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4. 水無月

 「ささ、こちらへどうぞ」


 巫女(みこ)さんに(みちび)かれ、俺は授与所(じゅよしょ)近くの床几(しょうぎ)に腰掛けた。


 (床几:竹製で座の部分は布が張ってある折り畳み式の長椅子。赤い毛氈(もうせん)が敷いてある)


 日よけだろうか、赤い野点傘(のだてがさ)が差してある。


 でも、神社に野点傘ってどうなの?


 とも思ったのだが、雰囲気(ふんいき)づくりでやっているのかもしれないな。


 巫女さんはポットのお湯を急須(きゅうす)(そそ)ぎいれる。


 そして湯のみにお茶を()れると、


 「本日はよくお参りくださいました。お茶をどうぞ~」


 「うん、ありがとう」


 そう言って頭を下げ、隣りに置かれた茶をいただく。


 ふぅ、(うま)~い。


 煎茶(せんちゃ)なんて何年ぶりだろう。もちろんあちらの世界には無いものだ。


 俺がフーフーしながらも飲み干すのを見て、


 「もう一つ、お入れしますね」


 急須からお茶を注いでくれた。


 シロは木製の(うつわ)に入れてもらった水を飲んでいる。


 すると巫女さんは和菓子(わがし)を皿に乗せて出してくれた。


 「ほう、水無月(みなずき)ですか。これは良い!」


 「本当に外国の方ですか? よくご存知ですよね」


 「だって三角だし、前は日本に住んでましたから」


 「へ~、そうだったんですねぇ。でも詳しすぎませんか?」


 すると巫女さんは自ら床几へ腰掛けると、お茶を飲みながら話しはじめた。






 「ここは老松神社(おいまつじんじゃ)といいまして…………、平安時代に菅原道真(すがわらのみちざね)が立ち寄ったとのいい伝えもあり…………、大宰府の祈願所(きがんしょ)なので、ここにお参りすると太宰府天満宮(だざいふてんまんぐう)に参るのと同様のご加護があるとされているんですよ」


 ふむふむ、平安時代から続く由緒(ゆいしょ)ある神社なんだねぇ。


 「京都には昔から夏越の祓(なごしのはらい)の日に水無月 (和菓子) を食べて邪気(じゃき)(はら)う風習があるのですが。それを真似(まね)て福岡の和菓子屋でも【水無月】と名づけたお菓子をこの時期に作るようになったんですよ…………」


 などなど、神社にまつわる話をいっぱいしてくれた。


 巫女だからかもしれないが、所作(しょさ)が古風というか日本的というか……、


 今どきの子にしては珍しいよな。


 なんてことを思っていると、父親がこの神社の宮司(ぐうじ)なんだそうだ。


 あっ、それでか……。


 母親もこの神社に生れ、若い頃は巫女を務めていたらしいのだが、自分が3歳の時に亡くなってしまったので詳しいことはわからないそうだ。


 それからも吐露(とろ)するように話しつづける巫女さん。


 ………………


 「えっ、私。何でこんなことまで喋っているんだろう?」


 巫女さんは口を手で(おお)いながら立ち上がると、いそいそと後片付けをはじめた。


 「こちらはお下げしますね。どうぞ、ゆっくりしていってください」


 「俺はゲン、こっちは愛犬のシロ。聞いてあげることはできるから、何でも好きに話してくれて構わないよ」


 「あ、名前! 私は紗月(さつき)です。真領路紗月(しんりょうじ・さつき)といいます。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げている巫女さん。 ふ~ん、紗月ちゃんっていうのかぁ。






 そうだ、大事なことを聞いておかないとな。


 「それで紗月ちゃん、今日は何月何日か教えて欲しいんだけど。 ほら、俺ってスマホも時計も持ってないし」 


 「あっ、はい。今日は7月4日ですね。土曜日で学校が休みなので、こうしてお手伝いしているんですよ」


 「そうか7月4日だったかぁ。(ちな)みに何年だっけ?」


 「えっと~、西暦でいえば確か2026年だったと思いますけど……」


 人差し指を口にあて、コテン? と首をかしげる姿がなんとも可愛い。


 巫女姿だからなおさらだぁ~。


 ――じゃない! 


 俺は意識を引きもどし、腕ぐみしながら考える。


 そうか……。


 2026年ということは俺が死んで5年後?


 向こうの世界 (サーメクス) では10年間生活してきているのにだ。


 ――計算が合わない。


 でも、これって仕方がないのかも……。


 人間が考える計算というか、物差し(ものさし)だからな。


 そこには時間の流れが違っていたり、次元がねじれていたりということもありえる。


 本当にここが、以前俺が生活していた世界なのか?


 パラレルワールドということも十分考えられる。


 なので早い話が…………、 ”考えるだけムダ” ということだな。


 そこに有るものを現実として受け入れる。 それでいいだろう。






 「ところで、紗月ちゃんはいつも巫女姿なの?」 


 「いえいえ、これは夏越の祓(なごしのはらえ)があったからです。氏子(うじこ)さん達は先日お見えいただいて茅の輪(ちのわ)くぐりは済まされましたし、私がこの恰好(かっこう)でいるのは明日の日曜日までです。あとは例祭(れいさい) (大祭式例祭)の時や、年末年始などに巫女としてお仕えしている感じですね」


 イキイキとして答えてくれた。


 そのあとも、例祭は太宰府天満宮(だざいふてんまんぐう)と一緒で秋分の日からだとか、お神輿(みこし)や夜店もでて(にぎ)やかだとか……。


 一人で喋りまくってたな。


 そして最後に、


 「あんな所に座ってらしたのは、その……、何かあったのですか?」


 まじまじと心配顔で質問されてしまった。


 ――って、顔近いから!


 「うん、え~とね、朝シロ連れて散歩してたら穴ぽこに落っこちちゃってね、気がついたらそこの雑木林(ぞうきばやし)に居たんだよ…………」


 割と本当のことを言ってみた。


 「すっ、すごいです! 転移です! 神隠(かみかく)しです! 超常現象ちょうじょうげんしょうです!」


 疑うどころか、まるっと信じやがったぞ。 おい!


 この()の将来がすこし心配になってきた。


 そう、(つぼ)を買わされる未来が見える!


 それでも気づかなくて、壺を(なが)めながらへへへっと笑っていそうだ。


 「ゲンさん、ゲンさ~ん!」


 おっと、いかんいかん。 未来は誰にもわからないのだ。


 「はい、すいません。すこし考えごとをしていたもので……」


 「もう、しょうがないですね」


 いやいやいや、しょうがないのはお前さんの方だよ。壺売り (霊感商法) には気をつけろ。 


 「では、泊るところもないんですよねぇ。ん~、ゆっくりお話しもしたいですし……。父が帰ったら聞いてみますね」


 ……だと。


 いいのか? そんなすぐに人を信用して。


 お父さんが帰ってきたら、ぜったい怒られる…………事はなかった。


 ――お父さんも良き人でしたぁ。


 「困っているときはお互い様だから、何日でもゆっくりしていったらいいよ」


 ……だそうだ。


 ”この親にしてこの()あり” だな。 お人好しすぎる。


 ……でも、ご厄介(やっかい)にはなっちゃいますけどねぇ。 行くあてもないしぃ。


 それに、なんとシロまで家にあげていいらしい。


 なんて家だ! 素晴らしいぞ。


 「ゲンさーん、お風呂どうぞ~」


 「いえいえ、家長(かちょう)より先にいただくわけには参りません」


 「なに古臭いこと言ってるんですか。もう、後がつかえてるんですから早く入ってください!」 


 「それに、はいっ! 着替えのジャージです。下着は父のお古ですけど我慢してくださいね。洗濯物はそこの(かご)にお願いしますね。では、ごゆっくり!」


 いやぁ、紗月ちゃん。こういうところは確りしているんだなぁ。


 母親が居ないからなのかな……。


 俺は風呂に()かりながら自分を鑑定した。


 ふむっ、やっぱりMPの回復が遅いみたいだ。


 まあ、日本に居るとすれば魔法を使うことなんてそうはないだろうし。


 インベントリーはそのまま使えているし、今のところ問題ないよな。



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script?guid=on挿絵(By みてみん)
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押すな。押すな~!
小説家になろう 勝手にランキング
シロかわいい! と感じたら押してください。シロが喜びます。U•ɷ•)ฅ
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
[良い点] 素直で可愛い巫女さん( *´艸`) でも、壺には気をつけて!(笑)
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