91. 温室育ち
王宮殿の中で開かれている、王族のみで行う立食パーティーに、俺達は特別ゲストとして参加していた。
身内だけなので、とくに堅苦しい所もない。 最低限のマナーさえ守っていれば、ある程度自由に動き回れる。
あちらでは、王妃様と久実さんが和やかに話をしているし。
こっちでは、おばば様と慶子が、何やらひそひそ話をしては、二人で 「ヒッヒッヒッ」 と不気味に笑いあっている。何か、悪巧みでもしてそうだ。
そうして、仲良くふたりで回っていた楓とダリルバートに出くわし、楽しく話をしていたのだ。 すると、
「ツーハイム卿。 楓さんに相応しい男性になれるように、僕、いえ、…私を鍛えてください」 と、
改まって真剣な顔で俺に訴えてきた。
うん、楓と釣り合うようにか。 鍛えること自体やぶさかではないが。
「なんだと。マリア、どうしたら良いかなぁ」 と、隣にいるマリアベルにも意見を聞いてみた。
「ダリル兄は少しナヨってるところが有るからなぁ。 あと、5日あるのよねぇ」
「教会に行って。超パワレベね! 私もやったわ」 と、予定が決まってしまった。
……まあ、いいか~。 後は 特にする事も無かったし、サキも鍛えてあげないとだろ。
どの道、サキも此方で生活するのであれば、自分の身は自分で守らなければならない。
何をするにも、ある程度レベルを上げておく必要があるだろう。丁度いいのでダリルバートと共に鍛えてやろう。
「よし。明日から5日間、ダンジョンでみっちり鍛えてやるからな」
「ええっ、明日から! 学校が……」。
「そんなものは、腹が痛いとか言っておけば良いのだ。儂もよく使っておったわ。頭痛でも良いぞ」 と、王様である。
「ダリルバート。そなたは、少々 ”まじめ過ぎる” きらいがある。 たまには、道を外れてみるのも良い経験になるぞ」 と、ダリルバートの肩をポンポンと二回叩いて王様は去っていった。
「そうですね。では明日から、ディレクに伺いますので、よろしくお願いします」 と言って、深く頭を下げてきた。
そして、ダリルバートは楓を連れて、またどこかに行ってしまった。
「これは、妹に先を越されそうだなー」 と、笑いながら俺が言うと、
「うん、良いんじゃない。今はわたしの方が年下なんだから」 と、笑って返すマリアベルであった。
ぺしぺし。『さんぽ、あそぶ、おにく、おきる、おやま、あそぶ』
お、おう朝か。おやま? 外は雨か? うん。確かに外から雨音が聞こえてくるな~。
「よし、今日の散歩は ダンジョン・ディレク のリビングに造った ”宝満山” に登るか! アオチャンも誘って行こう」
ベッドから起き上がり、歯を磨いて、顔を洗う。 服を着替えて、部屋の扉を開けると、
――うぉおい!
誰かとぶつかりそうになった。 誰だよ、ドアの前に立ってたやつは。
「おはようございます! ツーハイム卿」 ダリルバートだった。
「なんで、こんな所に、突っ立っていたんだ?」 と聞くと、早朝より転移陣を使いこちらに来て。
散歩に行く事を聞いたので、置いて行かれないように 部屋の前で待っていたらしい。
……う~ん。 間違ってはないが、何か違うんじゃない。そこに、キロも控えているし。伝言すれば、置いていったりしないって。
うん。なんとな~く ダリルバート が分かって来たような気がする。コヤツは所謂、温室育ちなのだ。
外の事や、世間の常識を教えていかないと、無駄な空回りを続けてしまいそうだな。
ハァー。 俺はトンデモナイものを預かったのかもしれない。ドウシヨー。 取りあえず実力を見とかないとな。鑑定!
ダリルバート・クルーガー Lv3
年齢 16
状態 通常
HP 33/33
MP 11/11
筋力 11
防御 7
魔防 9
敏捷 9
器用 10
知力 9
【スキル】 魔法適性(光・水) 魔力操作(3) 剣術 (1)
【魔法】 水魔法 (2)
16歳で、Lv3 か。このステータスで、7階層 ……よく死ななかったよな。ホント。
魔法学校の生徒だったか。魔法職が6人とポーションがあれば、ギリで行けるか。
それで、飛び出して2人だったのか。他の連中は4人で進むのは困難と判断し、ギルドに戻って捜索要請を出して、無事保護となった訳だが。
冒険者ギルドの素早い対応は、捜索の対象が王子であった事が大きいな。
即座にBランクパーティーが動いたのだから。 まあ、楓とヤカンが通った後だから、帰りは割と安全だった筈だが。
そこはダンジョンだから油断は出来ないがな。この情報はシオンが即座に集めてくれたものだ。
冒険者ギルドにはこっそり何か送っておこう。 おっ、メアリーも来たな。散歩の後はサキも連れて教会だな。
そして、教会で祈りを捧げた結果。
ダリルバートは女神さまの加護と魔法適性に聖が新たに加わった。
そして、サキの方は……。鑑定の結果はこちら。
サキ・アマミヤ Lv1
年齢 13
状態 通常
HP 40/40
MP 20/20
筋力 20
防御 20
魔防 20
敏捷 20
器用 20
知力 20
【特殊スキル】 状態異常耐性 言語理解
【スキル】 魔法適性(聖・雷・闇) 鑑定(2) 魔力操作(3)
【魔法】 聖魔法(1)
【称号】 召喚・勇者、承認、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
んっ、ええっ! リセットした? マジで。
「おっおぉー」 何故だか背中がゾクゾクッとした。 勇者だから出来たのか? それとも、普通に出来ちゃうのか?




