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63. 例大祭

 いつものように朝の散歩(さんぽ)に出ていた俺は、シロとヤカンを連れ参道(さんどう)の階段を上り、鳥居をくぐって境内(けいだい)へ入ろうとしていた。


 あれっ、境内に誰かいるなぁ。


 うすいピンク色のジャージを着た、黒髪肩ぐらいの女の子が手水舎(てみずや)で手を洗っている。


 んん、ご近所の参拝者(さんぱいしゃ)さんかな?


 するとシロがトトトっと近寄っていき、女の子の周りを尻尾を振りながらクルクルまわりだした。


 「やーシロたんおっはー! アメちゃん食べるか~」


 昨日のように不〇家(フジヤ)の棒付きキャンディーを(もら)っている。


 えっ……、えぇ――――――っ! ギャルマリなの?


  昨日とまったく別人(べつじん)じゃんよぉ。こりゃたまげたわ!


 「おはようマリ。早いなー」


 「おはありゲンさま。だってもうみんな起きてるし」


 「化粧(けしょう)はしないのな」


 「今日は巫女(みこ)さんやるし。メイクすると紗月(さつき)も紗月のパパたんも(げき)おこみたいな」


 「あ――――っ、だろうな。神職だし。その辺はきびしそうだよな」


 「しかたないっしょ。バイト代ももらってるし」


 「しかし、今でも十分いけてるとおもうぞ。可愛くておけまる! なんつってな」


 「も~ぅからかって。ぷんすこ!」


 「からかったつもりはないぞ。実際に可愛いわけだし。……それでな」


 「可愛い、○×△□、○×△□、○×△□」


 「おっ、おいマリ? マリ? 戻ってこ――――い!」


 ――やれやれ。






 1分間程フリーズしたあとギャルマリは再起動(さいきどう)した。


 「それでなマリ、ダンジョンに(もぐ)るにあたって得物(えもの)の話になるんだが、何か気になる物とか使ってみたい物ってあるか? 俺的にはレイピア (刺突剣(しとつけん)) 辺りがいいと思うんだが、どうだろう?」


 「私のことはどうぞ茉莉香 (まりか) と呼んでくださいゲンさま。得物の方はお任せします。どの道素人(しろうと)ですし」


 「わかった。じゃあ名前もそのまま茉莉香と呼ぶことにするよ」


 「はい!」


 花笑みを浮かべる茉莉香。ギャル語は完全に忘れ素にもどっている。


 母屋(おもや)へもどり、いつもより幾分(いくぶん)早い朝食をみんなで頂いた。


 そのあと少し時間をもらって、実際に片手剣を見てもらった。


 ダガー、ショートソード、レイピア、ブロードソード、それぞれを茉莉香に持たせてみる。


 う~ん、ショートソードが良いような気もするが……。


 片手ではすこし重いか? レベルが上がれば問題ないだろうが。


 ふむふむ、


 ショートソードを改良(かいりょう)してみるか。


 刀身(とうしん)は60㎝、両手で持てるように(つか)は少し長めにする。


 軽くするため刀身は細くしたが、ミスリル合金製なので強度は十分にあるだろう。


 おお、わりかし良い出来じゃないか。軽くて使い安そうだ。


 んん、紗月がこちらを(にら)んでるような……。


 そういえば紗月にもレイピアを頼まれているんだったな。


 そろそろ仕度(したく)があるとのことで、紗月と茉莉香の二人は居間の奥にある部屋へ入っていった。




 


 (しげる)さんは朝から本殿(ほんでん)に上がり神事を()り行なったあと、祈祷(きとう)をおこなうため大幣(おおぬさ)片手に各所をまわっている。


 昼になり参拝者が増えてくると神社の境内はだんだん賑やかになってきた。


 授与所(じゅよしょ)には巫女服に身を包んだキロと茉莉香が()めており、お神札(ふだ)やお守りなどを求める参拝者に授与している。


 本殿巫女である紗月も朝から大忙し。境内をあちらこちら飛びまわっていた。


 母屋の方では、茂さんの姉である祥子(しょうこ)さんが氏子(うじこ)奥方(おくがた)連中をまとめ台所に詰めている。


 主に関係者への日中のお茶出しや、にぎりめしなどをこしらえてくれているのだ。


 もちろんフウガをはじめ、(うち)の影たちも陰ながら(・・・・)お手伝いしている。


 それでもって、


 俺は今日何をしているのかというと、


 沿道(えんどう)に座って【ボンボン釣り】の売り子をしておりやす。


 倉庫の奥でねむっていたボンボン釣り用のトレイとのぼりを引っ張り出し、参道脇(さんどうわき)にタープを張って営業しているのだ。


 昔の話になるが、


 町で行われていた祭りでは年に一度、こうしてボンボン釣りの売り子をやっていたのだ。


 準備の方は ”水風船” と ”こより紙” のセットを須崎(すざき)問屋(とんや)さんから購入。


 こよりの方は3日前からボチボチ作っており、水に浮かべるボンボンの方は今朝から影たち総出で200個程こしらえた。


 あとはボンボンの売れ行きを見ながら、俺がその都度作っていけば間に合うはずだ。


 テキヤの屋台は参道を(はさ)むように6軒が出店しており、昼過ぎからは家族連れなどを中心にそこそこの(にぎ)わいをみせている。


 中でも【梅が枝餅(うめがえもち)】の屋台は人気が高い。


 屋台の後ろには運動会テントが張ってあり、そこでお茶と共にお餅を頂けるようになっているのだ。


 かく言う俺も、先ほど梅が枝餅を大量買いして、みんなに配ってまわったところだ。


 健太郎? 健太郎は防犯パトロールだな。


 地域住民といっしょに『腕章』をはめて神社周辺をまわっている。






 そして我らがシロちゃんなんだが、


 看板犬(かんばんけん)としてシロも頑張(がんば)っているぞ。


 首輪(くびわ)にカラフルなボンボンを3つぶら下げ、あっちこっちに顔を出してはお客さんを引っ張てきている。


 「ほいっ、イカ焼き2本おまち! しかし、にーちゃんとこのワンコはよく仕込んであんな~」


 隣でイカを焼いてるテキヤのおっちゃんも感心していた。


 その分、イカ焼きもかなり(みつ)がされてはいるんですがね。(笑)


 そうこうしているうちに、


 ――ワッショイ! ――ワッショイ!


 ――ワッショイ! ――ワッショイ!


 (にぎ)やかしい()け声が裏の駐車場の方から響いてくる。


 【こども神輿(みこし)】だ。


 鳥居を潜り、神輿が境内に入ってくる。


 ハッピを着た子供たちが、チンチンして立ちあがったシロに(みちび)かれるように……。


 ――何してんだよ!


 まぁ盛り上がってるみたいだから、これはこれで良いのか?


 ……いや、それだけじゃないな。


 今、転んで(ひざ)()りむいた子供が参道に座りこんで()いている。


 そこに登場したのが、カラフルボンボンをいっぱい付けたシロちゃん!


 するとシロは泣いてる子供の側へいきペロンと膝を一舐(ひとな)め。あーら不思議、傷は何処(どこ)にも残ってない。 


 「痛いよう……、あれ痛くないぞぉ? なおってる!? 犬さんありがとう!!」 


 子供はシロにお礼を言うと神輿の隊列(たいれつ)に戻っていった。


 「………………」


 あのやろう……。 イカ焼き買っといてやるかな。


 こちらでは正装(せいそう)した茂さんが、こども神輿の到着(とうちゃく)を見守っていた。


 一応、『神様が神輿(みこし)に乗られておいであそばされる』という(てい)で行われているのだからね。


 ………………


 こども神輿も無事に終わり、


 駄菓子(だがし)がたくさん入ったビニール袋を子供たちが嬉しそうに受けとっていく。


 これは地域の子ども会が用意したものだそうな。


 駄菓子を配る奥様方に混じり慶子(けいこ)の顔も見えているな。


 ダンジョン探索はお休みにして、母屋の方を手伝っているようだ。


 東京から来たダンジョン探索組には、


 マリアベルとメアリー、それに連絡係としてヤカンが同行しているので、こちらも支障(ししょう)はない。


 すると何処(どこ)からともなく黒子(くろこ)が現れると、(つな)を渡した仕切(しき)り用のポールが境内に置かれていく。


 家の影たちであるが、いったい何をするつもりだ?


 その手前には簡易式(かんいしき)の長テーブルが置かれ……、えっ! 



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挿絵(By みてみん)
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