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50. 稼動開始

 まず、自衛隊(じえいたい)の隊員2名がヘルメット・ライトを点け、自動小銃を両手に持って突入していく。


 といっても、この先はダンジョン前広場。特に危険ということもない。真っ暗だけど。


 次に俺と坂井(さかい)隊長が並んで入り、そのあとに隊員1名が続く。


 3m程のほら穴を(くぐ)り抜けると目の前には大きな空間が広がっていた。


 もちろん中は真っ暗なので、隊員の皆さんは広場を認識することはできない。


 「ちょとだけ待ってもらっていいですか。そこのランタンに火を(とも)しますから」


 俺は(あらかじ)め準備していたガソリン・ランタンに火を入れるためチャッカマン (点火棒) を取り出した。


 (準備:点火前におこなうマントルの空焼(からや)き、ガソリン圧縮(あっしゅく)のためのポンピングを含みます)


 ランタンのコックをひねり、シュシュ――――――ッと音がしだしたらチャッカマンをカチカチ。


 ――ボフォッ!


 小さい爆発音(ばくはつおん)と共に周りが明るくなる。


 ランタンの明るさはおよそ200W。直接目にすると幻惑現象(げんわくげんしょう)を起こしかねないほどだ。


 壁に打ち込んであるフックにランタンを()るすと辺りが見渡せるようになった。


 「「「「おおおっ…………」」」」


 空間の広さに驚いている隊員たち。


 「ええっと、こっちですね。先にいくと階段がありますから」


 周りを見渡している隊員たちをよそに、俺は引き続き案内をはじめた。


 「おそらく二日後にはこのホール全体がせり上がってきて、ダンジョンの玄関口になると思われます」


 簡単に説明しながら進んでいくと、よこ幅10m程の階段があらわれた。


 「ここを下りていくとダンジョンの1階層ですね」


 階段を下りきったところで、俺たちは一旦立ち止まった。


 「奥にも案内できますが、どうしましょうか?」 


 坂井隊長の方を振り向きながら(たず)ねてみる。


 「いや、今日のところはここまでで結構です。ただ出来ればなんですが……、モンスターの確認もしておきたいところです」


 「なるほどわかりました。1階層のモンスターはスライムです。動きも鈍いですし皆さんなら大丈夫でしょう。ただ突いたりすると敵と見なされ飛び掛かってきますのでご注意を」


 「「「「…………」」」」


 「あっ、居ましたね。こちらです」


 10m程先にスライムを発見。手前まで案内した。


 「隊長、本物ですね。動いています!」 


 壁をさわる者、スライムを観察する者、デジカメでダンジョン内を撮影(さつえい)している者など、隊員たちは思い思いの行動をとっている。


 しゃがみ込んでしばらくスライムを観察していた坂井隊長だったが、その場で立ち上がると。


 「……よし、今日はここまで。これより(ただ)ちに帰投(きとう)する! 二列縦隊(にれつじゅうたい)!」


 ――ビシッ!


 坂井隊長が発した号令(ごうれい)のもと、隊員たちは素早い動きで整列し次の指示を待つ。


 この辺の機敏(きびん)な動きはさすがに自衛隊である。


 その後は俺も含めて全員が無事神社 (駐車場) に帰還(きかん)した。


 坂井さんはこの現状を本部へ報告。


 増援部隊(ぞうえんぶたい)設営隊(せつえいたい)をよこしてもらえるよう要請(ようせい)していた。


 あとは設営隊が来るのをまって、ダンジョン監視(かんし)任務(にんむ)を続けていくそうだ。


 「今日はお忙しい中、案内までしていただき、ありがとうございました!」


 「いえいえ、何かあるときはいつでも(たず)ねてきてくださいね」


 最後に坂井隊長と二言三言交わし、俺は母屋へと戻った。






 それから2日過ぎた、9月6日未明。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!


 大きな地響(じひび)きを(ともな)い、地下にあったダンジョン前広場は地上にその姿を現した。


 塵ひとつ、落ち葉ひとつ落ちていないまっさらな広場に、ポッカリと開いたダンジョンの入口。


 いよいよ最初のダンジョンが稼動(かどう)を開始したのである。


 直接カンゾー (ダンジョン) に呼びかけて様子を聞いてみたが、特に問題とするところもないらしい。


 ダンジョンの周りでは地震の影響(えいきょう)倒壊(とうかい)した家屋(かおく)や道路に亀裂(きれつ)などが多数見受けられたが、(あらかじ)め出された避難指示(ひなんしじ)や各道路規制(どうろきせい)により死傷者(ししょうしゃ)はほぼ出なかったようである。


 『わざわざ町を荒らして人を遠ざけることもあるまい』と説得し、ダンジョンの存在を知らしめるためのモンスター・パレードは中止させているので、まずは一安心かな。


 それと もういひとつ、


 俺は昨晩からカンゾーに指示を出していたことがある。


 ダンジョン前広場を囲んでいる鬱蒼(うっそう)とした雑木林(ぞうきばやし)


 この雑木林の中に道を通させたのだ。それも神社がある方とは逆の方向にだ。


 これは神社からの道を動線としないためである。


 ダンジョンの力があれば雑木林全体をきれいに整地してしまうことも容易(ようい)にできたのだが、神社に人が流れやすくなるのも考えものだと思い、道を通すだけに(とど)まった。


 そのうちダンジョン周りの雑木林は政府が買い上げて、関連施設(かんれんしせつ)などを作るのだろうがそれは仕方がない。


 大事な女神さまの(ほこら)は何とか残してもらいたいけど……。


 場合によっては、神社の境内(けいだい)に新しく社殿(しゃでん)(もう)けてもいいか、(しげる)さんに相談するつもりでいる。


 こちらは嬉々(きき)として話がとおりそうだけどね。






 これまでカンゾー (ダンジョン) と打ち合わせをしていく中で、


 ダンジョンの勢力範囲(せいりょくはんい)はこちら (地球) においても半径10キロ程と変わりなく、この圏内(けんない)においては海山問わず影響(えいきょう)(およ)ぼすことが可能だということだ。


 ――これは嬉しい。


 陸や山にねむる鉱物資源(こうぶつしげん)もさることながら、海といえば魚でしょう。この魚が取り放題になるのだ。博多湾内(わんない)ということでそれほど大きな魚はいないだろうが、毎日煮魚やあらかぶの味噌汁が頂けるという幸せ。い――ねぇ――!


 それで福岡の大都市がすっぽりと収まることから、エネルギーの吸収に関しても全く問題なし。


 この現状であれば魔素濃度(まそのうど)も効率的に上げていけるだろうとのことだった。


 ふむ~、てことはですよ、


 かなり余裕があるとみていいのかな?


 それなら最初のダンジョンだし、探索(たんさく)が楽に進められるよう、『低級ポーション』や『ダンジョン鉄』のドロップ率を上げてもいいかもしれない。


 ダンジョン鉄とは?


 簡単にいえば、少量の魔力を帯びた鉄材のことである。ダンジョンに出てくるモンスターは、からだの表面が薄い魔力で(おお)われているため、通常の武器では魔力に(はじ)かれてしまい攻撃がとおりにくいのだ。そこでダンジョン鉄なのだが。このダンジョン鉄を混ぜた刃物を使用すれば、モンスター戦においても体表の魔力は中和され刃がとおりやすくなり切れ味が増すというわけだ。(注:ミスリルとは異なります)


 あとは初心者対策(たいさく)として、


 5階層(かいそう)おきにしかなかった帰還(きかん)用の転移台座(てんいだいざ)を3階層と7階層にも設置した。


 さらに5階層のボス部屋においては選択方式(せんたくほうしき)を採用し、戦わなくても抜けられるようにしようとおもう。


 それでもって、ダンジョンを取り巻く環境が整ってくれば、


 遠方からでもダンジョンへ入れるよう新たな転移陣の設置や、魔石集めに便利なDバッグの使用も視野(しや)に入れていきたい。


 (Dバック:ダンジョン内で使えるマジックバックのこと。外に持ち出すと中身を放出して消えてしまう)


 ………………


 さてさて、どうなりますことやら。


 はじめはやはり自衛隊さんオンリーになるのかな?


 モンスターに対する武器(ぶき)がない現状で、5階層をクリアするのにどれくらいの時間を要するのか?


 見せてもらおうか、自衛隊の性能とやらを。


 一般人の入場はかなり後になるかもな。


 ろくな装備もないのに、ダンジョンに足を踏み入れても命を落とすだけだからね。


 向こう (サーメクス) と違って、この地球は科学(かがく)が発達しているので、意外な攻略法(こうりゃくほう)が見つかるかもしれないな。


 基本、車両の持ち込みは禁止。


 (かく)化学兵器(かがくへいき)が出てきたら没収(ぼっしゅう)させていただきます。


 何事も行き過ぎはいけませんから。






 あとは……、アレだな。


 俺はフウガとキロ、そして(かげ)たちを食堂に集めた。


 「今日集まってもらったのは、これから増えてくるであろうマスコミや各国(かっこく)諜報員(ちょうほういん)対策(たいさく)についてだ」


 「諜報員はわかりますが、マスコミとはいったいどういったものなのでしょうか?」


 キロが手をあげて質問してきた。


 「マスコミとはマスコミュニケーションの(りゃく)だな。正しい情報を多くの人に伝える機関のことなのだが。まぁわりやすく言えば、お前らがいつも見ているニュースがあるだろう。ズバリそれだ。広くは新聞・雑誌・ネット配信ニュースなんかもマスコミといっている」


 「しかし、ニュースや情報雑誌(じょうほうざっし)のどこに脅威(きょうい)があるのですか?」


 今度はフウガが問うてくる。


 「うむ、良い質問だな。脅威になるのはその媒体(ばいたい)ではない。それを取材(しゅざい)する者や取材攻勢(しゅざいこうせい)に注意が必要ということだな。特にトップニュースになるようなものへの執着(しゅうちゃく)や、それに対する機動性(きどうせい)は、俺たちが考えている以上に苛烈(かれつ)なものになっているようだ」


 そしてマスコミの(きたな)さや用意周到(よういしゅうとう)さを、彼らに(とく)と教え込んでいった。


 こちら側の対処としては、神社への取材の妨害(ぼうがい)虚偽(きょぎ)情報の拡散(かくさん)取材陣(しゅざいじん)()れてしまうような陽動(ようどう)などだな。


 俺たちの正体もさることながら、


 やろうとしている事を()ぎ付けられ、いちいち(さわ)がれたり(たた)かれたりしたんではやり辛くてしょうがない。


 各国諜報員については、


 見つけしだい拉致(らち)尋問(じんもん)をおこなったのち、記憶を消して山にポイだな。


 もちろん、水と食糧(しょくりょう)は渡してやるさ。


 マスコミに対応する話もひととおり終わったので解散(かいさん)


 残ったフウガと話をする。

 

 「今のままでは人員が足りませんねぇ。こちら(・・・)で募集をかけても(よろ)しいでしょうか?」


 フウガが人材不足を(うった)えてきた。


 「こちらの世界は文化、科学、経済(けいざい)と、どれをとっても私たちの世界より進んでおります。人員が足りないからと向こうから連れてきたとしても、すぐ戦力にするのは難しいです」 


 うん、まあ、そうだろうね。


 普通に生活するだけでも、どれだけのものを教え込まなければならないか……。


 考えただけでも気が遠くなるよな。


 今こちらにきているフウガ直属の部下ですら、未だに不安で外に出せないでいるのだから。


 ましてや、教育されてない奴隷(どれい)などを連れてきたとしても、手間ばかり掛かって役には立たないだろう。                







9月6日 (日曜日)  

次の満月は9月27日

ダンジョン覚醒まで0日・60日



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挿絵(By みてみん)
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