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73. タマのおやつ

 俺・シロ・ヤカン・タマの4人はいまダンジョン・カンゾーの8階層(かいそう)にきていた。


 (めんどくさいのでシロもヤカンも一人とカウントしてます)


 女神さまにお祈りしたところタマに魔法スキルが生えてきたのだ。


 そこで魔法を(さず)かって喜んでいるタマを連れ、試し撃ちをしながらダンジョン内を移動してるというわけ。


 なぜ8階層なのかというと、


 ホーンラビットコロシアムがあるからね。 通称【うさコロ】だ。


 こちらのモンスター・ハウスは出てくるモンスターはホーンラビットの一種だし、数も50匹と定数だから魔法の試し撃ちにはピッタシな環境(かんきょう)なのだ。


 タマに装備(そうび)を付けさせて【うさコロ】に突入していく。


 タマの装備はミスリル製の鎖帷子(くさりかたびら)の上に黒装束(くろしょうぞく)といった()で立ち。


 頭から(かぶ)っている頭巾(ずきん)黒塗(くろぬ)りの鎖帷子なんだけども、猫耳つきであるためか、どことなくほんわかしている。


 まあ、(かげ)たちにまじってもタマだとすぐわかるからいいんだけどね。


 まずエアハンマーを試し、ホーンラビットがリポップするのをまって、こんどはデビルカッターの威力(いりょく)や使い出を確認していく。


 魔力操作(まりょくそうさ)がしっかりと行えているようで魔法の発動もスムーズだな。


 「ご主人様ありがとニャ。これで(さら)に上をめざせるニャ。あいつらも徹底的(てっていてき)(きた)えてやるニャン!」


 「感謝するなら女神さまにだな。フウガたちを鍛えるのはいいけど仕事に差し支えないよう、ほどほどにしてやれよ」


 タマによるブートキャンプはめちゃくちゃ(きび)しそうだからな。


 ――フウガたちは生き残ることができるか。


 魔法の試し撃ちを終え、タマを鑑定(かんてい)してみると風魔法のレベルが3まで上がっていた。


 うん良い感じだ。魔法はやっぱり魔力操作が(きも)なんだよね


 お次は結界魔法(けっかいまほう)だけれど、こちらは影の者にはうってつけの魔法だな。


 猫耳や尻尾(しっぽ)(かく)すのにも使えてとても便利。


 普段(ふだん)から常時発動(じょうじはつどう)させて()れさせないとね。






 ダンジョンから出てきた俺たちはその足でイヲンモールへ向かっていた。


 タマの格好(かっこう)も黒装束から普段着(ふだんぎ)へもどしている。


 ストレートのブルージーンズに白黒ボーダーの長袖カットソー。


 それに猫耳つきの黒いニット帽を頭に(かぶ)せている。


 いつもはメイド服か黒装束かの二択になるので、こういった(ようお)いのタマは新鮮でとても可愛い。


 日本に来たばかりのタマはこちらの服はまだもってない。


 いまは体型が一番近いマリアベルから服を借りている状態だ。


 まったく、ダンジョンばかり入ってないで服を買いに行ってこいと言いたい。


 まぁ今から服を買いにまわってもいいけど、今日はあまり時間がないからね。


 では、何しにイヲンまで来たのかというと、


 いつも頑張(がんば)ってくれているタマに ”おやつ” を買ってあげたかったのだ。


 「さあイヲンに着いたぞー。タマはおやつをいっぱい買え。気に入ったものがあったらこの緑のカゴに入れていくんだ……、ってどこいった?」


 「これがいいニャ!」


 そう言ってタマがもってきたのはお子様用のアンパンマン・カート。


 見えないからって、シロがドヤ顔で前に座っている。


 「ああ、そっちは子供連れの人が使うカートなんだ。俺たちはこっちを使うからな」


 「そうだったのニャ、返してくるニャン」


 アンパンマン・カートを戻させたあと、俺は緑のカゴを買い物カートにセットし、それをタマに引き渡した。


 タマは物珍(ものめずら)しそうに周りをキョロキョロしながら、カートを押して店内をまわっていく。


 シロとヤカンもタマについていくようだ。


 光学迷彩(こうがくめいさい)()けているけど、人にぶつからないように注意するんだぞぉ。






 家飲み用のビールとつまみをカゴに入れ、俺がレジの付近でまっていると、


 いまだにキョロキョロしながらあれこれ手にとっているタマが遠目(とうめ)にうつる。


 すごいよなぁ。


 あんなによそ見しているのに、よく人とぶつからないものだ。


 ん……、そうか、認識阻害(にんしきそがい)の結界か。シロが教えたんだな。


 ………………


 ようやくタマが戻ってきた。


 カゴを見ると沢山(たくさん)のおやつが入っている。


 乾燥煮干(かんそうにぼ)しにスナック菓子のお〇とっと、(なつ)かしのオレンジ色のさかな形おかきにアーモンド魚。


 ビール飲むときに少しわけてもらおうかな。


 あとは何が入ってるんだぁ。


 3つセットのツナ缶に魚肉ソーセージ、たい焼きアイスが入っているのがかわいい。


 おっ、なんだぁ!? 


 これって【チュール】じゃん!


 おもわずチュールを手にとってしまった。


 「タ、タマ、これはな……」


 「大丈夫ニャ! みんな買ってたニャ! パッケージに白猫が()ってるニャン」


 いや、まあ、そうなんだけど……。 食べて大丈夫なのかぁ?


 それからカゴの中をよく見ると、


 下の方に【徳用油あげ】や【BIG犬ガム】が見えている。


 これはまぁ、見なかったことにしてあげよう。


 俺たちはレジを済ませるとイヲンをでた。


 川べりの道を神社へ向かって帰っていると、シロが尻尾(しっぽ)()って何かに反応している。


 この先には俺たちがいつも行っているスーパーがあるのだが。






 道路わきから駐車場(ちゅうしゃじょう)ごしにスーパーの方を見やると、紗月(さつき)茉莉香(まりか)が大きな買い物袋を下げてこちらに向かってきていた。


 学校帰りに寄ったのだろうか、二人は制服(せいふく)のままである。


 「よう、ふたり共お帰り~。荷物(にもつ)なら持つぞ」


 「タマも持ちますニャン」


 茉莉香が持っていた重たそうなエコバッグを俺が(うば)うように受けとると、タマも紗月から袋を一つ受けとっていた。

 

 「おかありゲん様。タマさんちょりーっす! こっちからだとイヲンに行ってた?」


 茉莉香はシロとヤカンの頭を()でると、スクールバッグから(ぼう)付きキャンディーを出して渡している。


 「おう。みんなでおやつを買いにな」


 「「ああ――っ、いいなぁー」」


 「じゃあこんどタマの服を買いにいくから付きあってくれ! モフバーガーでどうだ?」


 「いくいく――!」


 「わたしも行きます!」


 「じゃ、決まりということで」


 すると紗月が、


 「タマさんの短剣術はかなりの腕だってメアリーから聞いてますよ」


 「おう凄いぞ。魔法も使えるようになったし、今度一緒に(もぐ)ってみるか?」


 「はい、是非(ぜひ)に!」


 「タマはどうだ?」


 「タマの戦い方を見たいなにゃんて、紗月はなかなか見どころあるニャー」


 「じゃあ、タマも今日から部活に参戦(さんせん)な!」


 「はいニャ!」


 無論フウガたちもである。


 そしてみんなで神社へと戻り、手早く夕飯の準備に取りかかる。


 今日は金曜日だからカレーだな。


 トッピングにするとんかつや白身魚フライをつくるため、下ごしらえの終わった具材を次々と油で()げていく。


 揚げた物はしっかり油をきってすぐに俺のインベントリーへ収納(しゅうのう)


 これで、いつでも揚げたてサクサクなのだ。


 カレーは大型の寸胴鍋(ずんどうなべ)に準備して、煮込んでいる間は俺が見ていることになった。


 「師匠(ししょう)、いただきます!」


 「いや、そこは『ただいま』だろうが。ほれ牛丼だ! 向こういって準備してこい」


 「あざっす!」


 健太郎(けんたろう)が顔を出したところで、装備を身に付けたみんなはダンジョンへと潜っていく。


 みんな頑張ってくるんだぞー。 






 そうしてカレーを見ながらヤカンとダベっていると、珍しいことに(しげる)さんが台所へ顔をだした。


 「どうかされましたか?」


 「うん、今日の昼過ぎに自衛隊(じえいたい)の方から連絡があってね、来週の月曜日に此方(こちら)に見えるそうなんだけど、都合は大丈夫だったかい?」


 「はい、月曜日なら問題ありません。予定に入れておきますね」


 いよいよ来ましたか。


 この前の健太郎の件も含めて、いろいろと突っ込まれそうだよな。


 どこまで話していいものやら? 


 そのへんは相手の様子を見ながら判断していきましょうかね。


 他のダンジョンの話もするべきだろうか?


 東京へは、近々もう一度行ってみるつもりではあるけど。


 東京ダンジョン (仮) が制御(せいぎょ)できないということになれば、地震の他にスタンピードにも警戒(けいかい)が必要になるだろう。


 モンスターに対して銃やライフルが有効でない以上、主力兵器(しゅりょくへいき)はより強力な重機関銃(じゅうきかんじゅう)やグレネードランチャーといったものになる。


 車両もよくて装甲車(そうこうしゃ)までだろう。


 戦車(せんしゃ)や16式機動戦闘車の使用は市街戦(しがいせん)では(ひか)えたい。


 航空機による空爆(くうばく)やミサイル兵器の使用も同様だな。


 まあ、それも政府(せいふ)の判断次第になるだろうが。


 どうしようもなくなれば使う可能性(かのうせい)もあるけど、東京の町が滅茶苦茶(むちゃくちゃ)になってしまうだろう。


 そうなれば復興(ふっこう)莫大(ばくだい)な費用が掛かってしまう。


 やはり白兵戦(はくへいせん)メインで、モンスターをダンジョンへ押し返すような戦い方が良いように思うのだ。


 どのみち東京ダンジョン (仮) の様子を見てからになるが、


 こちらもすぐに動けるよう、準備(じゅんび)だけは進めておくことにしよう。


 残り二つのダンジョンが覚醒(かくせい)するまでおよそ一ヶ月。


 この先でどう転ぶかなんて誰もわからないのだから。



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挿絵(By みてみん)
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