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30. 興味津々

 俺たちは新しくメアリー・マリアベル・チャト・フウガ・キロを加え、日本の拠点(きょてん)である老松神社(おいまつじんじゃ)に転移してきた。


 まず腕時計のボタンを操作(そうさ)して日付と時刻を合わせる。(電波時計です)


 今日は8月6日木曜日。時刻は午後3時20分を指していた。


 「あれ? あれ? マリア、これ (時計) どうしたらいいの???」


 「あ、そこじゃないわ。こっちの下のボタンよ。ゆっくり押したまま10数えるのよ」


 メアリーとマリアベルも俺に(なら)って、時刻合わせをおこなっている。


 二人が腕にはめているのはS○IKOのソーラー電波時計。以前、イヲンで購入したペアウォッチだな。


 気になるもう1本はナツがはめている。


 防水機能がついていることを説明すると、仕事中もずっとはめていられると喜んでいた。


 温泉施設で働いている彼女は水仕事が多いからね。


 ………………


 境内(けいだい)を見回してみたが、人の気配(けはい)は感じられない。


 それでも念のため、玄関から中に入るまでは認識阻害(にんしきそがい)を掛けたままで行動した。


 「「「ただいまー!」」」 「ワン!」


 母屋の引き戸(ひきど)を開け、帰ってきたことを元気に伝えた。


 「やぁ、おかえりー。向うは楽しかったかい。ささ、上がって上がって!」


 (しげる)さんが玄関までやってきて俺たちを出迎(でむか)えてくれる。


 「いいですか皆さん、家にあがる際はここで靴を脱いでくださいね」


 紗月(さつき)が異世界組に日本のルールを説明していく。


 「へーそうなんだ、何かおもしろいねぇ」


 「メアリー、靴を脱いだあとはこうやって並べてね」


 「うん、紗月わかったー。脱いだ後反対に向けて置き直すんだねぇ」


 取りあえず全員に浄化(じょうか)(ほどこ)し、家に上がり居間へ入っていく。






 俺がテーブルの前に座ると左にはメアリー、右にはマリアベルが腰をおろす。


 マリアベルの隣りにはチャトが座布団(ざぶとん)の上に堂々と鎮座(ちんざ)している。


 エジプト座りしているデカ猫は、なかなかの存在感を放っていた。


 慶子(けいこ)はテーブルの横へとまわり、座ってシロを撫でている。


 そして、当たり前のように俺の後ろに立っているのが狼人族(ろうにんぞく)のフウガとキロである。


 洋間の応接間とかならいざ知らず、ここは一般的な日本家屋(にほんかおく)の居間なのだ。


 ガタイのいいフウガに立ったままで居られると非常に暑苦しい。


 「おい、二人共立ってないで座れ座れ」


 俺は振り返って指示を出した。


 すると、紗月が二人の前に座布団を敷きながら、


 「そのまま(たたみ)に座っても構いませんが、お二人とも家にとってはお客様ですから、どうぞこの座布団を使ってください。男性の方はこのように正座して背筋を伸ばし、拳は握って(ひざ)のうえに置くとかっこいいです。女性の方も基本は正座です。手は伸ばして、このように前で組むと女らしくて良いとおもいます。慣れるまでは大変でしょうが、がんばってください」


 「がんばる? でしょうか」


 日本の座り方をレクチャーしてくれた紗月の言葉に、キロがかわいく首を(かし)げている。


 その ”がんばれ” の意味……、今は分からないだろうな。


 でも20分も座ってれば嫌でもわかると思うぞ。フウガがすっころんでる様子が目に浮かぶなぁ。


 さて、帰ってきた挨拶(あいさつ)と報告を…… 、と思ったが――。


 そうそう、コレを配っておかないとな。


 【多用途言語翻訳たようとげんごほんやくシルバーイヤリング】


 コレは女神さまに頂いたアーティファクトをデレク (ダンジョン) に頼んで複製(ふくせい)させたものだな。


 茂さんやフウガやキロといった、まだ持っていない者全員に配っていく。


 そしてマリアベルにも一つ渡そうとしていると、


 「なんで私まで? まだ日本語は覚えているわよ!」


 少しむくれた様子のマリアベル。


 「そう言わずに持っておけって。英語やフランス語の他、いろんな言語に対応できるから」


 「そうなの?」

 

 「ああ、外国映画やYooTubeなんか見るときもすごく便利だぞ」


 「……じゃあ、頂いとくわね」


 俺が理由を説明すると、マリアベルも納得してイヤリングを受け取ってくれた。






 向こう出身の獣人組(じゅうじんぐみ)はキョロキョロと部屋の中を見回しており興味津々(きょうみしんしん)である。


 特にテレビは食い入るように見つめていた。


 「紗月、コレ凄~い! 絵画()の中にいっぱい人が入ってるぅ!?」


 「メアリー、それはテレビといってね………………」


 紗月がテレビについて一生懸命(いっしょうけんめい)説明しているが、メアリーたちには何を言ってるのかチンプンカンプンのようだ。


 もともと基礎知識(きそちしき)のない者に説明するのは大変みたいだ。


 そうだよな~。


 テレビがどのような仕組みで映ってるのかなんて、俺たちだって解らないのだから。


 まあ、こういう物なんだと思って()れてもらうしかないよな。


 外に出たとき、自動車やバイクを見たらビックリするだろうね……。


 テレビでは夕方のワイドショーをやっていたが、やはり地震関連のニュースや話題が多いようである。


 梅雨(つゆ)は明けているが、今まで降った雨により(ゆる)んだ地盤は土砂災害(どしゃさいがい)も誘発して、被害が拡大しているようだ。


 何とかしてあげたいが、個人の力では如何(いかん)ともしがたい。


 日本政府や自衛隊(じえいたい)とのパイプができるまでは辛抱(しんぼう)するしかない。


 テレビを見ながらそんなことを考えていると、慶子と紗月がみんなにお茶を()れてくれた。


 「ゲンさん、お茶が入りましたよ。メアリーも飲んでみて。日本のお茶は初めてでしょう」


 「うん、ありがとー。なんか香ばしい感じがいいね!」


 お、これは玄米茶だな。たしかに香ばしい匂いが漂っている。


 シロとチャトはお水をもらってるのか。


 う~ん、インベントリーにお茶()けになりそうなもの、何か入ってたかな……?


 コレなんかどうだ。俺は ”かりんとう” をみんなの前に出してあげた。


 ――――? 


 ん、チャトがなにか変な反応をしているな?


 かりんとうを口に入れるマリアベルを見て、なぜか怪訝(けげん)な表情だ。


 くんくんくんくんくん。


 (にお)いを()いだり、猫パンチで転がしたりしている。


 「…………」


 (それは乾いた ”う○こ” じゃないから食べても大丈夫だぞ~)






 お茶を頂いて(なご)んだところで、茂さんに連れてきたみんなを紹介していく。


 続いて、向こうでおこなっていた特訓の成果(せいか)なども報告していった。


 そして茂さんは動かなくなった……。


 待望の偃月刀(えんげっとう)披露(ひろう)した為だ。


 全長180㎝の(ほこ)刃渡(はわた)りが38㎝のミスリル合金。持ち手である長い()の部分はオールチタン製で軽量化を図っているものの、重量は7㎏とやや重い。


 偃月刀(えんげっとう)を見つめたまま茂さん。


 こういう武具類(ぶぐるい)が本当に大好きなんだろうね。


 それからは俺と茂さんの二人で偃月刀を(なが)めながら、ああだこうだと武器談義(ぶきだんぎ)が始まってしまった。


 しばらく様子を見ていた慶子だが、紗月を誘って晩ご飯の買い物に行ってしまったようだ。


 「ねぇ、このパソコンって使えるの?」


 「ん? おお、ノートパソコンな。そこにあるやつは俺が買ってきたものだから自由に使っていいぞ。Wi-Fiも(つな)がっているから、インターネットでいろいろ検索することもできるしな」


 「じゃあ、ちょっと借りるわね」


 今までテレビにかじりついていたメアリーとキロだったが、


 マリアベルがパソコンを立ち上げたことで、今度はそちらに興味を示し、今は3人並んでポチポチやっている。


 フウガは先程まで、まともに立つこともできずにひとりで踊っていたのだが……。


 興味があるのか、俺たちの近くに来て武器談義に耳を(かたむ)けている。






 程なくして買い物から帰ってきた慶子と紗月だが、夕飯の準備をするため女性たちを引き連れて台所に行ってしまった。


 コンロやレンジ、炊飯器(すいはんき)といった機器(きき)(あつか)い方を教えているようだ。


 その一方で、開いているノートパソコンにフウガは興味を示している。


 「…………」


  じ――――――――っ。


 「なんだフウガ、興味(きょうみ)があるのか? やってみるか?」


 マウスを渡し、基本的な(あつか)い方を簡単にレクチャーすると、後はポチポチ自分で操作(そうさ)するようになった。


 多用途言語翻訳たようとげんごほんやくシルバーイヤリングのお陰で文字が理解できているという。


 日本語 (漢字) にも対応しているなんて、あのイヤリング(すご)すぎるだろ!


 (う~ん、みんなで使えるように、パソコンをもう何台か増やしてみるか) 


 モニターに(かじ)りついているフウガを横目に、俺はそんなことを考えていた。


 ………………


 未だ偃月刀の刀身(とうしん)を食い入るように見つめては、何やらため息をついている茂さん。


 俺はインベントリーからマジックバッグを取り出すと、茂さんに声をかけた。


 「その偃月刀はこの袋に入れて保管しておいてください」


 「えっ、これは?」


 「遠慮(えんりょ)なさらずに どうぞ」


 「もしかして、これもマジックバッグというヤツなのかい?」


 俺は黙ったまま頷いた。


 茂さんは少々舞い上がってしまったのだろうか、


 偃月刀をマジックバッグに納める際、(つか)の方から入れようとしていたのだ。


 「――ちょっと待った!」


 ビクッ! と俺の声に反応して手をとめる茂さん。


 「それでは取り出すときに危険です。刃の方から入れるようにお願いします」


 「あっ、ああ。そうだったよね。ハハハハハッ」


 偃月刀が矛先(ほこさき)の方からマジックバッグへ納められていく。


 これはこれで、何とも危なっかしい感じだな。


 ケガをしないうちに(さや)を用意することにしよう。






 「それで自衛隊(じえいたい)の方からは何か連絡はありましたか?」


 「自衛隊かい? あれからはまだ何も連絡は入ってないんだよね」


 「そうですか……」


 「じゃあ、地震の方はどうなりました? メモを渡してましたよね」


 「そうそうコレね。 あれから大きな地震は2回起きてるけれど、どれもドンピシャだったよ。これ見せたら、気象庁(きしょうちょう)も真っ青になるんじゃない」


 「そうですか、バッチリだったんですね。メモは自衛隊の方にも渡してますし、役に立っていれば良いのですが……」


 「そうだね、範囲がかなり限定されるから避難はさせやすいだろうしね。次の地震がいつくるか分かっていれば二次災害(にじさいがい)を気にすることもないし」 


 (実際のところは、どうなってるんだろうね……)


 先ほどカンゾー (ダンジョン) に今の状況(じょうきょう)(たず)ねたところ、


 ダンジョン・カンゾーの覚醒率(かくせいりつ)は現在97%。

 

 ダンジョンリビングに関しては、完全に覚醒すれば利用可能になるということだった。


 地下シェルターの建設、温泉の掘削工事(くっさくこうじ)に関しては今からでも問題なく行えるとのことである。


 実は温泉の泉脈(せんみゃく)はすでに見つけており、汲み上げ工事や泉質(せんしつ)の調査も終っている。(ダンジョン内で)


 ただ、日本には ”温泉法” という法律があるのだ。


 本来は掘削工事(くっさくこうじ)をするのにも許可がいるのである。


 故に、温泉を地上に出すといろいろと面倒なことになるので地下秘密基地 (シェルター) を建設したのち、そちらで利用しようかと今は考えている。







8月6日 (木曜日)  

次の満月は8月28日

ダンジョン覚醒まで31日・91日



上から現在の日付・満月にあたる日付・ダンジョンが完全に覚醒する日付になります。

左が1基目 (カンゾー) の起動日、右が2基目3基目の起動日になります。


※ダンジョンリビングとはダンジョン管理者のためのプライベート空間。

そのスペースは広く10km四方ほど亜空間に固定できる仕様です。



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挿絵(By みてみん)
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