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5. 大興奮

 このあたりは長年住んでいたこともあり土地(とち)(かん)はある。


 あの細長い石階段も、下の道路を通っていく際はよく目にしていたものだ。


 しかし、階段を上った先にこんな立派な神社があったとは驚きだよ。


 それに何日も泊まっていいとか言われて、さらに驚きだよ。


 そうでなければ野宿だったかもな。


 向こうでは冒険者もしていたので、野営道具は一式インベントリーに入れてるけど……。


 こんな町中で野宿なんかしていたら、それこそ事案ものだよね。


 通報されて職務質問されて、身分証もないから連れていかれて……。


 ややこしくなる未来しか浮かばない。


 いや、本当に助かったよ。


 ………………


 要るものといえば、まずお金だよな。


 インベントリーに入ってる金 (Gold) を換金(かんきん)すれば何とかなるとは思うけど。


 あとは身分証をどうにかしないと……。


 見た目が外国人だから職務質問(しょくむしつもん)される可能性は高いんだよな。


 難民申請(なんみんしんせい)なんてのもあるけど、これがとんでもないんだ。


 まず、審査(しんさ)が通るまでは施設(しせつ)から出れない。


 それに審査が下りる確率は1%と(せま)き門なのだ。


 不服(ふふく)申し立てで3回まで申請できるそうだが、ダメなら強制送還(きょうせいそうかん)される。


 申請が通るまでに10年かかることだってあるらしいのだ。


 送還先のない俺はいったいどうなるんだろうね……? シロのことだってあるし。


 ――とてもやってられない。


 まあ、俺の場合はただ厄介事(やっかいごと)を避けるために身分証が必要というだけだね。


 衣食住はなんとかなるし、医者に掛かることもないからね。


 向こうのように、冒険者ギルドで手軽に作れたらよかったのだけれど。


 まあ、身分証のことはおいおい考えることにしよう。


 はぁ――――っ、早く帰らないとな。ハルちゃんが泣いてないといいんだが。






 「お先しました~!」


 風呂からあがった俺は居間の座布団(ざぶとん)に腰を下ろした。


 すると、シロがトトトっと側に寄ってきて伏せの体制になる。


 よく見ると口のまわりを舌でペロペロしている。


 はは―ん! なるほど、シロが行ってた先は台所みたいだ。


 さてはおねだりしていたな。まったく。


 「もう少し待っててくださいね」


 おかずが乗った皿を両手に持って、せかせかと動いている紗月(さつき)ちゃん。


 目の前のテーブルには焼きサバ・里芋の煮っ転がし・ほうれん草のお(ひた)し・コロッケと、おかずが次々に並べられていく。


 そして、やれ懐かしや。辛子高菜の油いためがドンブリに入って出てきた。


 い、いかん、マジで(よだれ)が出てきたよ。やべーなぁ。


 しばらくすると、お風呂から上がってきたお父さんが茶の間に置いてあるテーブルの正面に座る。


 「そう大したものはないけど味は保証するよ。いっぱい食べてよ」


 そういいながら、ご飯を盛ったお茶碗を紗月ちゃんから受けとっている。


 「はい。ゲンさんもどうぞ~!」


 ご飯とみそ汁を受けとり、みんな(そろ)ったところで、


 「「「いただきます!」」」


 ………………


 いや―、(うま)かった。


 つい、2回もおかわりしてしまった。


 はぁ~、やっぱりご飯だよなぁ。涙が出そうだった。


 「それにしても、本当に日本人みたいだよなぁ。お(はし)の持ち方にしても雰囲気にしても」


 お父さんの名前は(しげる)さん。


 真領路 茂(しんりょうじ・しげる)。この神社の宮司(ぐうじ)である。


 俺はすこし迷ったが、ここは正直に身の上を明かすことにした。


 こんなに親切にしてもらって、後でいろいろとバレてしまうのは(つたな)いだろう。


 信じてもらえないなら出ていけば済むのだし。






 俺は居住(いず)まいを正すと、


 「今からする話は荒唐無稽(こうとうむけい)憤慨(ふんがい)されるかもしれません。ですが、あなた方を(だま)すつもりも、危害を(くわ)えるつもりもありません。どうか最後まで聞いてください」


 最初に断わりをいれてから話はじめた。


 ………………

 …………

 ……


 全てを話し終えてみれば……。


 やはり、お父さんは半信半疑(はんしんはんぎ)の様子だ。


 難しい顔をしたまま目を閉じて腕を組んでいる。


 しかし紗月ちゃんの方はというと、


 ――これが大興奮!


 「キャー! やっぱり異世界ってあったんですね。すごいすごい! インベントリーが使えるって本当ですか? それに鑑定もー。キャーどうしよー!」


 どうしよーって、どうするつもりなの……?


 何を隠そう、彼女はラノベ大好きっ()であり、異世界オタクだったのだ。(あとで知りました)


 「じゃあ、シロちゃんはゲンさんの従魔(じゅうま)で、フェンリルだったんですかー!? キャーかっこいい!」


 「…………」


 「…………」


 あまりのハイテンションさに、ちょっとウザくなってきた。


 お父さんも黙ってないで()めなさいよ! 


 ある程度質問に答えてあげると、幾分(いくぶん)かクールダウンしてきた。


 「それでなんですが茂さん、ひとつお願いがあるのですが……」


 「んっ、はいはい。何でもは無理だけど、僕にできることなら協力するよ」


 「ありがとうございます。お(ひま)なときで結構なので質屋についてきて頂けませんか? このように向こうのお金はあるのですが、こちらのお金は1円も持ってないので」


 金貨や銀貨を何枚かテーブルに出すと、


 「キャー異世界のお金! ほんとに金貨や銀貨なんだー! 重いしかっこいい」


 ――ぶり返してしまった。 やれやれ。


 そのあと茂さんからは了承(りょうしょう)を得られたので一安心。


 やっぱり先立つものがないとね。






 それからも……


 「剣は持ってるんですか? 革鎧(かわよろい)とかもありますよねー」


 紗月ちゃんからの質問が絶えることはなかった。


 「うん、今日はもう遅いから、また明日にね」


 「ええ――――っ、そんな~」


 「ちゃんと見せてあげるから、 ねっ!」


 寝床(ねどこ)までついて来ようとしている紗月ちゃんを(なだ)めて何とか押しかえした。


 ふぅ――っ、日本のオタクを舐めちゃいけないな……。 


 布団の上で座禅(ざぜん)を組んで精神統一(せいしんとういつ)


 日課である魔力操作の訓練をして寝た。


 ………………


 ぺしぺし! ぺしぺし!


 『おきる、うれしい、やま、いえ、さんぽ、からす』


 ううん、おう、朝か?


 「シロ、おはよう!」


 んっ!?


 ああ、そっか……。


 こっち (地球) に来ていたんだったな。


 昨日の晩も、転移魔法である【トラベル!】を試したのだが発動しなかったのだ。


 「…………」


 よし、着替えるか……って、俺はこっちの服をもってない。


 まさか、このハデな貴族(きぞく)服を着てまわるわけにもいかないし、冒険者装備(そうび)では間違いなく職務質問されるな。


 まあ、朝の散歩だけなら、この借りた黒いジャージでいいか。


 そして玄関へ。


 うっ! さすがにジャージにブーツはないだろう。


 かといって、ツッカケを借りていくのもなぁ……。


 と、困っていると後ろから茂さんに声をかけられた。


 「おはようございます。散歩ですか? じゃあ、僕が以前(まえ)使っていたサンダルで良ろしければ使ってください。若干だけど調整も()くだろうし」


 作務衣(さむえ)姿の茂さん。


 ”サンダルシューズ” を持って、バリバリとマジックテープをはがしている。


 「おはようございます! ではお貸りしますね」


 茂さんからサンダルシューズを受けとった。


 サイズは大丈夫そうだ。()いたあとにマジックテープで微調整して足に合わせた。


 うん、バッチリだね。






 「散歩に行ってきまーす!」


 玄関を出て、シロを連れて参道を歩いていると、


 「あ~、ダメですよ~。ちゃんとリードをつけておかないと怒られちゃいますよ」


 女の子らしく、薄いピンクのジャージを着た紗月ちゃんが竹箒(たけぼうき)を片手に近寄ってきた。


 「「おはようございます!」」 


 お互いに挨拶を交わしたあと、


 「少し、待っててくださいね!」


 紗月ちゃんは竹箒を俺に預けると家の裏へと走っていった。


 しばらくして戻ってきた紗月ちゃん。手には犬用のリードが握られている。


 「はいコレ、日本でのルールですよ!」


 にっこり笑顔で手渡されたリードを、俺は頭をかきながら受けとった。


 そうだよな、ここは日本なのだ。これからも、いろいろと気をつけないとな。


 シロにリードを付けてみた。


 シロを見ても、特に嫌がっている様子はない。


 尻尾も振っているし、リードを付けることに抵抗はないようだ。


 「ありがとう。じゃあ、行ってくるから!」



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script?guid=on挿絵(By みてみん)
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押すな。押すな~!
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シロかわいい! と感じたら押してください。シロが喜びます。U•ɷ•)ฅ
挿絵(By みてみん)
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