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48. 勇者ブースト

 母屋にある食卓(しょうくたく)(かこ)んで、俺たちは楽しく夕食をとっていた。 


 「ところで慶子(けいこ)。最近、熱心にダンジョンへ(もぐ)っているようだけど、何か気になることでもあるのか?」


 そんな俺の質問に、慶子は腰に下げたマジックバッグからガラスの小瓶(こびん)を数本取りだした。


 「目的はこれね! いま集めてるの」


 クリアなライトグリーンの液体が入ったそれは、いわゆる ”ヒールポーション” と呼ばれるものだ。


 色目の(うす)さから、低級ヒールポーションのようであるが。


 「そんなの集めてどーするんだ? 向こう (クルーガー王国) で売ったりするのか?」


 慶子は元より治癒(ちゆ)魔法が使える。


 なので、探索においては低級ヒールポーションなど、それほど必要としないはずである。


 (んん、まてよ…………、ってことはもしかして)


 「わかったようねぇ。そう販売のためよ」


 「ふむ、でも低級ポーションだろ?」


 「あぁ、オレわかったっす! スポーツ選手なんかに売るんすよね。 おかわり おねっしゃーす!」


 お茶碗を差し出しながら健太郎(けんたろう)が答える。


 口元にご飯粒(はんつぶ)がついてんぞ。 いちいち言わないけど。


 「そう、健太郎くん正解! それとお弁当つけてるわよ」


 『うへっ』て顔して(ほほ)をさわりまくっている健太郎。


 しかし慶子のやつ、いまだにご飯粒のことお弁当って言うよな。 どうでもいいけど。


 「正確にいうとプロスポーツ選手ね!」


 「ああ~そっかー。それがあれば少々の無理もききますよね。筋肉疲労(きんにくひろう)にも効果的ですし」


 紗月(さつき)がジャーからご飯をよそって、おかわりを健太郎に手渡している。


 「そうね。プロゴルファーやプロテニスプレーヤーといった人達はケガにはシビアよね~。ケガひとつで1シーズン棒にふるなんてことザラだし。そう考えたら、ポーション1本に30~40万円出したところで安い買い物よね~」


 マリアベルが食後にほうじ茶を飲みながら話に加わっている。


 (ほうじ茶か……、マリアベルは冷え症だったよな。夏場でも辛いのだろうか?)


 フフフッ♪  慶子は不敵(ふてき)()みを浮かべている。ちょっと怖い。(汗)


 ふ~ん、それで他者が参入する前に集めてまわっているわけだ。


 それにしたって、こちらには薬事法とかあるんじゃないのか?


 裏で取引するにしても、販路(はんろ)開拓(かいたく)には、かなりのコネがいると思うぞ。


 「それじゃあ、自分が使わないで余ったものは慶子さんにまわせばいいんすよね!」


 「あら、健太郎くんいい子ね~。話が早くてホント助かるわ~。さすがは勇者さまよね!」


 「へへへ、それ程でも……」


 しっかりヨイショも忘れない慶子。さすがはお前だろ。


 「ちゃんと適正価格(てきせいかかく)で買い取ってあげるわね。怪我(けが)は私が(なお)してあげるからダンジョン探索がんばるのよ」


 おいおい適正価格って、向こうの(・・・・)だろ。


 「本末転倒(ほんまつてんとう)にならないようにしろよ。わかってると思うがレベル上げが優先だからな」


 俺は二人にクギを差しておいた。






 ここでもうひとつ話しておくことがある。


 「みんな知ってのとおり、こちらのダンジョンが覚醒(かくせい)するまで、残すところ4日となった。これを見守ったあと、俺は一度 京都に行ってみようと思っている。というのも、頻発(ひんぱつ)する地震の分布(ぶんぷ)などから、ダンジョンのおおよその位置が(つか)めてきたんだ。場所は京都東山(きょうとひがしやま)の一角で完全に山の中になるらしい。そこでシロと一緒に山の探索(たんさく)をおこない、早々にダンジョンの位置と状況(じょうきょう)把握(はあく)しておこう。ということなんだが」


 そのあとは現地に向かう日程も含め、みんなに(くわ)しく説明していった。


 「はーい。ゲンパパ質問!」


 「なんだメアリー」


 「わたしはお手伝いしなくていいの~?」


 「おう、今回は山の中だからな。俺とシロだけでまわろうと思っているんだ。シロに乗れば移動も早いしな」


 「わたしも京都行ってみたい。おだんご食べたい!」


 メアリー、お団子ならこちらにいても食べられるぞ。


 「ゲンちゃん、私も行ってみたいわ。京都って一度も行ったことないのよね~。誰かさんも連れていってくれなかったしねぇ」


 「うぐっ。……べつに遊びにいくってわけじゃないんだぞ」


 「あら! でも、みんなで行けばお食事だって楽しいでしょう」


 「うん、まあ、そうなんだろうけど……」


 「僕も是非(ぜひ)行ってみたいね。京都の伏見稲荷(ふしみいなり)といえば全国稲荷(いなり)社の総本山(そうほんざん)だからねぇ」


 「わたしもお父さんと一緒に京都の様々な神社をまわって、巫女(みこ)とは何たるかを探求してみたいと思います!」


 紗月が(しげる)さんと共に身を乗り出してくる。


 だ か ら、二人とも顔が近いって!


 「でも、この神社はどうするんですか? 誰もいなくて大丈夫なんですか」


 俺がそう(たず)ねると、


 「まぁ3~4日なら代理のものを頼めばなんとかなるよ。だから僕が行くことも頭に入れておいてくれないかな」


 えらくのり気な茂さん。ここまでグイグイくるのは本当に珍しいことだ。


 京都になにか思い入れがあるのだろうか……。


 ええっと、それじゃあ今回の京都行きに参加するものは……。


 茂さんに紗月だろう。


 メアリー・マリアベル・キロの三人は当然ついてくる。


 今回は慶子も参加すると言ってきたな。


 そして最後にもう一人。


 ――健太郎である。


 「オレも行きたいっす。京都に(のぼ)って男をあげるっす!」


 ”京都で男をあげる” 龍馬(りょうま)みたいでいいじゃないか。


 「男をあげるのはいいが、Lv.5に達してなければ連れていかないぞ」


 そこはキッパリ宣言しておいた。


 勿論(もちろん)、健太郎に発破(はっぱ)をかけるためなんだけど。


 いまの意気込みなら、楽々クリアしてくるだろうね。


 それから、自衛隊(じえいたい)の動きはどうなっているんだろう。これが決まらないと、ゆっくり京都見物もできやしない。


 ぼちぼち来てもいい頃だと思うんだけど……。






 そして次の日。午前3時。


 茂さんに合わせて、みんなでダンジョンへ突入していく。


 (ダンジョン探索が朝練みたいになっているのが怖いんだが)


 健太郎は現在4階層をクリアして、5階層を攻略中(こうりゃくちゅう)だ。


 ものすごいハイペースで、前をいっている茂さんにも追いつく勢いだ。


 まあ、基礎となっているパラメーターがくっそ高いので、これ位は楽勝だよね。


 身体レベッルの方もすでにLv.3まで上がっている。


 これこそが勇者に与えられし、開幕(かいまく)ブーストってやつだよな。


 レベルアップ時にも補正(ほせい)が入り、メキメキ強くなっていく。


 それが精神(せいしん)にも影響(えいきょう)を与えるのか、(ほう)けていた面構(つらがまえ)えも、だいぶ引き()まってきたようにみえる。


 ………………


 そして、やってきました5階層のボス部屋。


 ダンジョンに入って2日目だぞ。


 しかも、俺やシロはこの探索において一度も手を貸していないのだ。


 まあ、オリハルコンの剣は少々オーバーキルだったようだけど。


 俺は時計を見る。


 もうそろそろ戻らないと朝食の時間に遅れてしまうな。


 「今朝はここまでだな、一旦戻ろう……」


 そう言いかけた俺の言葉を(さえぎ)り、


 「師匠、3分だけ時間をもらっていいっすか?」


 「…………」


 初のボス戦だし、ここまで来ておあずけ(・・・・)可哀想(かわいそう)か。


 俺が黙って(うなず)いてやると、健太郎は右手に剣を持ったまま、扉が開いたボス部屋へ飛び込んでいった。


 (仕方がない、付き合ってやるか……)


 「シロ、先にボス部屋の出口へ行って、そこで待っててくれ」


 「ワン!」


  横でお座りしていたシロにそう伝えると、俺は小走りで健太郎の後を追いかけた。


 「ありゃりゃ、もうおしまいか?」


 ボス部屋の中央に出てきた俺は、そう呟いた。


 そこには(すでに)にモンスターの姿はなく、ただパラパラと魔石が転がっているだけであった。


 う~ん、さすがは勇者さまだな。 ”レンチンご飯” よりも早い。


 (2分も掛かっていないという意味です)


 言葉を発することなく、淡々と魔石を拾っている健太郎。


 ボス部屋を出た俺たちは転移台座(てんいだいざ)に登録を済ませると、そのまま神社へと戻ってきた。






 健太郎を鑑定するとLv.4になっていた。


 さっきゴブリンジェネラル (フロアボス) を倒したからな。


 昨夜はLv.5になれば京都に連れていくといったが、ここまで成長が早いのならLv.10とでも言っておくんだったな。


 まあ、それでもクリアしそうではあるな。


 恐るべし勇者! 鑑定結果はこちら。

 


 ケンタロウ・クドウ Lv.4


 年齢    17

 状態    通常

 HP   48/48

 MP   27/27

 筋力    27

 防御    26

 魔防    26

 敏捷    27

 器用    25

 知力    27

【特殊スキル】 状態異常耐性 言語理解

【スキル】   魔法適性(聖・火・雷・氷)鑑定(3)剣術(1)魔力操作(1)

【称号】    受け継がれし者、勇者、大食い、

【加護】    ユカリーナ・サーメクス 



 うひゃー、こりゃ(すご)いや。


 このパラメーターの数値は最近ようやくLv.9になった茂さんとほぼ同じである。 


 これを見てしまうと『努力ってなんだ?』と愚痴(ぐち)りたくなってくるな。


 紗月もようやくLv.11になったが、明日にはブチ抜かれているだろう。(パラメータ―的にね)


 加護(かご)持ちであってこれなのだ。


 一般の探索者からしてみれば、とんでもない開きとなる。


 そして、ここは日本だということだ。


 今までダンジョンもなければ、スキルや魔法だってなかった世界なのだ。


 『俺は勇者だ。どやー!』 とかやっていると、たちまちまわりの人からは敬遠(けいえん)されるな。


 最悪の場合、人外認定されたうえに隔離(かくり)されるかもしれない。


 だからここは ”影の勇者” として、陰からこっそり支えるのが一番じゃないかなぁ。健太郎は不服だろうがな。






 あとは……。


 めんどくさいけど、手加減(てかげん)はしっかり教えておかないとな。


 そうそう、今朝の食事から健太郎が使う食器は、金属製のランチプレートに変更だな。


 材質は厚めのチタン合金。軽くて頑丈(がんじょう)だ。


 カトラリーは強くて曲がらないオリハルコン製のやつを出しておこう。


 これは何日か前まで茂さんも使っていたものだ。(力加減を調整するため)


 普段(ふだん)使っている茶碗(ちゃわん)(はし)では、パリパリポキポキ いくつあっても足りなくなるからな。


 しかし、女神さまは何だって勇者なんか送り込んできたんだ? 


 ダンジョンの覚醒に勇者が必要になる事でも起こるのだろうか?


 う~ん、わからん。


 今は俺もシロもいるわけだし、大概(たいがい)のことは対応できるはずなんだけど……。


 まっ、何が起こるのかわからないし、すぐに動けるよう(そなえ)えだけはしておこう。


 (備えというのは、みんなのレベルを上げておくことです)


 あとは出たとこ勝負ということで。







9月3日 (木曜日)  

次の満月は9月27日

ダンジョン覚醒まで3日・63日



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プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押すな。押すな~!
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挿絵(By みてみん)
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