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69. 魔法陣

 [はい♪ 承知(しょうち)しました。それではわたくしこれよりノギザカ…]


 (おおい! ハルカな。ハルカだけだ) 俺はユウトではないのだ。


 [かしこまりました。これより【ハルカ】と名乗らせていただきます]


 (さっそくだけど、最近この近辺に千人もの人族や獣人(じゅうじん)が集められていたみたいだけど、その者たちの消息(しょうそく)ついて何かわかるか?)


 [はい旦那(だんな)さま。その者たちでございましたら、……カクカク・シカジカ・コレコレ・ウマウマ……このような動きでございました]


 ……なるほど。


 勇者召喚(ゆうしゃしょうかん)にその者たちの(たましい)を使い、亡骸(なきがら)処分(しょぶん)にダンジョンを使ったわけね。


 大方、この教会の何処(どこ)かに勇者召喚用の魔法陣が残されているのだろう。


 しかし、


 たった一人を異世界から召喚するために、……千人もだぞ!


 (くる)ってるとしか思えん。


 ――スンっ。


 ハイライトの消えた目と、小刻(こきざ)みに震える(こぶし)を見て、シロとヤカンは心配するように俺の足元へよってきた。


 「俺なら大丈夫だぞ。伊達(だて)に10年もサーメクスでやってきてはいない。理不尽(りふじん)横暴(おうぼう)な貴族も、無慈悲(むじひ)で残忍な盗賊(とうぞく)もいろいろと見てきた。だがな、国を(おさ)めんとする者がそれをやっちゃいけないんだ。(みずか)ら救うべき民を逆に利用した挙句(あげく)にダンジョンへ放るなんざ、まさに悪魔(あくま)所業(しょぎょう)だわな」


 しんのすけさんの気持ちが今ハッキリとわかったよ。


 俺は荒れ(くる)う心を静めるべく、しゃがんでシロとヤカンをモフリまくった。


 こうしていると、不思議(ふしぎ)と気持ちが落ち着いてくるんだよなぁ。


 モフモフの(いや)し効果は抜群(ばつぐん)だよー。






 さて、行くとしますかね。


 まずは召喚魔法陣(しょうかんまほうじん)をぶっ(こわ)さないとだろ。


 それに、この上の建物も邪魔(じゃま)だな。


 さらにハルカの報告によれば、


 その呼び出された勇者は、たまにココ (ダンジョン) へ(もぐ)っているそうだ。


 まあ、呼び出されてから50日程度なら、まだまだレベルアップしている最中だろうね。


 どんなヤツが呼び出されたのかな? 


 現在(いま)帝城(ていじょう)に居るようだから、処遇(しょぐう)を決めるのは実際に会ってからでいいかな。


 俺は勇者召喚が行われた場所をハルカに聞きながらさっき下りてきた階段を再び上りはじめた。


 ハルカに頼んで一気にその場所へ転移することも考えたが、召喚部屋の全体像を(つか)む為、ここは歩いて向かうことにした。


 ダンジョンから教会内部へは見張り番もおらず、意外とあっさり侵入(しんにゅう)することができた。 


 ダンジョンへと向かう通路にモンスター除けの鉄格子(てつごうし)(とびら)が一ヵ所あっただけである。


 真夜中なので教会内部は人の気配もなく静まり返っていた。


 ………………

 …………

 ……


 ――とっ、ここか。


 建物内の通路に設けられた1m程の小さな扉。


 ご丁寧(ていねい)認識阻害(にんしきそがい)の結界まで張られている。


 扉には鍵も掛けられていたが、


 (シロ頼む)


 (り!)


 扉のまえにシロが立ち、シュピッと前足を動かすと鍵は真っ二つになって下に落ちた。


 小さな扉を(くぐ)った俺たちは、ヤカンの(とも)してくれた狐火(きつねび)をたよりにレンガで(おお)われた細い通路を進んでいく。






 それからしばらく進んでいくと、突き当りにその部屋(・・・・)はあった。


 重厚な鉄扉(てっぴ)に付いている丸環(まるかん)を引いて俺たちは中へはいる。


 部屋の広さは20(じょう)程、天井の高さは1.8m程しかないため、


 頭が天井に着きそうで、もの(すご)圧迫感(あっぱくかん)をおぼえる。


 まず目に飛び込んできたのは、


 床の中央部に設置された銀色に輝く2mのサークルと、その真上に(もう)けられた50㎝程の謎の穴。


 他には何ひとつない。


 特筆(とくひつ)すべきことといえば、


 サークル以外の(ゆか)(かべ)天井(てんじょう)のすべてが(なまり)(おお)われている点だ。


 昔のレントゲン室って放射能(ほうしゃのう)(もれ)れないよう、鉛入りの建材が使われていたと聞いたことがあるけど。


 今は関係ないよね。


 すると、これってもしかして(たましい)(ふう)じておくための施設(しせつ)なのか?


 そう考えてみれば、黒魔術(くろまじゅつ)でもやっていそうな空間ではある。


 この部屋の重圧(じゅうあつ)が低い天井と合わさって、胃がキューと()め付けられそうだ。


 あまり長く居たい場所ではないな。


 俺は中央のサークルに近づくと魔法陣(まほうじん)(えが)かれたメタルプレートをそのままインベントリーに収納した。


 インベントリーを確認をしてみると、【魔法陣プレート:ミスリル】と表示されている。


 あとはこの部屋を覆っている鉛なのだが……、


 なにか気味が悪いのでハルカに吸収してもらうことにした。


 これにて、ここでの仕事は終わりだな。


 お次は帝城。


 俺はシロとヤカンに光学迷彩(こうがくめいさい)を掛けると、ハルカに頼んで勇者の近くまで飛ばしてもらった。


 (……右も左も真っ暗闇じゃござんせんか)


 転移したのはいいんだけど真夜中(まよなか)だからね。


 仕方がないので、ヤカンに頼んで狐火を一つだけ灯してもらった。


 (うん……、どうやらここは寝室(しんしつ)みたいだね)


 遮音(しゃおん)の結界を部屋に張るようにとシロにお願いして俺はベッドに近寄った。


 するとそこに寝ていたのは若い女の子。スヤスヤとよく眠っている。


 俺はさっそく女の子を鑑定してみた。 



 サキ・アマミヤ Lv.3


 年齢    13

 状態     低迷(暗示)

 HP   29/29

 MP   21/21

 筋力    18

 防御    16

 魔防    18

 敏捷    16

 器用    14

 知力    17

【特殊スキル】 状態異常耐性 言語理解

【スキル】   魔法適性(聖、雷)鑑定(2)魔力操作(3)

【魔法】    聖魔法(1)



 ふんふん、雨宮サキ13歳。


 まだ中学生だろ。大変だったよね。


 状態(じょうたい)低迷(ていめい)暗示(あんじ))になっているな。


 状態異常耐性じょうたいいじょうたいせいを持っているのに……?


 まだ若いから、毎日()り込まれるように暗示をかけられた可能性もあるね。


 ステータスの方は……、


 Lv.3と低いけど、パラメーターはそれなりに高くさすがは勇者って感じかな。


 一年も(きた)えればそれなりに利用できたかもね。


 (シロ、この子には強い暗示がかかっているからリカバリーを頼むよ)


 (おけまる!)


 そのように念話(ねんわ)で指示を送ると、


 シロは彼女の枕元に行き、(ひたい)に右前足をそっとのせ【リカバリー】を発動した。 


 ぺしぺし、ぺしぺし、


 彼女の肩を肉球(にくきゅう)でやさしく叩くシロ。


 ずいぶんと違うくね?


 俺を起こすときは(ひたい)をビシバシやってくるくせに……。


 若干(じゃっかん)モヤッとしながら見守っていると、


 「うん、な~に? モフモフだぁ~」


 彼女はシロに抱きついてモフモフを満喫(まんきつ)している。


 まだ寝ぼけているようだ。


 「うん、えっ、どうしてワンちゃんが? 何処(どこ)から入ってきたの?」


 ベッドで上体を起こしながらも、モフモフはいまだに続いている。


 「おはようサキちゃん。(むか)えにきたよ」


 ようやく起きてくれたようなので声を掛けてみた。


 「えっ、えええっ。誰? 何故あたしの部屋にいるの?」


 「驚かせたようで済まない。俺の名前はゲン。そしてキミがいまモフっているのがシロ、俺の従魔(じゅうま)だ。そしてこの隣にいるのがヤカン、同じく俺の従魔なんだ。よろしくね」


 「あ、は、はい? それでこれはどういうことなんですか?」


 「キミは日本人だよね。率直(そっちょく)にいうと助けにきたんだ」



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挿絵(By みてみん)
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