80. 佳奈子
ランナーズハイ。 マラソン選手などが稀に引き起こす現象で、脳内でモルヒネのような成分が分泌される。
これが β-エンドルフィンという物質らしのだが、まだよく解ってないらしい。
ようするに、キマッてしまうんだな。 しかし、渡住佳奈子の場合、ランニングやマラソンではない。
モンスターを流れるように葬って行く「殺刃」でキマッてしまうという、恐ろしい感覚の持ち主なのだ。
しかし、その殺刃は舞を踊っているかのように可憐で美しく、そしてカッコイイのだ。 つい見とれてしまう程に。
俺はクレープとみかんを手渡しながら、
「どうだ。 少しは落ち着いたか? 無茶してからに」
「す、すいません。気が付いたらあの状態だったもので」
「しかし、それを上手く制御出来ないようでは、とてもじゃないが真剣は渡せないな……」
「も、もう一度やらせてください。何とかしてみせます」
うん。まあ良いけど。 ほっぺにクリーム付けて言われてもな~。 可愛いけど。と、頬を指差しポケットティッシュを差し出した。
「しかし、ここがホントにダンジョンの中なんですね。凄いです」。
少し話を伺うと、死んだ爺さんが剣道日本一で地元で道場を開いていたらしい。
小さい時はお父さんの転勤が多く、爺さんの所でずっと暮らしていたらしいのだ。
それで、小さい頃からの剣の英才教育を受け、彼女自身も高校剣道日本一に輝いた程の腕を持っていたという訳だ。
それで鑑定した今のステータスがこちら。
カナコ・トスミ Lv3
年齢 27
状態 通常
HP 25/25
MP 8/8
筋力 14
防御 9
魔防 11
敏捷 15
器用 12
知力 7
【スキル】 魔法適性(雷)
【称号】 剣士、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
うん、筋力と敏捷特化で、称号にあるように「剣士」らしいステータスだな。
魔法適性は雷か。 と言うより、彼女は何で「加護」を取得しているんですかね~。 シロさん?
ん、なに。知らない?
という事は、女神さまが直接付けたのか~。
……ようするに、茉莉香のように鍛えろと。 そういう事でごぜぇーますね。 ――やれやれ。
休憩を終えた俺達は再びダンジョン攻略を開始した。 5階層では、ゴブリンの他にウルフとホブゴブリンが出没するが、全然相手にならない。
攻略スピードもハンパ無い。 もう、5階層のボス部屋に到着した。 だが、それすらもサクッとクリアして6階層に進んで行く。 この人なんなの? ――おかしい。
でも顔は笑っていない。素でも、これだけ強いのだ。 レベルが上がっていったら……、末恐ろしいものが有るな~。
止めましたよ。 7階層への階段で止めました。
放っておくとぶっ倒れるまでやりそうで。 取りあえず6階層の転移台座に登録させて、帰って来ましたー。
ここ ダンジョン・ハンゾー は初心者にもやさしく、 3階層 6階層 9階層に転移台座を設置しているのだ。
そして、5階層のボスは倒さなくとも、すり抜け可能になっている。 なお10階層からは通常通りの構造にしている。
俺達は裏庭から家に入った。居間の茂さんに帰還の挨拶をして、装備を外していく。
ダンジョンから戻る前にシロに浄化を掛けてもらったので、汗臭くもなく快適だ。
そして、いろいろと話をしなければならず、とりあえず座ってもらった。 まずは、
・渡住佳奈子 彼女に女神さまの加護が授けられた事。
・この加護は限られた少数の者にしか付かない事。
・魔法が使えるのは女神に認められた者だけである事。
・俺が異世界の人間である事。
・従魔が居る事。
・この世界に仲間が居る事。
・この世界に勇者が居る事。
・ダンジョンがここを合わせて3基ある事。
・東京に在るダンジョンが不安定で危険な事。
などなど、順に詳しく説明していく。
「ええっ! 本当に。 夢みたい」 とはしゃいでいた彼女だが、自分が与えられた使命を理解していくにつれ、表情が引き締まっていった。
「……私も、師匠とお呼びしても良いですよね」 と言い出した。 俺が師匠として勇者を鍛えていると説明したからだ。
「まあ、内々なら好きに読んだら良い」
「はい! 師匠。よろしくお願いします」
そして、魔力操作もしっかり教え込んで行く。 剣士に身体強化は 必須だろう。
「あ、ゲンさん。話の途中に申し訳ないけど、良いかい」 茂さんである。
別段問題ないので頷いて先を促すと。
「今ね、剛志さんから電話で。今週も京都で鍛えたいと言っているのだが。 どうする?」
……あぁ~。 使いたいよね魔法。 気持ちは分かるからなぁ。ワクワクして、真夜中でもダンジョンに行きたくなるよな~。
「OKです。 何時に迎えに行けば良いか聞いてください」
「うん、分ったよ。 今回こちからは、あまり参加出来ないけどね」 と言って、茂さんは連絡を取りだした。
では、こっちも慶子に連絡してみますかね。 あとは、タマが行くかどうか聞いてっと。
「渡住さん。あので…「佳奈子です! 師匠。佳奈子とお呼びください」
「あ、うん。佳奈子さん。週末の予定はどう? 開けられるなら、京都のダンジョンに行って見ない。 みんなで」
「え、京都にダンジョンが? それは是非とも調査が必要ですね。 行きます」
「それから師匠。さんは要りません。佳奈子と呼び捨てで」
そして、話がまとまり。 出発時刻を伝えると佳奈子は準備をしに いそいそと帰って行った。
10.16 金曜日
10.26満月 .20日ダンジョン




