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51. 楽しみな視察

 こちらでの人材確保(じんざいかくほ)諜報部員(ちょうほうぶいん)の育成について、フウガの考えを聞きながら俺は検討(けんとう)していた。


 ダミー会社を立ち上げるわけか。


 なるほどね、それは面白いかもしれない。


 表では清掃会社(せいそうがいしゃ)のようなありふれた業種を(よそお)い、その裏では諜報活動(ちょうほうかつどう)(にな)う謎の秘密結社(ひみつけっしゃ)


 なんかスパイ映画のようで胸が(おど)るよね。 


 それでそれで? 


 どこかの潰れかけた会社を買収。あい中にもう一社(もう)けて、『トカゲの尻尾(しっぽ)』として使いわける。


 それで人材発掘(はっくつ)の方はどうするの?


 ふんふん、アングラサイトにバナーを()って、自殺志願者(じさつしがんしゃ)なんかを釣ってくるわけね。


 そんな自殺を考えているような人を使うってどうなの?


 なになに、負の部分を取り除いてやるのか……、なるほど。


 借金(しゃっきん)まみれなら、自己破産(じこはさん)をすすめ生活の補助を。ケガや病気がネックならシロちゃんにお願いするわけか。


 また、力関係が元での『いじめ』とかなら、ダンジョンに放り込んで身も心も(きた)え上げるのね。


 それってなにか、ザマーできたりして楽しそうだよね。


 へぇ~、よく考えてはいるけど、……それでこちらの秘密は守れるの? 



 警告!


 あなたはこの世界を捨て異世界で生きることを選択しました。


 二度とこの世界に帰ってくることはできません。


 続けますか? 【は い】 【いいえ】



 おっ、おおい、違うラノベになってんじゃねーかよ!?


 まあ、冗談はさておき……。


 ダンジョン探索や、夢の異世界旅行をエサにするわけね。


 それでもって、『我々の力をじっくりお見せする』と。


 怖ぇーよ!


 それって大丈夫なのー?


 なになに、ダンジョンでのパワーレベリングはそいつの力になるし、


 異世界に(あこが)れがあるようなら、ゆくゆくはそのように計らってあげるわけね。


 それに完全週休二日制、給料+危険手当つきの好待遇(こうたいぐう)


 まさに(あめ)(むち)って感じだな。 死人が出ないようにしろよ。


 このように話を聞いてみると、なんとか実現できるような気もしてきたよ。


 なるほど話はわかった、この件はフウガに任せるわ。






 次の懸案事項(けんあんじこう)である京都観光旅行……、ではなく視察(しさつ)、視察な!


 こちらは(しげる)さんとの打ち合わせが必要だな。


 何といっても茂さんはこの老松神社(おいまつじんじゃ)宮司(ぐうじ)だから、気軽にホイホイ離れるわけにはいかないんだよね。


 で、いろいろと話し合った結果。


 9月9日 (水) ~ 9月11日 (金) の2泊3日で日程を組むことにした。


 京都行きに参加するメンバーは、俺・シロ・茂さん・慶子(けいこ)健太郎(けんたろう)・キロの6人。


 そして、紗月(さつき)・メアリー・マリアベル・チャトの4人は今回お留守番することになった。


 あんなに楽しみにしていたのに、なぜ? と疑問に思うところだが。


 紗月が学校に休みを申請(しんせい)しても、許可が下りなかったそうだ。


 うん、まあ、そうね、夏休み明けてすぐだったし、目的が『京都観光旅行』じゃね~。


 それで、紗月がひとりでは可哀(かわい)そうだと、メアリーとマリアベルが一緒に残ったというわけ。


 『よーし、ミスドに行ってドーナツを食べまくろう!』


 さっそく三人集まって、留守番中の計画をで立てているみたいだね。


 この間はモフバーガーで女子会してなかったか? ホント仲のいい三人である。


 『次はぜったい一緒に行こうね!』


 そのように盛り上がっていたので、京都には近々もう一度足を運ぶことになりそうだ。






 そして健太郎の方なのだが……。


 9月にはいったら高校へ通う予定だった健太郎。


 『オレは京都に行く!』


 本人の強い希望により、復学(ふくがく)の手続はすこし伸ばすこととなった。


 もしかすると、まだまだ()ん切りがつかないのかもしれない。


 高校の出席日数におけるボーダーラインは60日と言われている。


 長く学校を休んでいた健太郎は、おそらく留年することになるだろう。


 『不慮(ふりょ)の事故によりケガしていたのだから、しょうがない』


 そうはいったものの、本人にとっては大問題。


 後輩(こうはい)と肩を並べることになるのだ。孤立(こりつ)するだろうし、相当なプレッシャーが掛かることだろう。


 両親がいなくなった健太郎が、例え逃げ出したとしても、それは仕方がないことなのかもしれない。


 だけど、頑張ってほしいなぁ。


 本人、そして亡くなられたご両親のためにも……。


 それに健太郎は勇者である。


 レベルアップも早く、それによる恩恵(おんけい)も大きいものとなる。


 身体能力は言わずもがな、記憶力(きおくりょく)や計算力といった地頭も良くなっていくのだ。


 レベルの高い魔獣(まじゅう)がことばを理解したり、(しゃべ)ったりできるのはこの為である。


 (ゆえ)に、大学受験や資格(しかく)の取得といったものにはたいへん有利になるはず。


 あとは本人のヤル気しだいなのだ。


 ………………


 交通機関は今回も新幹線(しんかんせん)を利用。


 シロも同様、京都に着いたのち召喚(しょうかん)するものとした。


 新幹線のキップと宿泊先(しゅくはくさき)の手配は茂さんに一任している。






 夕方になりシロと健太郎がダンジョンから戻ってきた。


 レベルはどうなったかな。――鑑定!


 おおっ、Lv.7に上がっている。この短期間でたいしたもんだ。


 つづいて帰ってきたのは慶子と紗月のペア。


 週末で学校が休みだったこともあり、一緒にダンジョンへ(もぐ)っていたのだ。


 その二人は疲れも見せずに、そのまま買い物に行ってしまった。


 こちらはこちらで、たいしたもんだね。


 紗月がいなくなったので、この(すき)にと健太郎に京都行の日程を伝えておく。


 すると、ガッツポーズを見せて喜んでいる健太郎。何処(どこ)か行ってみたい所でもあるのかと(たず)ねてみるが、特にそういうことでもないようだ。


 ただ、京都は初めてなので楽しみにしているということ。


 そうか、健太郎もか。


 実は俺も、京都は初めてだったりするのだ。


 伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)がある稲荷山(いなりやま)も楽しみのひとつなんだが、何かこう ”京都” っていうものを味わってみたいもんだね。


 清水の舞台(きよみずのぶたい)から望む景色も良いだろうし、夜の鴨川沿(かもがわぞ)いを()り歩くのも楽しそうだ。


 まあ、お座敷(ざしき)遊びまでは無理だろうけど、舞妓(まいこ)さんや芸子(げいこ)さんは見てみたいかな。


 ……なんだ? 俺も京都行きは楽しみになってきてるなぁ。


 丸一日は稲荷山(いなりやま)近辺の探索で潰れてしまうけど、せっかくなんだし残りは京都を満喫(まんきつ)しよう。


 いろいろ考えていると、茂さんが居間に戻ってきて俺に声を掛けてきた。


 「ホテルと新幹線、バッチリ予約は取れたよ」


 「そうですか。お(いそが)しい中、余計なことまでお願いしてしまって。助かりました」


 「いやいやいや、今回は僕も同行するわけだし。それに何より、ダンジョンのことだからね」


 「紗月のおじさん、それでどんな感じになったんすか?」


 向こうの方でシロと『かるた遊び』をしていた健太郎が、こちらを振り向いて目を輝かせている。


 ――ぺしっ!


 ほらほら、よそ見しているからシロに札を取られてるぞ。


 ちなみに、かるたは(なつ)かしのセー○ームーン。


 負けたら、月にかわってお仕置きよ! (お仕置きはシロの肉球しっぺです)


 出発日は9月9日 (水) 。新幹線の発車時刻は朝の8時だそうな。


 博多駅ー京都駅、【のぞみ】の所要時間(しょようじかん)は2時間44分。


 また、『現地でのスケジュールは前の日にでも決めようか』ということになった。


 東京ダンジョンも京都ダンジョンも覚醒(かくせい)まで残すところ60日。


 地震(じしん)規模(きぼ)も大きくなり間隔(かんかく)も短くなってくるだろう。


 まずはダンジョンの位置を確定させなければ。






 それから2日が過ぎた9月8日。


 連日の気合の入ったレベリングにより健太郎は Lv.9 までになった。


 鑑定の結果はこちら。 ――ジャガジャン!



 ケンタロウ・クドウ Lv.9


 年齢    17

 状態    通常

 HP   60/60

 MP   36/36

 筋力    39

 防御    35

 魔防    33

 敏捷    37

 器用    31

 知力    36

【特殊スキル】 状態異常耐性 言語理解

【スキル】   魔法適性(聖・火・雷・氷) 鑑定(3)

        魔力操作(3) 剣術(1)

【魔法】    聖魔法(1) 雷魔法(1)

【称号】    受け継がれし者、勇者、

【加護】    ユカリーナ・サーメクス  



 やっぱり凄すぎだ!


 剣術スキルが1と追いついてないが、これは当たり前だな。技術がそう易々(やすやす)と身につくわけがないのだ。


 でも、まあ、オークあたりなら筋力と敏捷(びんしょう)でゴリ押しできるんじゃないかな。


 オリハルコンの剣でばっさばっさと撫斬(なでぎ)りすればいけるんじゃないの、たぶん。


 それに魔法も覚えてるじゃん。


 …………シロだな。


 まあ、覚えたものは仕方がない。外では絶対に使うなと(きび)しく言っておこう。


 それにしても成長が早過ぎるよ。


 これでは、とてもじゃないが手加減(てかげん)の訓練が追いつかない。


 は~~~、俺は大きくため息をはいた。 


 健太郎のヤツめ~、涼しい顔で【るるぶ京都】なんぞ読んでやがる。人の気も知らないで、くっそー。


 まあ、でも、地域情報が満載(まんさい)の【るるぶ】はいいよな。JTBさんありがとねー!


 俺もあとで見せてもらおうっと。






 「おおーい健太郎。もう(なれ)れてると思うけどっ手加減の訓練すっぞ~」


 「へ~い」


 「それと、その【るるぶ】あとで見せてくれるか?」


 「コレっすか、いいっすよー」


 「で、その手はなんだ?」


 「貸し出し料は100円っす!」


 「…………」


 俺は素直に100円を支払った。


 だがのちに、この【るるぶ】は キロの持ち物だと判明、健太郎には追加でゲンコツを支払ってやった。


 この生八つ橋(なまやつはし)の新しい味は気になるなぁ。


 それに、富士〇さんがいいと言っていた『抹茶(まっちゃ)づくしの百福パフェ』、 情報が古くてもう()ってないや。


 「私はこの【北野天満宮】にも行ってみたいんだがね。【金閣寺】も近いし、一緒にまわったらどうかな」


 【るるぶ】掲載(けいさい)の観光マップを(のぞ)き込み、指差しながら希望を伝える茂さん。


 「はい、ぜひ行きましょう。……では3日目にまわることにしましょうか」


 テーブルに広げた【るるぶ】見ながら、俺たちは楽しく計画を立てていった。 


 そして夕食後。


 「次回はちゃんと連れて行くから……、ねっ」(汗)


 ()ねてしまった紗月をみんなで(なぐさ)めながら、京都散策(きょうとさんさく)行程(こうてい)は決まっていくのだった。




 9月 9日 (水)

京都駅 ー レンタカーを借りる ー 二条城(にじょうじょう) ー 壬生寺(みぶでら) - 京都プ〇ザホテル


 9月10日 (木)

京都〇ラザホテル ー 伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ) ー 清水寺(きよみずでら) ー 八坂神社(やさかじんじゃ)


 9月11日 (金)

京都プラ〇ホテル ー 金閣寺(きんかくじ) ー 北野天満宮(きたのてんまんぐう) ー 晴明神社(せいめいじんじゃ) ー 京都駅




 まあ、そんなに()め込んではいないのだが、結構あちこちまわれるものだ。


 神社は基本(おが)むだけだしな。3日間レンタカーを借りる予定なので移動も楽々だぞ。



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挿絵(By みてみん)
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