよ」俺は笑顔を作って答えた。

「ふぅ……よかったです。ではよろしくお願いしますね」

「はい、ではこれで」

俺は逃げるようにその場を去った。

***

家に帰ると早速田宮さんから電話がかかってきた。

「もしもし、あぁ田宮さん?」

「いま大丈夫でしょうか?」

「はい、ちょうど家に帰ってきたところなので」

「そうですか、良かったです」

「ところでさっきの話なんですけど、どうして僕なんかに協力を仰ごうとしたのですか?」

「理由は2つあります。まずはあなたの実力を見込んでのことです。そしてもうひとつは……あなたは正義感が強い方だと見抜いたからです」

「なるほど……そういえば以前も誰かに似たようなこと言われた気がするなぁ」

「そうでしたか。それでは具体的な話をしていきましょうか」

「はい、よろしくお願いします」

「では最初に今回の依頼について説明させていただきますね」

田宮さんは資料を見ながら丁寧に説明してくれた。

「以上が今回あなたに依頼したい仕事の内容になります」

「わかりました。引き受けましょう」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「いえ、これも何かの縁ということで」

「じゃあ詳しいことはメールで送らせて頂きますので確認しておいてください」

「了解しました」

「あっ、それともう一つ伝えておかなければならないことがありまして」

「はい、何でしょうか?」

「実は……先日、私の部下が突然亡くなってしまったんです」

「えっ!?」

「本当に突然の出来事でしたので私も驚いているのですが……」

「それは事故ですか?」

「警察の見立てでは事故か自殺ということなのですが」

「そうですか……」

「他殺という線もあるのではないかと疑っているのですが、捜査は難航しているようですね」

「まぁ警察も忙しいでしょうからね」

「そうなんですよねぇ……」

「ちなみに亡くなった部下の方の名前は?」

「はい、名前は田端 聡といいます」

「田端……さん」その名前を聞いた瞬間、俺の心臓が大きく跳ね上がった。

「ご存じなのですか?」

「いえ、たまたま同じ苗字の人を知っているだけです」

「そうでしたか、偶然ってあるもんなんですね」

「えぇ、ほんとに」俺は動揺を悟られないように必死に平静を装った。

「では、私はそろそろ失礼します。また後日にお会いしましょう」

「はい、お待ちしています」俺は通話ボタンを切り、ベッドに倒れ込んだ。

田端さんの死因は自殺だったのか…… 俺はしばらく天井を眺めていた。

***

「うーん……どうしたものかな」

俺は自分のデスクで頭を悩ませていた。

先日の事件について調べると言ってもどうやって調べればいいんだ? とりあえず田端さんの家族に連絡してみるべきだろうか? でもなんて言えばいい?「息子さんが自殺した理由を知っていますか?」とか聞けないしな。

そんなことを考えながらネットの掲示板を眺めていた。

「おっ?これは……」

『【悲報】サイバー犯罪組織、ついに逮捕』という記事を見つけた。

俺はその内容に目を通した。

『この組織は今年に入ってサイバー犯罪に手を染め始め、ついに逮捕されました』

『この組織は表向きには普通のIT企業として運営されていましたが、裏ではコンピュータウイルスの作成やハッキングなどを行っていました』

『警察はこの組織に情報提供を行った人物を特定し、調査を進めていますが、今のところ有力な情報は得られていません』

『また、この組織に所属していた構成員についても現在行方を追っており、関係者への聞き込みや捜索を続けています』

なるほど……田宮さんから聞いた話と同じだな。もっと他に情報は無いのか……。

そのとき俺のハッカーとしての第六感が働いた。

ピコーン!

カチャカチャと華麗にキーボードを操作し、次のような文章を打ち込んだ。

『え、まさかお前らこの程度の情報しか持ってないわけ?アホなの?それでもパソコンの先生かよ』

愚弄に罵倒に煽りまくってだんだんと議論が白熱していく様を見て楽しんでいた。

そして、最終的に言い争いに発展しそうになったところで画面を閉じ、ブラウザを閉じた。

「ふぅ、こんな感じでいいだろう」

俺は椅子にもたれかかり、目を瞑って一息ついた。そして次の日の朝、俺は田宮さんから連絡を受けた。

「もしもし、おはようございます」

「あっ、田宮さん、昨日はすみませんでした」

「いえいえ、気にしないでください」

「それで、何か進展はありましたか?」「はい、一応報告をしておきますね」

「お願いします」

「まず田端さんの遺体ですが、解剖の結果、脳の血管の破裂が検出されました」

「血管の破裂ですか……」

「えぇ、おそらく興奮するようなことがあったのではないかと考えられます」

「なるほど……そういえば田端さんは一人暮らしをしていたのですか?」

「えぇ、そうですよ」

「なるほど……ちなみに誰かに恨まれているようなことはあったのですか?」

「いえ、特にそういった話は聞いていませんね」「そうですか……」

「あの、それがどうかしたのですか?」

「いや、なんでもありません。ところで田端さんが亡くなったことについてはニュースになっていないんですか?」

「はい、実は田端さんは世間的には病死扱いになっているんです」

「そうですか」

「それに田端さんのお母さまも田端さんが亡くなる少し前に亡くなってしまいましたので、身内の方がいなくなってしまったので、そのせいもあってか葬儀もあまり盛大に行えなかったみたいですね」

「なるほど、そういうことだったんですか」

「はい、それではまた後日にお会いしましょう」

「はい、よろしくお願いします」

俺は電話を切り、大きくため息を吐いて再び考え事を始めた。

田端さんが亡くなってしまった理由はやはり自殺なのか?それとも他殺なのか? 田端さんは家族とは疎遠だったと言っていたし、交友関係も狭かったはずだ。となると自殺の可能性は非常に高いのだが……田端さんは一体誰によって殺されたのか? 犯人はなぜ自殺に見せかけたのか?田端さんの死因は本当に自殺だったのか? 謎が多すぎる……組織が関係しているのだろうが、あいにく俺はただのハッカーだ。捜査は警察に任せるとしよう。

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