49. ダンジョン対策小隊
その日の夕刻。
俺・シロ・健太郎・慶子の4人はダンジョン探索を終え母屋に戻ってきた。(めんどくさいので、シロちゃんも一人として表現しています)
シロに浄化を掛けてもらい家の中にはいる。
今日の探索で健太郎はLv.5にあがった。
つまり、健太郎の京都行が確定しましたー。
攻略階層も8階層をクリア、9階層に移っている。
……もうね、成長速度が尋常ではないのよ。
ただただ言えることは、【勇者】ぱねぇ――!
紗月も学校から帰えり、みんなで夕食をとっているときに茂さんが、
「昼ごろ自衛隊さんから連絡があってね。明日から泊まり込みでダンジョン前に張り付くそうだよ」
「そうですか。自衛隊もいよいよ動き出したんですね」
「この裏の駐車場をいくつか借りたみたいで、着いたら挨拶しに顔を出すそうだよ」
なんでも、ダンジョンの監視及び調査のため、陸上自衛隊の春日駐屯地では1個小隊30人がダンジョン対策部隊として割り当てられてるそうだ。そして、明日はそこから10名の隊員がこちらへ派遣されてくるそうだ。
へぇ、信じてくれたんだ。それは良かった。
荒木さんたち、しっかり話を通してくれたみたいだね。
上を説得するには判断材料が少なくて、結構大変だったとおもう。
今度あったらお礼を言っておかないと。
いや……、俺が礼を言うのもおかしな話か。
ダンジョン入り口 (洞窟) に張ってある結界は、シロに言って早々に解除しておこう。
初めてダンジョンにはいって、皆さんどんな顔をすることやら。
ちょっと楽しみになってきた。
そして次の日。
俺たちはいつものように早朝からダンジョンに潜ってレベリングをおこなっていた。
「師匠、オレいつになったら魔法が使えるようになるんすかー。早く使ってみたいっす!」
『ファイアーボール!』 などと叫びながらそれらしいポーズを決めている健太郎。
「バカも~ん! 止めないか。イメージが固まれば発動することだってあるんだぞ。ダンジョンでやるぶんには まだいい、だが家や外では絶対にやるなよ」
「バカも~ん! なんて台詞、オレはじめて聞いたっす!」
「お、おう、昭和だからな」
「さすが昭和一桁」
「いやいや、二桁だからな。銭形じゃあるまいし」
「じゃなくて、魔法っす!」
「お、おう、今のところはまだ無理だな。魔力操作のレベルが2以上、攻撃魔法なら3以上は必要だな。毎晩やっている魔力操作の訓練がんばるんだぞ」
「そーなんすか、先は長いっすね~」
「ソ――――ナンス!」
「はいはい、ポケモン乙」
「ひどっ! フリまで入れたのに」
「わかんなくて、スルーされるよかいいっしょ」
「お前な~、まぁいい。 魔法が使えるのは向う (異世界) の人間だって僅かに1%なんだぞ。だからもう少しだなぁ…………」
「へいへい、わかってますって。魔力操作の訓練がんばりま~す!」
「あっ、お、おい……」
走って逃げていきやがった。――子供かよ、まったく!
向う (クルーガー大国) で10年も生きていると、あのくらいの年齢の者にギャップを感じることがある。
まぁ向うでは15歳が成人だからな。17歳で子供を持って必死で働いているやつもザラにいるわけですよ。
さて、朝の探索はこんなものかな。
昼から予定している健太郎のレベリングにはシロを同行させた。
俺は居間で茂さんとだべりながら、自衛隊が到着するのを待っていた。
――ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴った。時計を見ると午後1時をすこしまわったぐらいだ。
茂さんが玄関に出て対応している。
しばらくすると、隊員2名を連れて茂さんが居間に戻ってきた。
おお、迷彩服だ。88式鉄帽 (ヘルメット) を小脇に抱えている。
うん、『ザ・自衛隊』って感じで、かっこいい!
「こんにちはー!」
俺はその場で立ち上がると、隊員に向け軽く挨拶をする。
そして全員が居間のテーブル囲み腰を下ろした。
茂さんは茶器をのせたお盆を引き寄せると、手ずからみんなにお茶を淹れている。
「今日はよくおいでくださいました。粗茶でございますが……」
「ありがとうございます。頂戴します」
淹れてもらったお茶をひと口啜り、一拍おいてから、隊員の一人が口をひらいた。
「このたび、ダンジョンの監視及び調査を目的としまして、陸上自衛隊・福岡駐屯地は第19普通科連隊より派遣されて参りました。ダンジョン対策小隊第1分隊、隊長の坂井と申します。以後よろしくお願いいたします」
坂井隊長は若くて元気がいい。年の頃は22~23歳といったところか。
「同じく、士長の太田です。よろしくお願いします!」
太田士長。こちらの青年は20歳ぐらいだろうか。
お互いに自己紹介を終え、これからのことを話していく。
ダンジョンの構造やモンスターの存在。ドロップ品や宝箱について。
そして何より、スキルの発現やレベルアップが可能になることもだ。
「それは凄い!」
「まるで異世界での話のようですね」
二人からはそんな言葉も聞こえてくる。
やはり若いだけあって、その辺の理解は早そうである。
ダンジョン関連の話は粗方終わったので、今度は実際にダンジョンを見てもらおうということになった。
茂さんは神社を離れるわけにはいかないので、俺がダンジョンの入口まで案内することになる。
靴を履いて玄関を出ると、そこには4名の隊員が並んで待機していた。
坂井さんの部下であろうか、こちらに向けて敬礼している。
「ゲン様、お供いたします」
音もたてずに、俺の後ろに控えてきたのはキロである。
「「「「えっ!」」」」
いきなり姿を現したキロに、隊員たちは驚いている。
――なに、出てきてんだよ!
キロにはメアリーたちと共に、秘密基地からは出ないよう言っておいたはずなのに。
シロに掛けてもらったんだろう。犬耳と尻尾は光学迷彩でちゃんと隠れているからいいとして、
そのメイド服が目立つんだよ!
白襟付き濃紺のクラシカルメイド服。
日頃から家 (神社) のお手伝いをしてくれているキロ。服装は基本メイド服である。
神社には似つかわしくない格好なのだが、『これが良い』と本人が言うのでそうさせている。
「随伴の必要はない。下がれ」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
玄関前まで下がり、うやうやしく腰を折るキロ。
「…………」
戦闘靴を履き玄関から出てきた坂井さん。
何か言いたそうに俺と目を合わせてくるが、結局なにも口にすることはなかった。
そのまま隊員たちと共に、神社の裏にある駐車場へまわり込んでいく。
するとそこには、自衛隊が使っているHMV (高機動車) が駐まっていた。
(HMV:ハイ・モビリティ・ビークル)
車のまわりに隊員が控えているせいか、なかなかの迫力である。
10人乗りだし、分隊の移動にはもってこいだよな。
確かに、この車だと駐車場を2~3台分借りないと間に合わないだろう。
坂井さんが指示を出すと、隊員達はHMVから自動小銃を取り出し肩にかける。
現場へ向かうのは6名で、残りの隊員はHMVにて待機するようだ。
まあ、車の中には銃火器が積んであるのだから当然の措置といえるだろう。
「お待たせしました。準備が整いましたので、案内をお願いします」
「それじゃあ、行きましょうか」
俺は引率を開始した。
とは言ったものの、すぐそこなんだよね。
再び境内へ戻ってきた俺たちは参道の石階段を下りていく。
そして、階段の中腹に差し掛かると、手すりを乗り越え右手の雑木林に足を踏みいれた。
雑木林にはいった俺たちは、一列になり獣道のような小道に沿って進んでいった。
そして小道を進むこと5分、俺たちは現場 (ダンジョン前の穴) に到着した。
草木が生える土手にポッカリと開いたほら穴。
まあ、開けたのはシロちゃんだったりするのだが、勿論ここでは黙っておく。
「坂井さん、こちらになります」
俺は振り返りながら、後からついて来ていた坂井さんに声をかける。
すると坂井さんは他の隊員に手早く指示を出していく。
坂井さんと隊員1名を残し、他4名の隊員がその場で散開する。
散開した隊員は、土手の上や草むらを掻き分けながらが周りを調査していく。
自動小銃を両手に持ち、草むらを進んでいく姿は何とも物々しい。
「こちら……………………感明おくれ」
ヘルメットに付いたインカムマイクで情報のやり取りを行なっている坂井さん。
交信しているのは先程のHMVに残してきた隊員だろうか。
………………
やがて通信が終わり、周りに散開していた隊員達も集まってきた。
「では、行きましょうか」
隊員2名を入口にの残し、ダンジョンへと続くほら穴に俺たちは突入していった。
9月4日 (金曜日)
次の満月は9月27日
ダンジョン覚醒まで2日・62日




