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76. 京都入り・娘三原則

 そして(むか)えた週末。


 連休をまえに東京入りしていた俺はダンジョンの状況(じょうきょう)を確認したあと、池袋にて剛志(つよし)さん家族と合流した。


 んっ? ああ、今回東京に出てきたのは俺だけなんだ。


 もちろん従魔(じゅうま)であるシロとヤカンは俺のまわりをうろちょろしているけどね。


 こちらに出てくる前だけど、福岡にて……。


 「ゲン様お一人だけでは何かとご不便(ふべん)でしょう。ぜひ私めの同行もお(ゆる)しください!」


 「そうニャ、タマも東京の築地(つきじ)に行きたいのニャ。中トロいっぱいたべるのニャ!」


 ムムムムムと下から突き上げるように迫ってくるメイドの二人。


 「今回は時間もあまりないし、ふたりには合宿時の買い出しなんかをやってもらわないと困る。それに今からでは帰りの新幹線の座席がとれないだろう」


 「「…………」」


 「そ、そうだ、キロには京都の観光名所の下調べをたのむ」


 「下調べ……ですか?」


 「おう、今回どこをまわるかはキロが決めていいぞ。10人を超える大所帯(おおじょたい)になるから、しっかりした計画を立ててくれ」


 そういって新しいるるぶを渡してやると、目を輝かせながらキロはどこかへ去っていった。


 そんでもって、もう一人はコレだ。


 【ちゅーる贅沢(ぜいたく)本まぐろ4本入り】


 「タマにはコレやるから今回は我慢(がまん)してくれ」


 そういうや(いな)や、シュタッ! と俺の手からちゅーるを奪ってタマはどこかへ去っていった。


 ――やれやれ。


 とまぁ、そんなやり取りもありましたが昨晩(さくばん)


 剛志さんと二人でキャッキャウフフを楽しんでまいりました~。


 (せっかくひとりで来ているからね)


 どこに行ったか具体的にいうとキャバクラですな。


 いや~、さすがに東京といったところかキャバ嬢の質も高いっすわ。


 ぜーんぶ剛志さんのおごりだったので他に()らすようなことはありませんけど、


 剛志さん(ぼう)キャバクラの『ゆう譲』とはどんな感じなんですかね~?


 「おっ、そのバッグ使ってくれてるんだ。うれしいなぁ」


 「あったりまえじゃない! 剛志さんの愛が()まったバッグだもん!」


 おや~、酔っぱらってる剛志さんから爆弾発言(ばくだんはつげん)が飛び出しましたよぉ。


 愛がつまってるなんて言ってますけど。(バッグだけに)


 んなもん、みんなにおねだりしているに決まってるじゃないですか~。


 キャバ嬢の誕生日が年に何回あるか知ってるんですか?


 ブランドと形と色を指定されたらアウトです。


 あなたの買ったものは今ごろどっかの質屋に流れていることでしょう。


 俺も大人ですから、夢を(こわ)すようなことは言いたかありませんけど、何事もほどほどがよろしいかと思いますよ。


 まぁ考えさせられることもあったけれど、久しぶりに楽しかったー。


 セクキャバも楽しかったー。


 どことはいわないけど、丸出しでだっちゅーのはやめろ~。






 ただいまの時刻は夜の7時30分。


 新幹線で京都駅に着いた俺たちは駅構内(えきこうない)の自由通路を通って烏丸口(からすまるぐち)を目指していた。


 「ゲンさんすいませ~ん。うちお手洗いに行きたいんですけど」


 「私も一緒についていくわ」


 「じゃあ、俺もいっちゃおっかな」


 「ああ了解です。じゃあ俺はそこのエスカレーターの前で待ってますね」


 みんながトイレに行ってしまったので、手持ち無沙汰(ぶさた)になった俺はラインを確認しようとスマホを取り出した。


 と、その時である。


 「ちょっとすいませんね~。少しだけいいですか?」


 声を()けてきたのは制服(せいふく)を着た二人の警察官(けいさつかん)


 駅構内を巡回中(じゅんかいちゅう)荷物(にもつ)を持っていない俺を不審(ふしん)に思ったらしく職務質問(しょくむしつもん)してきたのだ。


 あらら どうしましょ。


 今俺一人だし。シロ呼んでも役に立たないし。


 (…………)


 そうだ! アレを使ってみよう。


 身分証(みぶんしょう)提示(ていじ)を求められた俺は、ジャケットの内ポケットから(うち)家紋(かもん)が入った印籠(いんろう)を提示した。


 「俺はゲン。東京から友人家族と共に今こちらに着いたところだ。今はトイレに行ってるからまもなく戻ってくるとおもう」


 「「これは大変失礼いたしました!」」 


 俺の言葉を聞いた警察官は(そろ)って敬礼(けいれい)をしている。


 「おや、戻ってきたようなのでもう行ってもいいかな?」


 「はい! お気をつけてどうぞ」 


 2人の警察官は敬礼したまま俺を送り出してくれた。


 ……ナニこれ! (すご)いんですけどぉ。


 (たし)かにコレなら身分証の代わりになるよな。ハハハハハ(汗)






 お花()みタイムを終えた俺たち4人は烏丸口を出てタクシーに乗り込んだ。


 向かった先は、前回行きそびれてしまった八坂神社(やさかじんじゃ)である。


 キロからの連絡によれば、みんなはすでに此方(こちら)へ来て待ってるそうだ。


 集合場所は合宿をおこなう稲荷山(いなりやま)にしてもよかったのだが、


 部屋と風呂の用意はできるものの、食事は間に合わないということだった。


 初日から弁当というのも味気ないだろう。


 それで飲食店が多い祇園(ぎおん)に集まって、みんなで食事をしようということになったのだ。


 福岡⇔京都 はダンジョンどうしがリンクしているので、


 母屋(おもや)の裏にある転移台座を利用すれば、京都へも簡単に移動することができるのだ。


 稲荷山にあるダンジョン・イナリへはもちろんのこと、府内数ヶ所へのジャンプアウトも可能となっている。


 ただ、こちらには転移台座の設置がないため、俺がいなければ一方通行になってしまうけどね。


 八坂神社の東に隣接(りんせつ)する丸山公園もそのジャンプアウト先の一つだ。


 もちろん人の目を避けるため、ジャンプアウト後しばらくは光学迷彩(こうがくめいさい)(ほどこ)されるようになっている。






 西の楼門(ろうもん)まえでタクシーを降りると、


 おおっ、これは(すご)いや!


 夜間(やかん)にライトアップされている八坂神社はなんとも幻想的(げんそうてき)でとても綺麗(きれい)だった。


 さてさて、みんなはどこに居るのかな?


 『どこだ』とラインで(たず)ねるてみると、『舞殿(まいどの)にいます』とキロからレスがついた。


 剛志さん一家と楼門をくぐり奥へ進んでいくと、


 おおぉ、これはまた……。


 舞殿を囲むように取り付けられた三段提灯(ちょうちん)の鮮やかなことよ。


 これは写真に撮らなければとスマホを構えていると、


 「ゲンパパ~!」


 メアリーが元気いっぱい飛び込んでくる。


 おいおい、嬉しいのはわかるけどケガしないように気をつけてくれよ。


 それに、とても人が走る速さじゃなかったぞ。これが夜じゃなかったら完全にアウトだからね。


 紗月(さつき)茉莉香(まりか)(かえで)の三人は久しぶりに会えて嬉しかったのか手を取りあってキャーキャー騒いでいる。


 まあ、夜といういこともあいまってテンションが上がっているようだ。


 先ほど召喚したシロとヤカンも、なにが(うれ)しいのか三人の周りをグルグルまわっている。


 そして、この八坂神社の境内はペットOKなのである。さすがです八坂様!

 

 まぁ本来はペットバッグに入れるかペットカートを使用してくれということらしいけど、うちの子たちは見えないから大丈夫。


 さてさて、お参りを済ませたら急いでご飯にしますか。


 そうしないと、健太郎(けんたろう)が今にも死にそうな顔でうな()れているからね。


 (はい)になってしまう前に何とかしてあげないとね。 立て! 立つんだケンタロー。






 食事を終え、夜の鴨川散策(かもがわさんさく)を楽しんだ俺たちは、裏路地(うらろじ)から伏見(ふしみ)のお山へ転移(てんい)してきた。


 外はもう真っ暗(まっくら)なので、秘密基地(ひみつきち)のリビングに直接(ちょくせつ)飛んできたのだ。


 そして、さくさく部屋割(へやわ)りを決めたら、


 水のペットボトル・ティッシュ・タオル・バスローブなどの支給品を配っていく。


 足りないものや欲しいものがある場合は、明日の自由時間に駅前にて調達(ちょうたつ)してもらうようお願いした。


 まあ、今は各自(かくじ)マジックバッグを所持(しょじ)しているので、旅準備の方も万全だとは思うんだけどね。


 スマホに関しては、


 『お山だからもしかしたら電波が入り難いかも……』


 まわりにはそのように説明しているらしく、こちらも特に問題はないようだ。


 お次は温泉浴場(おんせんよくじょう)へ案内し、女性たちから利用してもらった。


 源泉(げんせん)かけ流しになっており、24時間いつでも奇麗(きれい)な温泉が楽しめるのだ。


 女性たちが上がってきたので、今度は男性陣が浴場へとはいった。


 男同士、(はだか)のつきあいだね。


 自分の身体(からだ)を洗ったあとはシロとヤカンもごしごし洗ってあげる。


 目の前でプルプルされてもこちらも裸なので問題なし。


 掛かり湯をした後、俺たちはゆっくりと湯舟(ゆぶね)()かった。


 ぷはぁ~~~、いい湯だ。






 「こっちの温泉はほのかに硫黄(いおう)(にお)いがしていいね~」


 「浴槽(よくそう)(ひのき)が使われていて贅沢(ぜいたく)だよね」


 茂さんのことばを皮切りに、お父さん二人はいろいろと話しを(はず)ませている。


 特に(むすめ)の話になると共感(きょうかん)するところが多いみたい。


 同じ世代の(むすめ)を持つ父親どうし話が合うんだろうね。


 俺もそれとなく話を聞いていると、


 「おや、興味があるのかい?」


 「あ、はい。俺も(むこ)うに娘が一人いまして。まだ2歳なんですけどね」


 「「あぁ~」」 


 お父さん二人がハモっている。


 「そう、あの(ころ)無垢(むく)で、パパ パパと……、うううぅ」


 剛志さんが目頭をおさえる。


 「そうか2歳かぁ。2歳ならまだ間にあうな!」 


 茂さんの言葉に剛志さんもコクコクと(うなず)きながら同意している。


 えっ、なんなの?


 なにが間にあうの!?


 「いやね、女の子に(おとず)れる思春期(ししゅんき)ていうのは案外早いって話だよ」


 「へ~。今の子供は発育(はついく)もいいですから、思春期も11歳ぐらいからですかね?」


 「「…………」」


 二人が(そろ)って首を横に()っている。


 「感受性(かんじゅせい)の強い子なんかは小学校の低学年(ていがくねん)からだよ」 


 「そうそう。だから7歳を過ぎたら、一緒にお風呂(ふろ)とかも気をつけた方がいいよね」


 代わる代わるお父さんたちが答えてくれる。


 「だけど、スキンシップとかは必要でしょう?」


 「あぁダメダメ。これは(おぼ)えておくといいよ、【(むすめ)三原則(さんげんそく)】」 


 「「見ない!・言わない!・(さわ)らない!」」 


 「…………」


 えぇ――っ! なにそれ。


 見ざる・聞かざる・言わざる的な?? 


 「まぁだいたい8歳頃からだね。たとえ娘にせがまれても一緒にお風呂はダメだからね」


 「そうそう、(むね)(ふく)らんできても鬼の心で無視(むし)するんだよ」


 「脱衣場(だついじょう)で娘の洗濯ものが見えないからって探しちゃダメだからね」


 真剣(しんけん)に語るお父さん二人に俺はただただ(うなず)くことしかできなかった。


 「そして紗月のことも(たの)んだからね。君が向こうに帰っているときの紗月なんて、もうね……、声がかけられないくらい(さび)しそうな顔をしているから」


 「は、はぁ……」


 「あっ、それと言っておくけど、神社の跡取(あとと)りのことなんて考えなくていいから。娘の幸せが最優先(さいゆうせん)だから」


 「…………」


 なんかそれらしいこと言ってますけど……、やんわり押しつけてませんかねぇ。



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挿絵(By みてみん)
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