表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/128

41. 甲冑

 初探索(はつたんさく)で疲れがみえていた本条さん一家、夕食を済ませるとすぐに地下宿舎(しゅくしゃ)の方へ引き上げていった。


 後片付けも終わってひとごこちついた頃、シロを()でながらテレビを見ていた俺に(しげる)さんが声をかけてきた。


 「ちょっと、(よろい)のことで相談があるんだけど聞いてもらえるかい」


 「もちろんです。どんなタイプが好みですか? 遠慮(えんりょ)なく言ってください」


 そう(うなが)すと、茂さんは鎧のモデルとなる写真をスマホで(しめ)しながら、


 「これなんだけどね、どう思う? あくまでもベースとして考えているんだけど」


 見せられたのは、誰もが知っている戦国武将(せんごくぶしょう)の絵。


 天を突くかの(ごと)金箔押(きんぱくおし)長烏帽子形(ながえぼしがた)(かぶと)(まばゆ)いばかりの金箔押の胴丸具足(どうまるぐそく)


 そう、その武将とは、信長に仕え加賀藩の()となった人物。


 ”槍の又左(やりのまたざ)” こと前田利家(まえだとしいえ)その人であった。


 「……おお~!」


 まあ、茂さんの得物(えもの)は長物の(ほこ)なので有りといえば有りなんだけど。


 それにしても、また(すご)いところをブッこんできたよなぁ。


 でもいい! すごくいい! 


 こうして昔の良きものを堀下(ほりさ)げつつ、ベースとして使うなんて凄く魅力的(みりょくてき)だとおもうな。


 それから二時間ばかし、夜の甲冑談義(かっちゅうだんぎ)はおおいに盛り上がるのだった。


 話が終わった俺は、シロを連れてひとっ風呂()び、自室に入って瞑想(めいそう) (魔力操作) をおこなう。


 そのままごろんとふとんに倒れ込んだ俺は念話にてカンゾー (ダンジョン) と交信を始める。


 覚醒状況(かくせいじょうきょう)の確認など、諸々の業務連絡を済ませると、さっそく鎧の試作を行なうことにした。






 長烏帽子兜(ながえぼしかぶと)はその形を変えないように若干(じゃっかん)短くし、素材には軽くて強度がある超超ジェラルミンを採用。大袖(おおそで)草摺(くさず)りはワイバーンの革を重ね、(どう)にも超超ジェラルミンを採用した。


 (超超ジェラルミンは航空機などに使われているアルミを主体とした合金です)


 それで問題のカラーリングだが、黒を基調(きちょう)随所(ずいしょ)に金箔を使っていくことにした。


 あのまんまの金キラキンだと、さすがに目が痛いだろ。


 みんなからは絶対『百式(ひゃくしき)』と呼ばれていたとおもう。


 しかし、兜だけは総金張りのままでいきたいという意向だった。


 これには俺も異論(いろん)はない。


 昔の戦国武将のように『我ここにあり!』と存在感を出しながら戦うのもかっこいいじゃないか。


 (これでヘイトはガッツリ(かせ)げるし、盾役(たてやく)は決まりだな)


 籠手(こて)佩楯(はいだて)臑当(すねあて)と、全装備(ぜんそうび)合わせると30㎏を超えてしまうけど、茂さんは今日Lv.6にまで上がっているのでまったく問題ないだろう。


 何回かの試作を()て、茂さん用の鎧兜(よろいかぶと)一式は完成した。


 こうなると、腰に()脇差(わきざし)の一本も欲しくなるよな。


 ついでに、今朝いっていたベルくんとヴァレン何某(なにがし)くんの軽鎧(ライトアーマー)も発注しておきますかね。


 んっ、サイズは測らなくていいのか?


 うん、ダンジョンに入ったときに身体のサイズや動作はスキャンさせているので大丈夫。


 ただ、アニメをモデルにしたものは強度に不安があったり、関節部(かんせつぶ)可動域(かどういき)に問題が生じたりとなかなか大変なんだんよね。


 まあ、目的がコスプレであれば見た目重視でなにも考えなくていいんだけど、実戦で使うとなれば、あれやこれやと神経を使うのだ。


 本人たちは何も知らないからいい気なものである。


 お父さんの剛志(つよし)さんは俺と同じような革鎧(かわよろい)が好みらしい。


 お母さんの久実(くみ)さんは慶子(けいこ)と仲良くワイバーンのローブを着ている。


 このワイバーンのローブには強化魔法が付与(ふよ)されているため、本来はコレだけでも強度は十分なのだ。


 胸と背中にはツーハイム家の紋章(もんしょう)入りで、お洒落(しゃれ)なんだけどなぁ。






 それから1週間、俺たちはダンジョン漬けの毎日を送っていた。


 マリアベルの家族である本条家の方々は(みな)Lv.5を超えて、なおもバク進中である。


 ただ……、お母さんは変わり過ぎじゃね?


 レベルも上がってほっそりしてきたのはいいけど、ちょっと若返りしすぎだよね。


 なによ、そのピチピチした たまご肌。


 おかしい……。


 毎朝テレビでやっている、あやしい化粧品(・・・・・・・)のコマーシャルを見ているような変わりっぷりだ。


 探ってみたところ、


 慶子と久実さん、最近(みょう)にシロと仲がいいんだよね。


 あっ、あれはビーフジャーキー!? 


 チラッと見えた、あの赤いパッケージは天狗印(てんぐじるし)の高級品じゃないか!


 「………………」


 ハッハーン! これでなんとなくだが謎は解けたな。


 つまり、ご婦人方と仲良くなったシロちゃんがアンチエイジングのお手伝いをしているわけですよ。


 (治癒魔法(ちりょうまほう)であるリカバリーを使って物理的に)


 まあ、シロがそれで良いと思っているのなら問題はないかな。


 若返って、生き生きしている女性は見ていても気持ちがいいものだしね。


 「は――――っ!? どうしたのよその顔は!」


 楓と並ぶと、どう見ても姉妹にしか見えない母を目の前に、マリアベルだけが盛大にツッコミを入れていた。






 俺は朝食後のひとときを地下秘密基地のリビングで過ごしていた。


 「また新しいものを購入したので見てもらってもいいか?」


 フウガである。色々なグッズを両腕(りょううで)いっぱいに抱えている。


 俺が許可をだすと、テーブルの上に一つひとつ丁寧(ていねい)に並べていく。


 双眼鏡(そうがんきょう)・赤外線暗視スコープ・集音(しゅうおん)マイク・ペン型ボイスレコダー・聴診器(ちょうしんき)・ピッキングツール・各種ロープ・カラビナ・動滑車(どうかっしゃ)、そしてカメラ付きのドローンだ。


 まさに某国(ぼうこく)のスパイさながらである。


 確かに諜報活動(ちょうほうかつどう)には必要なのだろうが、こんな物をいったい何処(どこ)で仕入れてくるんだ?


 (…………あれは!)


 フウガの胸ポケットに入っていたポイントカードがチラリと見えた。


 そのポイントカードのマークには見覚えがあった。


 なるほど、”アキバガ○ージ” ね。


 こっち (福岡) にも支店があったんだな。


 あの店なら、こういったスパイグッズは数多く取り扱っているだろう。


 購入したものを手にとりながら一通り確認していく。


 そのあともフウガと話をしていたのだが、なんと『Nシステム』に割り込むことが出来たそうだ。


 Nシステムとは警察(けいさつ)が管理している国内の車両追跡(しゃりょうついせき)システムのことである。


 予算の関係からか、セキュリティの方は甘々だったらしい。


 それに付随(ふずい)するかたちで、地方運輸局(うんゆきょく)のシステムにもアクセス可能になったとか。


 これで車のナンバープレートを見るだけで、その車の行き先や所有者を割り出すことができるようになったそうだが……。


 こういうシステムって、情報が外に()れないよう独自のネットワークを使っているんじゃなかったっけ?


 プロのハッカーも顔負けだな。


 それから某国(ぼうこく)のカメラ付き静止衛星(せいしえいせい)へのハッキングに関しては、(のぞ)くところまでは簡単にできたそうだ。


 しかし、カメラを動かそうとすると【緊急停止】アラートが発せられ、接続が一時的に切れてしまうらしい。


 今はそのシステムを少しずつ解析中(かいせきちゅう)とのこと。


 某国に気づかれないように利用するためには、一旦ダミー映像(えいぞう)に切り替えるようなプログラムが必要なんだとか。


 (…………!)


 現在のフウガはLv.21。


 知力もそこそこ上がっているだろうが、ここまでとは……。


 凄すぎるぞフウガ!


 高性能のデスクトップパソコンを買いに、今度一緒にヤーマダ電機へ行こうじゃないか。






 時間になったので俺たちは神社の裏にある駐車場へ出てきた。


 東京へ帰るマリアベルの家族を見送るためだ。


 といっても、帰るのは剛志さんと久実さんの二人。夏休み中の(かえで)はもうしばらくこちらに残るそうだ。


 本人たちはまだまだ探索したかったようだけど、会社の方もそんなに長くは休んではいられないのだろう。


 それでレベルの方はどうなったかというと、


 剛志さんは今朝の探索でLv.6まで上がったが、久実さんはLv.5のままである。


 欲をいえば、もう1つ2つは上げておきたかった。


 東京のダンジョンが覚醒(かくせい)するまで、まだ2ヵ月以上あるとはいえ地震はすでに起こっている。


 こちらで制御(せいぎょ)ができない分、被害(ひがい)がどのくらいになるかは未知数なのだ。


 正直いってかなり不安なのだ。


 できることなら、もう何回かこちらに来てレベル上げをしてほしいところだ。


 さすれば、不測(ふそく)事態(じたい)(おちい)った場合でも、ある程度は対応できるはず。


 向こう (クルーガー王国) で王都を守る衛兵隊のレベルがLv.7~8だったはず。


 このあたりのレベルになると、10mある城壁(じょうへき)の上から落下したとしても足の捻挫(ねんざ)か、落ちどころが悪ければちょと骨折するくらいで済む。


 (高さ10mはビル3階のベランダぐらいかな)


 ――骨折するんじゃダメじゃん。


 そう思うかもしれないが、こちらは一般人での話。俺たちは女神さまから加護(かご)(さず)かっているからね。加護があるとレベルアップ時のステータスの伸びが格段(かくだん)に違うのだ。


 そうなると、俺たちが同じレベル帯にあればステータスは2倍以上。ケガもしないで済むということ。


 「膝の治療を含めてゲンさんには散々世話になったね。本当にありがとう。この御恩(ごおん)をどうやって返したらいいのかわからないよ」


 「いえいえ、マリアベルの家族なら俺にとっても大切な家族です。その辺はどうぞお気遣いなく」


 「そうはいうけど、いいのだろうか……。う~ん」


 「近いうちに東京へは行かなければなりませんし、その時はこちらもお世話になると思いますので……」


 「いや、それでもだよ……」


 「もう、おとーさん! ゲンがいいって言ってるんだから気にしなくてもいいのよ。それだけ私が尽くしてあげるんだから」


 「う、うん、それじゃあ(あおい) (マリアベル) のことはしっかりとお願いするよ」


 「はい、そこはお任せください」


 久実さんとも二言三言挨拶(あいさつ)を交わして、みんなは車に乗り込んでいく。


 このあと、茂さんとマリアベルが二人を博多駅まで送る手はずになっている。


 ダンジョン転移を使って駅まで送ってあげてもよかったのだが、昼間に大人数での転移は目立ってしまうので止めておいた。


 「また、お会いしましょう」


 開いてる窓に向かって声を掛けると、車はゆっくりと動きはじめた。







8月23日 (日曜日)  

次の満月は8月28日

ダンジョン覚醒まで14日・74日



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押すな。押すな~!
小説家になろう 勝手にランキング
シロかわいい! と感じたら押してください。シロが喜びます。U•ɷ•)ฅ
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ