表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/128

74. 会談

 そして週明けの月曜日。


 俺と(しげる)さんは静かに(・・・)昼食をすませた。


 あ、そうそう誤解(ごかい)のないようにいっておくと、神職(しんしょく)である茂さんや神社の子である紗月(さつき)は食事中の会話は基本的にしないのだ。


 『食事中は私語を(つつし)む』


 王国の貴族においても(ほとん)どがそうであるため、俺自身たいした違和感はない。


 二人でいる時はお互いもくもくと食べるだけなので食事の時間は割と短かかったりするのだ。


 昼食のあと、居間でお茶を(すす)りながら談笑(だんしょう)していると、


 ――ピンポーン!


 玄関から呼び鈴の音が聞えてきた。


 「あ、みえたようだね」


 茂さんは立ちあがると、いそいそと玄関の方へ向かっていった。


 今日の茂さんは白衣(びゃくえ)に薄い(もん)が入った紫の(はかま)神職(しんしょく)でいうところの平服姿である。


 時計を見ると午後1時を少しまわったところだ。


 茂さんの案内により居間へ入ってきたのは3人。男性が二人に女性が一人。


 その内の一人は俺たちもよく知る人物、坂井隊長(さかいたいちょう)であった。


 それぞれに座布団(ざぶとん)を配り、まずは自己紹介(じこしょうかい)


 男性の方は坂井隊長直属(ちょくぞく)の上官で、


 陸上自衛隊(りくじょうじえいたい)ダンジョン対策小隊(たいさくしょうたい)、小隊長の笹井(ささい)2等陸尉(りくい)


 年の頃は20代半ばで迷彩服(めいさいふく)を着用している。


 女性の方は内閣府(ないかくふ)からおみえの渡住佳奈子(とずみかなこ)さん。


 こちらは20代後半といったこころかな。


 丸首ブラウスの上に(こん)のパンツスーツ。


 髪は高めのお団子(だんご)ヘアーで、かっちりした印象(いんしょう)をうける。


 いかにもデキる女性という感じかな。


 内閣府では、この度【ダンジョン調査室(ちょうさしつ)】なるものが新設されており、現地調査(げんちちょうさ)のため、こちらに派遣(はけん)されてきたそうだ。






 ペットボトルに入ったお茶かミネラルウォーター、お好きな方をどうぞと全員に配っていく。


 まあ、どのみち話は長くなりそうだからね。


 飲み物が行き渡ったことを確認した俺は、一呼吸おいてから話しはじめた。


 「初めてみえる方もいらっしゃいますので、改めてダンジョンのあらましや役割(やくわり)についてご説明させて頂きます。なお質問される際は話が終ってから順にお願いいたします」


 なぜダンジョンが出現したのか? 


 どうしてダンジョンが必要なのか?


 ()(くだ)いてゆっくり説明していった。


 予備知識(よびちしき)のある自衛隊の方は真摯(しんし)に聞いておられたが、


 内閣府からみえられた渡住さんはというと、


 『まるで異世界(いせかい)での出来事のようだわ』


 『そんな非科学的(ひかがくてき)なことが本当に?』


 『婚約破棄(こんやくはき)する王子さまはいないのかしら?』


 にわかに信じられないといった面持(おもも)ちで、ブツブツと独り言を連発していた。


 さらにはダンジョンが力を及ぼせる範囲(はんい)のことや、魔素(まそ)の放出によって、これから起こるであろう魔獣(まじゅう)の出現などについても注意を(うなが)していく。


 そしてこれらの現象(げんしょう)は日本だけにとどまらず、近い未来この地球全体で起こってくることも言及(げんきゅう)しておいた。


 ある程度の受け答えを終えたとここで、


 それぞれに頭を整理する時間がいるだろうと、一旦休憩(きゅうけい)(はさ)むことにした。


 するといつ入ってきたのかメイド服を着たタマとキロがあらわれ、


 コーヒーか紅茶かを各自に(たず)ねた後、その場でポットからカップへ注いで渡していく。


 うん、洗練(せんれん)されたいつもの所作(しょさ)だね。


 えっ、畳の上だけど足元はどうなっているのか?


 そこは……、ご想像(そうぞう)におまかせいたします。


 だけど、みなさん目を丸くして固まってますね。


 ツーハイム邸ではごくありふれた光景ではあるのだけれど、こちらではメイドを目にすることも珍しいからね。


 ピロリロリン♪ ピロリロリン♪


 あっ 若干一名、スマホで撮影(さつえい)してる人がいる。


 でも、すぐにタマがスマホを没収(ぼっしゅう)、ダメダメと顔をよこに振っているぞ。


 あ~ぁ、消去させられちゃったよ。


 まぁ無断撮影(むだんさつえい)はマナー違反ですよね。メイド喫茶(きっさ)でやったら一発退場ものです。


 コーヒー飲みながらみんなで雑談(ざつだん)をしていると、


 「このまえ教えて頂いたダンジョン鉄ですが、昨日ようやく試作品(しさくひん)である銃剣(じゅうけん)が届きまして。使ってみたら、ものすごい切れ味でしたよ」


 「そうですか、お役に立てたようで良かったです。要は魔力を()びた鉄が必要だということです。これがミスリル合金にまでなると、あの台詞(せりふ)が口から出ますよ」


 ――今宵の斬鉄剣はひと味違うぞ――






 しばし休憩を挟んだ後、俺は話を再開させた。


 いよいよレベルアップについての話だ。


 これに関しては早くスタートが切れる日本がかなり有利になってくるはずだ。


 まぁそのうちアメリカあたりが()ぎつけて、『俺達も入れろ』と圧力をかけてくるかもしれないけど。


 レベルの概念(がいねん)数値表示(すうちひょうじ)について説明していく。


 スキルの出現(しゅつげん)は実際にダンジョンに入って探索(たんさく)しながら確認していくしかない。


 【剣術】や【槍術(そうじゅつ)】などの戦闘系(せんとうけい)スキル、【採掘(さいくつ)】や【栽培(さいばい)】といった生産系スキル、さらには【鑑定(かんてい)】や【魔力操作(まりょくそうさ)】といった重要なスキルもあるけど、これらはダンジョンに入らないと出現しないのだ。


 せっかくなので坂井隊長のステータスを(のぞ)いてみることにしよう。――鑑定!



 ジロウ・サカイ  Lv.2


 年齢    23

 状態    通常

 HP    36/36

 MP    4/4

 筋力    16

 防御    12

 魔防     4

 敏捷    13

 器用    13

 知力     4

【スキル】   槍術(1)鑑定(1)



 元々自衛隊で体を(きた)えてきたからだろうか、基礎値(きそち)はやや高めだな。


 MPは低いけど、これからの努力次第ということで。


 ダンジョン探索がメインになるなら、【身体強化】につながる【魔力操作】のスキルは是非(ぜひ)ともほしいところだけど。


 【槍術】のスキルがあるのは……、


 銃剣術(じゅうけんじゅつ)は槍術の延長(えんちょう)ということなのだろうか?


 さらに【鑑定】スキルが出現している。


 これは帰りにでも鑑定のやり方について教えてあげないとな。






 ここからはダンジョンで手に入るドロップ品についての話をしよう。


 ドロップ品のトップはやはり魔石(ませき)ということになるのだろうか。


 魔石からエネルギーを取り出すにしても、魔道具の原料として使うにしても、これからの研究次第ということになる。


 よって、魔石がどのくらいの価値をもつのか、現時点ではわからない。

 

 あとはメジャーなところでいうとポーション類があげられる。


 ヒールポーション・ハイヒールポーションは外傷(がいしょう)に効果をもたらすが、脳出血(のうしゅっけつ)動脈瘤(どうみゃくりゅう)といった一部の疾患(しっかん)にも効果があったりするのだ。


 つまり、体内の血管を正常化(せいじょうか)させる作用があるのだ。


 これを発表すると医学会がひっくり返るな。


 どうするかは日本政府に任せるが、慎重(しんちょう)にやらないと全世界が日本のダンジョンをロックオンすることになる。


 おや渡住さん。 スマホを持ってどこかへ行っちゃったよ。トイレかな?


 次は鉱物資源(こうぶつしげん)についてだな。


 ダンジョンのフィールド内では鉄を中心に様々な鉱石が()れる。


 ここでいう鉄とはもちろん【ダンジョン・スチール (迷宮鉄) 】のことであるが、運が良ければコロンと宝石やミスリルが採れたりもするのだ。まさに宝の山だね。


 【採掘】スキルが出現した人は鉱石を積極的に(ねら)っていくのもありかもしれない。


 そして【宝箱(たからばこ)】。


 これについては説明はいらないと思うけど。


 中身の一例をあげるなら、


 各種ポーション・剣や盾といった武具類・金やミスリルのインゴット・宝石や装飾品・能力を伸ばすアイテム・マジックバッグ・単発魔法の使い捨てスクロールなどなど、楽しみいっぱい夢いっぱいの仕様になっている。


 「私は魔法のスクロールとやらを使ってみたいですね」


 「能力を伸ばすアイテムとは魅力的(みりょくてき)です」


 「サービス、サービスぅ♪」


 なに言ってるのかわからない人がいますねぇ。トイレからはいつ戻ってきたのでしょう?


 それから(わな)付きの宝箱も1割ほどあるので注意してほしいです。


 特に毒ガスなんかはみんなを巻き込んでしまいますからね。






 その他は……、


 そうそう、転移魔法陣とボス部屋のある階層の説明もいるな。


 1パーティーが6人制であることなど一通り説明していく。


 そして最後に、


 【魔力操作(まりょくそうさ)】の訓練について説明をおこなった。


 地道に毎日続けることの重要性をといていく。 


 『では実際にやってみましょう』というこになり、


 坂井隊長を相手に、まずは魔力感知から試してもらう。


 魔力感知ができたら、瞑想(めいそう)してもらいながら訓練のやり方を指導(しどう)していく。 


 「これを行うことで何が変わったりするんですか?」


 坂井隊長からの問いかけに、


 「まず【魔力操作】のスキルを得ることで魔法に対する防御力(ぼうぎょりょく)が上がります。それに頑張って【身体強化】のスキルまで取れれば戦闘力が飛躍的(ひやくてき)に向上しますよ。上の階層(かいそう)を目指していくなら必須(ひっす)ですね」


 「私たちも頑張ればス〇パーサイヤ人になれるということですね」


 「MPを使用するので無限というわけではありませんけど」


 渡住さんの言葉に、ニッコリ笑って返しておく。


 これで話は大方(おおかた)終わった訳だが。


 あっ、……それ聞きますよねぇ。


 【赤いヤツ】の話。


 まあ、すでに目星(めぼし)もついてるようだし。


 んん~、どうすっかな……。


 よし、ここはすっぱりと言ってしまおう! 


 「実をいいますと彼は【勇者(ゆうしゃ)】なんですよね」


 「はっ?」


 「えっ!」


 「勇者さま♪」


 渡住さんはこういうの大好物なんだね。


 今はほっといて話を続けますよ。


 「本当です。彼は女神から選ばれたこの世界の【勇者】なのです」


 「女神……ですか」


 「伊耶那美命(いざなみのみこと)とか?」


 「ああっ女神さまっ」


 (おお、坂井隊長はなかなかいい線いってる。イザナミも創造神(そうぞうしん)だからね。 渡住さんは……うん、すこし(だま)ろうか)


 「まぁ女神とかが出てくるとどうしても胡散臭(うさんくさ)くはなってしまいますけど……。 しかし考えてもみてください。地表にはダンジョンが現れ、人々にはスキルが(そな)わるような異常事態(いじょうじたい)です。これらを(かんが)みれば、そう ”ありえない話” でもないでしょう」


 「…………」


 「…………」


 「…………」


 「まあ、ですから、彼を保護(ほご)するといいますか。こんな世の中ですので、(さら)されないよう気を配ってあげてください」


 一度お会いしたいということなので、本人の意向(いこう)も踏まえて近々セッティングすることになった。


 「わかってあるとは思いますが、これまでお話したことは内々の話しとして(とど)め、情報漏洩(じょうほうろうえい)には十分なご配慮をお願いいたします」


 茂さんは言葉を述べたあとに頭をさげる。


 まわりの者も、それに合わせるように一礼して今回の会談は終了した。







10月5日 (月曜日)  

次の満月は10月26日

ダンジョン覚醒まで31日



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押すな。押すな~!
小説家になろう 勝手にランキング
シロかわいい! と感じたら押してください。シロが喜びます。U•ɷ•)ฅ
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ