52. 京都
留守の間をフウガたちに頼み、俺たちは京都へ向けて出発した。
「収納持ちがいると旅も楽ができて、ほんと良いわね~」
改札口前の椅子に座り、しみじみとこぼしているのは慶子である。
朝から優雅に午後の紅茶 (ペットボトル) を口にしているが、小指が立ってんぞ。
それに、峰不二子ばりのつば広帽子はやめろよなぁ。隣に座られると、つばが顔にあたるんだよ!
「ゲン様、今朝も自衛隊員10名が二班に別れ、ダンジョンへ入ったそうです!」
キロたんである。
神社 (ダンジョン) 周辺の様子を逐一報告してくれるのはいいが、左脇には【るるぶ京都】が確り挟まれている。
どうやら京都行きも楽しみにしているようだ。
「師匠、お昼の弁当まだっすかぁ? 腹がへって死にそうっす!」
健太郎である。
もちろん朝食は俺たちと一緒に食べていた。今も非常食用に渡していたカロリー・バーをモグモグ食べている。
健太郎は以前にも増して、よく食うようになった。
おそらくパラメーターの急激な上昇が原因だな。極度に増した筋肉に栄養が足りていないのだ。
どこぞの戦闘民族の二人を思い浮かべて頂ければ理解もしやすいだろう。(悟空とベジータ)
とはいえ、そんなことをいったら周りにいるハイスペックな方々はどうなんのよ? ということになるが、みんなはごく普通に生活している。
ようするに身体の使い方がなってないのである。
あまりにうるさいので特盛の牛丼を出してやった。
それをがっついて食べている健太郎。 幸せそうだなぁ。
――やれやれ。
「手続きは終わったよ。さあホームへ上ろう!」
茂さんだ。
みんなのキップを持って、みどりの窓口から戻ってきた。
京都駅までは新幹線のぞみで2時間44分。もうすぐ発車の時刻である。
車内にアナウンスがながれ、まもなく京都駅に到着する。
「おい、いい加減に起きろ!」
大口をあけて眠りこけている健太郎にチョップをおみまいする。
「ふにゃ~。ご飯ですか~?」
俺はイラッとした。
野郎に寝ぼけられてもまったく可愛くない。
それにだ、俺のチョップが効いていないだと?
コヤツの防御力も、なかなかなものらしい。次回はライダーチョップをおみまいしてやろう。
「起きたか? 降りるぞ。そのゴミをさっさと片付けろ!」
健太郎の膝の上には食べちらかした駅弁の空箱がいくえにも重なっていた。
新幹線を降りた俺たちは、そのまま駅前にあるレンタカー屋へと向かった。
予約していた車は既に店舗の前に出してあり、5分とかからず出発することができた。
さすが京都は観光地、対応がスムーズである。
ホテルのチェックインは午後からなので、それまでは近場の観光スポットをめぐることにした。
俺たちはまず【二条城】へ向うことにした。
京都駅からは堀川通りを北上していく。
「師匠、あれって京都タワーっすよね。登ってみたいっす!」
「夜遅くまでライトアップされている【京都タワー】ですが、実際に登れるのは19時までのようです」
隣りに座っているキロがるるぶを開きながら説明してくれる。
「じゃあ、今晩の夕食はあの辺に行ってみようか?」
「そうですね、それが良いでしょう」
茂さんの提案に俺も同意しておいた。
ほほう、ここが二条城ですか。
入口の唐門だけど、これまた豪華絢爛で素晴らしいですなぁ。
金キラキンでかなり重量もありそうだ。これから地震が増えていくのに大丈夫なんだろうか?
中の庭園に入ったのでシロを召喚する。
ちゃんと言いつけを守って、光学迷彩を掛けているシロはお利口さんだね。
日本随一の観光地である京都は、何処であろうと人が溢れている。
急に現れたシロにびっくりして騒がれても面倒である。
そこで、召喚の折には光学迷彩を掛けておくようにと事前に話しておいたのだ。
ちゃんとできたワンコにはご褒美だよね。
目立たないように木陰に入り、干し肉をそっと置いてやる。
まわりからは見えないけど、旨そうに食べているはず。
「あれれ~、シロさん来たんすか? ……旨そうっすね」
干し肉の匂いで気付いたのか? お前は犬かよ!
「もうすぐ昼だから、それまで待て」
場内では勝手に飲食はできないからな。
二条城を出た俺たちは、飲食店が多い裏通りの方へ車を走らせた。
『簡単なものでいいよ』というみんなの言葉に、俺たちは【なか卯】へ入った。
『えっ、京都まで行ってなか卯?』
そう思うかもしれないが、変なところに入ってガッカリするよりはよっぽどいいと思うんだよね。
『好きなものを頼んでいい』というと健太郎は大喜び!
ランチメニューから2セットも頼んでいた。
「ここは安くてボリュームもあっていいねー」
「ええ、このおうどんも美味しいわぁ」
茂さんや慶子も珍しかったのか、【なか卯】は割かし好評みたいだ。
まあ、お店は福岡にもあるみたいだけど、近所ではないからねぇ。
シロ用にお持ち帰りもしっかりとキープ、俺たちは次の観光スポットへ向かった。
やってきたのは【壬生寺】。
ご存知、幕末に活躍した浪士隊の新選組。その所縁の寺ですなぁ。
この寺の境内で、剣の稽古をしたり相撲をとったりしていたんだろうね。
参道の右手には壬生塚なるものがあり、隊士達の墓が並んでいる。
塚の奥には近藤局長の立派な銅像もありましたよ。
壬生寺を出て車に戻ってきた俺たち。時計を確認すると午後2時30分。
……次はホテルだな。
宿泊先は京都駅に程近い【京都プ〇ザホテル】だ。
泊るのは新館の方で、ツインとトリプルを1室ずつ取ってもらっている。
チェックインを済ませた俺たちは、8階の展望室に上がってみた。
すると窓からは五重塔が見えている。
おお~、ザ・京都って感じがしてすごくいいねぇ。
えぇ~と、【東寺】だね。
空海 (弘法大師) さん所縁の寺なんだって。このホテルのパンフレットに書いてある。
歴史があって凄いんだな。
――とりあえず拝んどこ! (窓からですが)
客室はトリプルのせいか若干せまく感じるが、内装もベッドもキレイで申しぶんない。
駅のそばだし、イヲンモールもすぐそこ。料金と利便性を考えたら全然OKだね。
おまけに朝食のバイキング付きである。
シロはベッドの間に挟まって遊んでいる。うん可愛い。
俺がベッドに座ってシロの頭を撫でていると、なにやら健太郎がニタニタしながら近づいてきた。
「待て、健太郎! 俺にはそっちの趣味はないぞ。他をあたってくれるか」
「ちっ、違うっすよ師匠。オレもそっちの趣味はないっす。違うっす。誤解っす!」
「じゃあなんなんだよ、そのニヤケた顔は? おまえ、ちょっとキショイぞ」
「キショイとか酷いっす師匠! 弟子にいう言葉じゃいないっすよ」
「お、おう、そうか。すこし言いすぎたな。スマソ スマソ」
「何すかそれ? ぜんぜん謝ってる感じがしないんすけどぉ。まぁ今はいいっす」
「それで何なんだよ。おめーはよ」
すると健太郎は、ズボンのポケットからクシャクシャになった1万円札を3枚出して、
「オレって、その……、童貞なんすよ。ダンジョンとか行ってると、いつ命を落とすかわからないっしょ。このままじゃ死んでも死にきれないっす」
(いやおめぇ、この前童貞のまま死のうとしてたよね?)
でもまあ、これはある意味生きたいという渇望なのかもな?
「…………」
「…………」
……なるほどね、そんなことを考えていたのか。
たしかに、まかり間違えれば死ぬこともある。
そうだよな。健太郎はすでに迷宮で戦う一人前の戦士だかんな。
「わかったよ。お前も迷宮に挑む以上、立派な男にならないとな」
「うっす!」
「と言うことなので、茂先生、よろしくお願いします!」
今まで認識阻害を掛けたかのように、存在感を消していた茂さんに話を振ってみた。




