79. 大物?
あれから3日、10月16日金曜日。 老松神社は今日も平和である。 高校生組はテスト前の勉強で、夕方からのダンジョン部も休止中である。
しかし、そんな事は関係ないとばかりにタマ姉は今日も元気だ。 初めはシブシブだったフウガや影達も、最近では黙々とレベルアップに励んでいる。
流石はタマ姉、影の首領である。 俺は昼から、シロとヤカンを連れて掃除をしに「女神の祠」へ向かっていた。
参道の階段を下り、途中から雑木林を抜けて行く。 よく通るここは今や獣道のようになっている。
そこを抜けて祠のエリアに出て来たのだが、今回はお客さんが、 ……ではなく、参拝者かな。 女性が一人、祠の前に佇んでいた。
箒を手に石の祠を回り込んでみると。 おや、この人確か、先週自衛隊の人と一緒に来てた。 ええっと……渡住さん? 渡住佳奈子さん だったかな。
俺達が祠の正面に回ると。渡住さんは丁度、祠に向かって手を合わせているところであった。
えっ! ……何に驚いたのかというと、渡住さんの身体が光っているのだ。
俺が呆然としている中、向こうも此方に気付いたらしく、
「あっ、こんにちは~。お掃除ですか?」 と挨拶してきた。 はっ、と我にかえり、
「渡住さんでしたね。こんにちはー」 と、少しぎこちなくなったが挨拶を返した。
「なにか、ここは不思議な空間ですよね~。 この辺は隈なく調査しているはずなのに、こんな立派な祠があるなんて誰も報告してないのですから」 と不思議そうだ。
「調査の方は順調なんですか?」
「ダンジョンのですか? 自衛隊さんにも協力をしてもらっているのですが、なかなか厳しくて」
「それじゃあ。掃除が終わったら、案内しましょうか?」
「ええー。本当ですか! ぜひぜひお願いします」
それから、俺達は渡住さんにも手伝ってもらいながら 「女神の祠」と「野干の祠」の清掃を終えた。
それから、神社に帰って来た俺は茂さんに声を掛け、家に上がってもらった。 まずは、お茶を飲んで一息入れてから。
「お掃除を手伝っていただき、ありがとうございます。 ダンジョンの調査でしたよね? では、入ってみましょうか」 さらりと言ってみた。
「えっ、えっ。 でも危険なのでは。 自衛隊さんも責任が持てないから当面はダメだって」
「大丈夫ですよ。 装備も用意できますし、確りお守りしますから」
すると、渡住さんも意を決したのか真剣な顔で頷くのだった。 なら、ついでにモンスターも倒してみましょうと、使ってみたい得物を聞いてみると。
「では、バスターソードは有りますか?」 と躊躇なく聞いて来た。
ん! もしかして、いける口なのか? 俺はスッと鞘入りの軽量バスターソードをテーブルに出してみた。
「えっ、本物? どこから、インベントリーなの」 と、ボソボソ言っている。
おおっ。かな~りいける口みたいだ。 楽しくなった俺は、ワイバーンのローブ クナイ2本差しベルト サイズを聞いてブーツも出してやった。
「えっ。 なになに。すご~い」 とか言いながらも、自分で装備を付けて行く彼女は 意外に大物かもしれない。
低階層なら本来、装備なんか必要のない俺なのだが、初めはカッコからだよな~とか思いながら革鎧を装着した。
装備が整ったので、茂さんに 「ちょっと行ってきます」 と挨拶して、裏口から外に出た。
そして、転移台座に登録させ。そのまま、ダンジョン・ハンゾー の1階層に出て来た。
後はいつもやってるように、シロちゃんに先導させモンスターを狩っていく。
まあ、モンスターと言ってもスライムなんだが。 軽量バスターソードは刀身もグリップもチタン製だ。刀身の芯鉄部分のみミスリル合金を使用して切れ味を良くしている。
ちなみに刀身の色は人気の高かった チタンブルー を採用している。
さて、渡住さんの様子だが。高校までは剣道をやっていたらしく、シロが見つけたスライムを次から次へとバスバス切り捨てて行く。
これは……、と思い2階層にやって来た。 それでも、勢いは止らず今度はコボルトをボスボス切り伏せて行く。
そして笑っている。 そう、彼女は笑っているのだ。 薄く微笑を浮かべながら流れるようにコボルトを葬っていく。
もしや刃物を持たせたらダメな人だったのかも……。
これは……、とさらに4階層までやって来た。
3階層を飛ばしたのは2階層と同じ、スライムとコボルトで少し強くなってる程度だからだ。
だが、止まらない。 笑っている。 レベルが上がって、更に加速しはじめた。 コボルトは元よりゴブリンも難なく切り倒していく。
そして彼女を見ていて気が付いたのだが、動きに無駄が無くなってきた。凄い! まるで剣豪だ。
シロも知ってか知らずか、ゴブリンばかりを当てている。 そう、彼女を鍛えるが如く。
そして、とうとう5階層。 身体レベルも3に上がっている。 まあ、あれだけ倒せばなぁ。 ……ん!
「ストップ! ストップ! ちょっと手を見せて」
うわぁー。まめが潰れて、血だらけじゃん。
「あ! ご、ごめんなさい。痛たた」
俺は低級ヒールポーションを取り出し、患部に塗ってやる。
「一旦、休憩だ。これに座って」 と、小さな椅子を2脚だした。水筒も渡し、水分補給もさせる。
「わ、わたし。なんで?」
本人は分ってなかったのだろう。 一種の「ランナーズハイ」だよな。
10.16 金曜日
10.26満月 .20日ダンジョン




