89. みんなで王城
こちらに戻って5日目。 今日は王城に上がる為、朝から忙しい。
散歩も行かずに仕事を終わらせ、昼前には出来上がった服を王都に取りに行く。
試着して、素早く手直しをしてもらい、王都別邸で昼食を済ませる。
そうして、馬車に揺られて王城に上がる。王城の門を2ヶ所潜り、王宮殿の前で馬車を降りる。
まず案内係の内官に声を掛け、マリアベルと、会う約束が有ることを告げ連絡をとってもらう。
その間は待機室で待つ訳だが、入れる者は貴族のみである。
他の者は外の壁沿いに設置してある、長椅子に腰掛けて待つのである。
これは、双方にとって利がある事で皆おとなしく従っている。
まあ、以前の話だが。長く待たされた貴族が 先に先に入って行く一般人に業を煮やし、難癖を付けては折檻していた訳だ。
受付の内官や連絡係のメイドでは、止める事もかなわず痛ましかったようである。
貴族である以上。殺さなければ罪に問われる事も無いので、やりたい放題だったらしい。中には、それ用に鞭を持参してくる者までいたそうだ。
そして、ある時。 そんな場面に出くわした、どこぞの公爵が宰相と話をして。
今のように、別れて待つようになったと言うことだ。 今の日本だと考えられないだろうが、これが封建社会の側面とも言えるだろう。
おっ。返事が来たようである。今日は西の庭園に案内されるようだ。俺達は案内のメイドさんに付いて、王宮殿の内廊下を通り西の庭園へと抜けた。
今日はいい天気で、青々とした芝生が眩しかった。しばらく庭園を歩くと、風通しの良い所に ”ガゼボ” が建っていた。
こちらのガゼボは木材で作られており、木の温もりを感じさせる作りになっているようだ。
「こちらでございます。ごゆるりとお過ごしくださいませ」 と、丁寧に頭を下げるとメイドさんは王宮殿へ戻って行った。
ガゼボの前に立つと、中にはマリアベルともう一方居られるようだ。俺はガゼボに上がり貴族礼をとる。
すると直ぐに、
「ここでは、あいさつは不要です。どうぞ皆さんもお上がりくださいませ」 と、ニッコリ笑っているのは王妃様であった。
「みんな。ごめんねー。 どーしてもって押し切られちゃって」
「えっと、お母さんなの。セシリア第一王妃」
「まっ、王妃様! これはこれは。いつも娘が…って違うわね。 お初にお目にかかります。私は久実。こちらが娘の楓です。よろしくお願いいたします」
「私は慶子と申します。よろしくお願いいたします」
「私はサキと申します。よろしくお願いいたします」 と一通り挨拶が終わったところで、何処に居たのか、執事がお茶とケーキスタンドを……
って……おい! これは ”アフタヌーンティー” じゃねーか! マリヤだなー。 三段ケーキスタンドで サンドイッチ スコーン スイーツ。
そして、2段目のスコーンと並んでいる小瓶のジャムはア○ハタだよねー。
俺達は王妃様を交え、それなりに楽しく午後の紅茶を頂いていた。
「ところで、そちらの楓さんはおいくつなのかしら?」
「はい。今年17歳になりました。王妃様」
「そう、17歳なの。それでは もう婚約相手なんかは? いらっしゃるわよね~、お綺麗だし」
すると久実さんが、
「いえいえ。王妃様。わたし達の国では、成人は20歳です。結婚もそうですが、婚約なんてまだまだ」
「それに、この娘ときたら、男っ気がまったく無くて。今から心配で仕方ありません」
「まあ、そうなの。 良いお嬢さんだと思いますのに。もったいないわ~」
そのあと、向うの国では晩婚化が進み。
「20代後半で結婚しても、何もおかしい事では無いのです」 と説明すると、王妃様はとても驚かれていた。
こちらの成人は15歳で、20歳までに結婚しないと、”行き遅れ” と認定されるからな。
こんな機会は滅多にないのだからと、この後に小宴を開いてくれる事となった。
まあ、これは致し方ない。 だいたい、王妃様のお誘いを断れる訳が無いのだから。
俺達一同は王城のゲストルームに通された。 すると、ここで王妃様が女性陣に何やら耳打ちしている。
ひそひそ話をしているが、俺には丸聞こえだ。
「今日はせっかくの晩餐。みんなでドレスを着てみてはどうかしら?」
これに喰いつかない女性は、なかなか居ないのではないか? 案の定。
みんな いそいそと控え室の方に、連れられて行く。悪い魔女に捕まった、村人たちを見ているようだ。
……これは、完全な「仕込み」だよな。おそらく、王様が言っていた。 ”第三王子” 絡みだろう。
機会を作ってお礼の品でも渡すのだろうが、その割には、規模(仕掛け)が大き過ぎやしないか?
怪しい! 何を企んでいるのやら。 だいたい、一番に文句を言いそうなマリアベルが一言も発していないのだから。
俺は別邸に待機させていた、シロとヤカンを部屋に呼び一緒にマタ~リと待つ事にした。
それから、王様をはじめ、王妃様 おばば様への ”付け届け” は忘れない。
今回は博多の味、”辛子めんたいマヨネーズ” である。どんどん|箱詰めのまま、お付きの執事たちに渡していく。
メイドさん達にはガー○チョコレートを配って回る。 何にしても、根回しは必要なのだ。
ギブミー・チョコレート! である。ガムは少しお下品になる為、あげない事にした。




