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46. 神器

 なにやら絶妙(ぜつみょう)なタイミングだけれど、女神さまからメールが届いた。


 インベントリーの項目一覧を開くと、一番上の【神様メール】がブリンクしている。


 さっそく神様メールを開いてみた。


 【件名(けんめい)勇者(ゆうしゃ)について】 


 [ユカリーナです。その方、健太郎様はこのアース (地球) における勇者となります。ダンジョンの覚醒(かくせい)に際し、なんとか間に合わせることができました。ある程度(ていど)戦えるようになるまで、お(みちび)き頂きますよう(よろ)しくお願いいたします] 


 なんですとー? 俺がめんどう見るのかよ?


 ”ある程度” ってどんだけー?


 ある程度、もの(・・)になるようにってことだろうな。


 (女神さま、最近人使(ひとづか)いが荒くなってない? まっ、やりますけどー)


 ……ん、まだ何か書いてあるな?


 [p.s 今回のお願いにあたりプレゼントを用意しました]


 おっ、プレゼントくれるの? いいねー!


 インベントリーの項目に【宝箱】アイコンが出現していた。


 ――【宝箱】――


 冒険者にとってはワクワクしてたまらない特別なもの、……なんだよなぁ。


 先程までの憂鬱(ゆううつ)な気分はすべて吹っ飛び、俺はルンルン気分になっていた。(ちょろい)


 では、さっそく! 今回は何が出ますかね~、


 ――ポチっとな♪ 


 んん、……何コレ?


 紫のふくさに包まれていたそれは、見事な装飾(そうしょく)のはいった印籠(いんろう)


 黒地に花鳥文様(かちょうもんよう)金蒔絵(きんまきえ)(ほどこ)され、その中央には(うち) (ツーハイム家) の紋章(もんしょう)が堂々と金象眼(きんぞうがん)で入っている。腰に印籠を()るせるように、(ふさ)付きの紫(ひも)碁石(ごいし)を大きくしたような黒曜石の根付(ねつけ)付属(ふぞく)していた。


 「……………………」


 あまりの出来栄(できば)えの良さに、俺はしばらく声が出せなかった。


 これって(すご)いよな!


 まぁもちろん、神さまが作り出したものなので凄いのは当然のことなのだが……。






 こんな立派なものを頂けるのは、もちろん嬉しいのだが、なぜ印籠だったのか?


 印籠といえば、昔の人たちが使っていたお薬入れ(・・・・)だったよね。


 中に何か入っているのかな?


 緒締(おじ)めをゆるめ、印籠の(ふた)を開けてみた。


 すると中から出てきたのは、なにやら小さく折り(たた)まれた紙。


 その紙を開いて読んでみると……、うん説明書だね。



 [神力(しんりょく)印籠(いんろう):専用アイテム:使用者ゲン] 


1. 中身を取り出すと30日でエリクサーを1粒精製(せいせい)します。取り出したエリクサーは1日で消滅(しょうめつ)しますのでご注意ください。(インベントリーでの保管はできません) 


2. この印籠を見せながら発した言葉には神力がのります。(身分証(みぶんしょう)としてお使いください) 



 はいっ? ……これって完全に神器(じんぎ)だよね。


 あぁ、印籠を振るとカラカラと音がしてるねぇ。出さないけど。


 上から(のぞ)いてみるとパチンコ玉ほどの黒い玉が見える。


 【エリクサー】


 どんな(きず)(やまい)でも、たちどころに治してしまうという伝説の万能薬(ばんのうやく)


 一部では『マンキンタン』とも呼ばれることもある。


 有難いといえば有難いのだが、(うち)にはシロちゃん居るしなぁ。


 まあ、そのうち何か使いどころも出てくるだろう。


 それからもう一つ、


 こちらの作用というか、効果の方が圧倒的(あっとうてき)に凄いよな。


 『言葉に神力がのる』ってなによ。


 それって『神の声』と同義(どうぎ)だよね。


 印籠が身分証(みぶんしょう)になるの……。


 どうしても、こう、水戸黄門(みとこうもん)風にしてみたかったのかなぁ?


 「静まれ、静まれぃ、この紋所(もんどころ)が目にはいらぬか~! (ひか)えおろう!」


 なんつって、みんなで遊んでみたかったけど……。


 これはダメでしょう。シャレになんないよ。






 「ゲンさん。ゲンさん? ゲンさ~~~ん!」 


 いけね! (しげる)さんに呼ばれていたようだ。 


 「すいません、いろいろと考えごとをしていたもので……」


 手に持っていた印籠を(あわ)ててインベントリーに収納した。


 「ゲンさん、大丈夫っすか~?」


 健太郎である。 お前さんにだけは言われたくない。


 「それで今からダンジョンに入るのかい?」


 「もちろんです。 ダンジョン覚醒(かくせい)まで残り5日。こちらでは何も起こらないとは思いますが、(そな)えは必要ですよ。さぁ特訓(とっくん)です! 行くぞシロ!」


 「ワン!」


 「え~、今から?」


 「いってらっしゃーい!」


 「…………」


 「…………」


 「…………」


 あれれ、シロは尻尾を振ってヤル気をみせているけど、他のみなさんは……今いちのり気でない?


 ならば、ヤル気を出してもらいましょうか。


 ――これならどうよ!


 俺はインベントリーから、茂さん用に作った金の(かぶと)(よろい)一式。


 そして、紗月(さつき)用のライトアーマーをテーブルの横に取り出していく。


 ………………


 ダンジョンへの突入準備(とつにゅうじゅんび)は程なくして(ととの)った。


 実際のところは1時間以上かかっているんだけどね。


 茂さんに渡した鎧なんだけど……、これの装着(そうちゃく)難解(なんかい)で。


 パーツも多いし、付ける順番とかもあって大変でしたわぁ。


 それからはみんなのテンションも高く、嬉々(きき)としてダンジョンに潜っていった。


 健太郎? 元気元気。


 女神さまの恩恵(おんけい)はハチャメチャで、心配された筋力の低下も感じさせない動きをしていたからね。


 調子にのったダンジョン探索は、結局朝帰りになってしまった。(実質9時間程)


 少々やり過ぎた感はあるけれど、全員無事にダンジョンから帰還(きかん)した。






 「それじゃあ昼過ぎに、また(むか)えにくるからなー」 


 そう言い残して、健太郎を自宅のマンションに置いてきた。


 俺とシロはそのまま散歩だ。


 「おはようございまーす!」


 すれ違う人と挨拶(あいさつ)を交わしながら、朝の歩道を歩いていく。


 見上げれば雲ひとつない青空。(こよみ)では9月に入ったところだが、今日も暑くなりそうだ。


 ………………


 神社に戻り朝食をとったあとは、学校に行く紗月を玄関で見送る。


 すこし眠たそうにしていたけど、大丈夫かな?


 昨日は例の軽鎧(ライトアーマー)に身を包み、散々(あば)れまわっていたからな。


 (ヴァレン何某(なにがし)くんがモデルのライトアーマー)


 茂さんは平服(ひらふく)を着て社務所(しゃむしょ)に入っていったので、俺たちも母屋を出て地下秘密基地へ下りた。


 シロと朝風呂に()かりながら、これからのことを頭の中で整理する。


 ダンジョン覚醒が目前という時期に、勇者までお出ましかぁ。


 勇者だけど、今は余計(よけい)なことを考えさせないでレベリングに集中だな。


 ここには茂さんや紗月も居るから、健太郎のメンタルケアも何とかなるだろう。


 あと、魔力操作(まりょくそうさ)の訓練も開始しないとな。


 忙しくしていれば、落ち込む(ひま)なんてなくなるだろうさ。






 ダンジョン・カンゾーが覚醒するまであと(わず)か。


 この事実に日本が、そして全世界が震撼(しんかん)するだろう。


 なにせ、今まで存在すら知られていなかったのだから。


 そして、ダンジョンに潜り(きた)えし者は、大なり小なり ”レベルアップ” していくのだ。


 中にはスキルが発現する者も出てくるだろう。


 その力は強大で、一般人では(おさ)えがきかなくなる。


 例えば、ボクシングの世界ヘビー級チャンピオンですらLv.5~Lv.6の者には敵わないはずだ。


 このレベルアップに関して日本は、そして世界はどのような対応をしていくのだろうか?


 軍事力がものを言うこちらの世界。


 アメリカ、ロシア、中国といった大きい国はけして黙ってはいないだろう。


 いずれは全世界に出現していくであろうダンジョンではあるが、これには時間差が生じてしまうのだ。


 そこが、問題になってくるかもしれない。



 ――― ダンジョンがもたらす利権(りけん)(めぐ)っての争い ―――



 逆に考えれば、今のうちにオーストラリア大陸をはじめ、砂漠や人が住めない地域(ちいき)を押さえるなんて戦略(せんりゃく)もとれるのだ。


 十分考えられるだけに恐ろしい。


 だが、それを抑止(よくし)するための勇者かもしれない?


 まあ、世界に一人では到底間に合わないわけで、これからどんどん指名されていくのだろうが。


 それにしても、若い健太郎を見ていると、やはり不安にさせられる。


 せめて、しっかりしたブレーンを付けてあげられるといいのだけれど。


 日本政府や自衛隊の担当者(たんとうしゃ)は、なるべくサブカルも理解できる頭の(やわ)らかい人がいいな。


 俺もアドバイスはできるけど、実際に行動するのはこちら (地球) の人たちだからね。






 それにしても茂さん、昨夜はかなり張りきっていたよなぁ。


 床几(しょうぎ)に座った姿は、まさに戦国武将(せんごくぶしょう)といった雰囲気だった。


 着てない時は(とこ)()に飾ったらいいとおもう。


 ただ、鎧の装着(そうちゃく)に時間が掛かるのが難点(なんてん)だよな。


 あれを一人で着るのは絶対無理だね。


 それに本人(いわ)く、金箔押(きんぱくお)しで作ってはみたけど、目立ち過ぎて恥ずかしいそうだ。


 『やっちまったなぁ』 と反省の弁を()べていた。


 ――でしょうね。


 まあ、あの【金ぴか甲冑(かっちゅう)】はそのまま残すとして……、


 次回は黒塗(くろぬ)具足(ぐそく)でいきますかね。”赤備(あかぞな)え” なんてのも捨てがたいけどね。


 使い勝手を考えると、烏帽子兜(えぼしかぶと)黒塗(くろぬ)りの短いものにし、兜の前立てに付けた蜻蛉(トンボ)(かざ)りだけ金箔(きんぱく)をはるようにしようかな。


 鎧の脱着(だっちゃく)簡素化(かんそか)して、一人で着れるようにしないとね。


 紗月も嬉しそうだったな。


 剣姫(けんき)のライトアーマーはお気に召したようである。


 黒髪ながら、よく似合っていたとおもう。


 レイピアを出してくれと言われたときには少々(おどろ)かされたけど、


 「それは少し練習してからだな」


 そう言っておいた。


 いきなり刺突剣(しとつけん)を渡されたからといって、そうそう使えるはずもないからね。


 (かえで)に頼まれていたライトアーマーはどうするのかと聞いたら、


 出来上がっているのなら、宅配便で送ってほしいとのこと。


 剛志(つよし)さんにも(しぶ)めの革鎧(かわよろい)を作っておいたので、それと一緒にで送ってあげよう。


 例の大型ナイフもどうしようかと一瞬迷ったけど、早く見てみたいだろうと思い、ライトアーマーと一緒に送ることにした。


 ヒエログリフの刻印(こくいん)もバッチリだからね。(意味は伝えないけど)


 ついでだし、めんたいマヨネーズも10本ばかし入れておこう。


 このめんたいマヨネーズ。なんと嬉しいことにイヲンの調味料コーナーに売っていたのだ。


 流石はイヲンさん、よくわかってらっしゃる。


 これがまた色々と合うんだよねぇ。


 牛丼はもちろん、パンにぬってもよし。ピザやサラダに掛けても美味しいのだ。


 おすすめは()かしたジャガイモだな。これって無敵(むてき)


 焼きギョーザや(とり)のささみ焼きにも良く合うらしい。


 詳しくはクックパッドを見てくれ。







9月2日 (水曜日)  

次の満月は9月27日

ダンジョン覚醒まで4日・64日



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挿絵(By みてみん)
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