表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/128

60. 前向き

 翌日(よくじつ)の日曜日。


 俺は地下秘密基地(ちかひみつきち)に下り、リビングにあるテレビをつけ地震情報(じしんじょうほう)を確認していた。


 こちら福岡ではダンジョン・カンゾーの覚醒(かくせい)以降(いこう)、地震はピタリとおさまった。


 まぁ当然だわな。


 あの地震はダンジョンによる ”デモンストレーション” が主なのだから。


 これで余程(よほど)のことがない限り、カンゾーが原因で地震が起きることはないだろう。


 とはいえ、これから起動するであろうダンジョンは2つも残っており、警戒(けいかい)(おこた)るわけにはいかない。


 その内の1つ、京都にあるダンジョン・イナリの方は使用者権限(しようしゃけんげん)取得(しゅとく)することができた。


 つまり福岡のダンジョンのように、ある程度はこちらで制御(せいぎょ)することが可能(かのう)ということだ。


 さらにはダンジョン間にリンクを組んだことで、京都の状況(じょうきょう)がこちら (福岡) に居ながらにして把握(はあく)でき、問題が起きたときにはすぐに対応できるだろう。


 そして、知的生命体であるダンジョン同士連携(れんけい)が組めるということは意外とメリットが大きい。


 考えてみてくれ、


 これからいろいろな人間がいろんな思惑(おもわく)を抱えてダンジョン内に侵入(しんにゅう)するのだ。


 ――問題がおきないわけがない。


 そういったときに、客観的観点きゃっかんてきかんてんから意見をくれる存在というのは必要なのだ。


 はい、こいつダメー! はい、この人種ダメー! はい、人間の男はすべてダメー! などなど、


 短絡的(たんらくてき)に判断することは少なくなるだろう。






 ダンジョンからの情報を元に、自衛隊や公安が速やかに避難誘導(ひなんゆうどう)していけば大きな混乱(こんらん)は避けられるはずである。


 とはいえ、地震の頻度(ひんど)はこれから増していく。


 京都には世界遺産をはじめ重要文化財(じゅうようぶんかざい)なども多い。


 それら仏閣(ぶっかく)や古い建物などへの被害(ひがい)(まぬが)れないだろう。


 灯籠(とうろう)石碑(せきひ)なんかは軒並(のきなみ)み倒れてしまうだろうしね。


 京都では人的被害よりも、むしろそちらの方が深刻だとおもう。


 ――文化庁もこれから大変だぁ。


 それより心配なのは東京だな。


 東京は日本の首都でもあるし。地図で確認してみると、


 ま――見事に重要な部分がダンジョンの勢力範囲内(せいりょくはんいない)(ふく)まれているのだ。


 それに福岡や京都と比べて、地震の頻度(ひんど)がかなり高い。


 お構いなしにガンガン()らしているという感じだ。


 まあ、東京はもともと地震が多い地域ではあるんだけどね。


 ではどうして、その地震がダンジョン起因(きいん)によるものだとわかるのか?


 ――ズバリ震源(しんげん)の深さにある。


 今回起こっている多くの地震なのだが、震源の深さが通常で起こる地震のおよそ半分なのである。


 それで一目瞭然(いちもくりょうぜん)というわけ。


 通常で起こる地震での震源の深さが10㎞~50㎞と言われているのに対し、ダンジョン性の地震では全てが10㎞以内と浅いのである。


 話を戻すが、その地震で揺れる度に各交通機関が麻痺(まひ)しているんだよね。


 地震による直接被害も()ることながら、物流を中心とした経済(けいざい)にまで影響(えいきょう)が出はじめている。


 ダンジョンが覚醒(かくせい)を果たすまでには、まだ50日近くもあるというのに、少々やり過ぎではないだろうか。


 消防庁(しょうぼうちょう)内閣府(ないかくふ)防災担当(ぼうさいたんとう)も動いてはいるようだけれど、具体的な方策(ほうさく)もあがらず、まさにお手上げ状態である。


 さてさて、この先どうなってしまうことやら。


 京都のダンジョンであるイナリが定期的に呼びかけているようだが、東京のダンジョンはまったく反応しないという。


 肝心(かんじん)のダンジョンと接触(せっしょく)できない以上、我々はしばらく様子見となる。






 そして何事もなく一週間が過ぎていった。


 といってもこちら (福岡) でのことで、ダンジョンが目覚める東京や京都では地震による被害(ひがい)が拡大しつつあるのだが……。


 ここ老松(おいまつ)神社では明日からの2日間【秋の例大祭】が()りおこなわれる。


 神事を盛り上げるため、こども神輿(みこし)の準備や夜店の手配など、お祭りの方は氏子(うじこ)さん達がしっかりと取り仕切っているようである。


 茂さんの方は例祭神事に(いそが)しく、ほとんど顔は出せないだろうということだ。


 紗月(さつき)も今朝から巫女(みこ)姿で境内(けいだい)をあちこち飛びまわっている。


 明日は助勤巫女(じょきんみこ)として友人が一人手伝いに来てくれるそうだ。


 参道(さんどう)である石階段の両脇(りょうわき)には赤い提灯(ちょうちん)がズラリと並んでおり、期間中は祭りの雰囲気を盛り上げてくれるだろう。


 これを点灯させたら、遠くからでもかなり目立つだろうな。


  ”から○い上手の高○さん” 夏祭りでの名場面が思い出される。


 あちらは階段脇にランタンだったけど……、


 ベビーかすてらの夜店も出てるといいな。






 そういえば健太郎のヤツどうしたのだろう?


 京都から帰ってきて、ここでカレー食べて別れたのはいいけど、それっきりとんと音沙汰(おとさた)がない。


 まあ、基礎となる土台作りは終わってるから、その後どうするかは本人次第なんだよね。


 師匠(ししょう)といえども親ではないし強制なんかはできない。来ないなら来ないで仕方がないのだ。


 いろんな準備で(あわただ)しい境内(けいだい)(めぐ)っていると、


 「あっ、いたいた師匠~~~。もうくったくたっすよぉ。ちょっと聞いてくださいよ」


 一週間ぶりに健太郎がきた。


 「お前なー、久しぶりに顔見せたと思ったら愚痴(ぐち)を言いにきたのか?」


 それで祭りの準備を二人で手伝いつつ話を聞いていくと、


 退院後にするはずだった保険金(ほけんきん)の受け取り、両親のお墓や仏壇(ぶつだん)を準備しての法要、遺品(いひん)の整理、更には高校への復学(ふくがく)手続きなど、後見人(こうけんにん)である祖母(そぼ)と共に昨日まで奮闘(ふんとう)していたという。


 そうだったのか……。


 生きていくと決めたからには、そりゃあ色々とあるわな。


 学校も通うんだな。あまり目立たないように頑張れよ。


 身体障害者しんたいしょうがいしゃ手帳も役所へ返上。


 自分が立って歩く姿を見て、再検査してくれた病院の先生もビックリしていたそうだ。


 母方の祖父母(そふぼ)も涙を流して喜んでいたらしい。


 そうかそうか良かったなぁ。


 「これもみんな師匠(ししょう)のお陰っす。ありがとうございます!」


 「おいおいどうしたー、熱でもあるんじゃないか?」


 「師匠、それは(ひど)いっす! マジな気持ちなんすから」


 「そうか、感謝してるならしっかりと生きろ。自分に負けるな!」


 「はい、あざーす! それと腹減ったっす、飯はまだすかぁ?」


 ――相変わらずである。


 姿を見せないと思ったら前向きにやってたわけか。


 また、みっちり(きた)えてやるから覚悟しとけよ~。






 「こんにちはー。お祭りですか? 準備(じゅんび)が大変そうですね」


 神社境内で作業の手伝いをしていた俺に、横から話し()けてきたのは自衛隊(じえいたい)の坂井隊長だ。


 今日は装備(そうび)なしの迷彩服(めいさいふく)姿だ。


 「はい、秋の例大祭(れいたいさい)ですね。明日から2日間おこなう予定です」


 「それは楽しみですね。うちの者にも声を掛けておきましょう」


 「おお、それは是非(ぜひ)に! ……それでダンジョンの探索(たんさく)の方は順調に進んでますか?」 


 周りに聞こえないよう、最後の方は声を(おさ)えながら話した。


 「いや~、それがなかなかどうして。攻撃がとおらないんですよ」


 「そうなんですね……。 時に、コレってどうされてます?」


 小指の先ぐらいの鉄のサイコロを坂井さんに見せる。


 「ああコレ、よくダンジョンに落ちてますよね。見つけたら一応回収(かいしゅう)はしています。うちの隊員が机の上に積んでますよ。かわいいとか言って……」


 「…………」


 「それがなにか?」 


 「いいですかよく聞いてください。これは魔力が(ふく)まれているダンジョン・スチール (迷宮鉄) と呼ばれるものです。正確には覚えてませんが、5%程の割合で(はがね)やステンレスなどに混ぜて刃物を作ってください。切れ味が格段(かくだん)に向上しますよ。対モンスター戦には欠かせないものです」


 「えっ、…………」


 坂井さんの目が点になっている。


 無言のまま、その場で ”回れ右” をすると自衛隊キャンプのある方へ走り去っていった。


 ――やれやれ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押すな。押すな~!
小説家になろう 勝手にランキング
シロかわいい! と感じたら押してください。シロが喜びます。U•ɷ•)ฅ
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ