87. カーテシー
そして次の日。 俺は早くから執務室に籠り仕事を片付けると、昼からみんなを連れて王都に転移した。
ツーハイム王都別邸に着いた俺達は 馬車の準備が出来るまで、リビングでお茶をしながら談笑していた。
「それで、楓。こっちのダンジョンはどうだった?」
「うん。楽しかったよ! うち、こっちの方が好きかも」
「なんて言うのかな~。人の想いがいろいろ交差していて人間くさいところが良いと思うな~」
「ふ~ん。人間くささかぁ。なるほどねー」
まあ、日本でダンジョンの扱いがどうなるのか分からないしな。
それに強さが有れば、周りを見る余裕も生まれるという事だな。
「慶子は、いつもの商店だな。服屋に行った後で良いか? 荷を出すのも時間かかる訳ではないしな」
「ええ。私はそれで構わないわ。荷物持ち、ありがとね」
ホントだよ、何ケース預かっていると思っているんだよ。
そうは言っても。じじ、ばばの連絡網と言うのも大したものだよ。
この20日程の間に、低級ヒールポーションを10本は捌いているのだから。
何が、「初回限定、お試し価格」 だよ。 10%割引でも90,000円だぞ。ボッタクリじゃねーか!
でも、慶子に言わせると、このぐらいは当たり前の事らしい。
広告費や紹介者への根回し、運送費や税金。
問題が起きた時用の弁護士費用などを考えていくと、これでもギリギリのラインらしいのだ。
それに、「宝石や眼鏡なんかの商売も仕入れ原価は10%ぐらいよ」 と、胸を張って言っていたよなぁ。
まあ、それもそうか。 そうでなければ、店にあんなに並べられないよな。
……まぁ、どの商売も大変なんだな~。
そして、馬車に揺られて王都の繁華街へ向かい、服屋とキャットカンパニーを回り。 この日は、……日が暮れた。
やはり女性と服屋に行くのは大変なのである。やれやれ。 大急ぎで仕立ててもらい、出来上がりは2日後の予定だ。
そして、慶子しゃんもニッコニコですなー。 良かった。良かった。
次の日。仕事を終えて昼食を取っていると、
「温泉施設にマリアベル様一行が見えられています」 と連絡が入った。
まあ、初日に ”転送ボックス” にて、手紙を送っておいたからな。今日は休みだから昼から会いに来たのだろう。
今日はメアリーも朝からここでゴロゴロしており、今は俺の寝室のベッドで丸くなっている。もちろん、この屋敷にはメアリーの部屋も有るのだが、
「ゲンパパの匂いに包まれて居心地が良い」 なのだそうな。
あれか……。 大好きな毛布をこよなく愛する的な。
やっぱり犬人族なのかな。可愛いから良いけど。
俺は昼食を済まし、メアリーを起こし、従魔を呼び、みんなを集める。
そして、俺達は温泉施設に転移した。
熊人族の従業員に声をかけると、マリアベルは休憩室にいるらしい。
みんなを引き連れそちらに回ってみた。
「あら。やっと来たのね。 そして、ようこそクルーガー王国へ」
楓と久実さんの前で、両指先でスカートをつまみ ”カーテシー” をとっている。
うん。 王女がやると、様になるよな~。 ここクルーガー王国に置いてカーテシーの歴史は浅く、およそ ”10年” である。
そう、目の前のコヤツが流行らしたのだ。 今では女性が目上の者に礼をとる時は必ずこのカーテシーになってしまった。
まあ、ヨーロッパの伝統なのだから悪い事はないのだろうが。 どうなんだろうねー。
「ささっ、座って座って。 それで、お母さんも楓もどうしたの~」
「うん、お姉ちゃん。お久~。 うち、だいぶ強くなったんだよ」
「うん。そうなの? 頑張っているのね」 と、マリアベルは苦笑い。
「楓。ちょっと待ちなさい。まず、現状報告よ。 それでね~ ……な感じなのよ。酷いものよ」
「ふーん、そっかぁ。めちゃ大変じゃん」
「おとうさん、大丈夫なの? そんなんじゃ仕事にならないでしょ」
……こんな感じで話しは続いていく。
「でも、まあ。こちらは平和だから。 しばらく ゆっくりして行きなさいよねー」
「うん。お姉ちゃん。今度お城も案内してねー。楽しみにしてるから」
「さっ、後の話は温泉に浸かってから、ゆっくりしましょう。 二人とも行くわよぉ」 と、久実さんの一声でみんな移動していく。
俺はシロとヤカンを連れ、そそくさと露天風呂に入っていた。
メアリーは相変わらず、スライダーで滑りまくっている。 シロもおいでおいでされて向うに行ってしまった。
「ねえ、ねえ、旦那さま。そこにいるのは、キツネさんなの?」 と俺が振り向くと、マリアベルがちょうど湯舟に入ろうと縁石を跨ぐところであった。
「キャー! 見るなー。あっち向きなさいってばー」
んー、俺が悪いのか? 前にも有ったが、湯舟に浸かってから声を掛ければ良いんでないかい? まあ、言わないけど。
「おう。縁が有ってな、京都の伏見で出会ったあと 従魔になってくれたんだよ」
「ふ~ん。そうなのね。 ところで、あそこに居る子は誰? 日本人よねぇ」
「あっ、そうか。マリアには言ってなかったよな」
「あの娘は、この世界に ”違法な召喚陣” で呼び出された勇者だよ。サンタクレスのな」
「ええっ! また、あんたはそんな地雷のような娘を……」
「でも、知ったからには放っておけないだろ。 まあ、大事になる前に救い出せたから良かったけどな」
そうだった。あの子の事も考えてあげないとな。




