19. カンゾー
あれから2日たって週明けの月曜日を迎えていた。
向こう (サーメクス) へ帰還するまで、およそ2週間というところかな。
慶子や紗月が向こうで修行する期間を考えると、この2週間である程度の方針や道筋はつけておきたいところなのだが。
ただ、俺を中心に物事を進めていくわけにはいかない。
俺は別の世界の人間であり、拠点はあくまでもクルーガー王国 (サーメクス) なのだ。
いずれ居なくなってしまう人間だし、こちらの世界の事はこちらの人間がやるべきである。
しかし、ダンジョンなどという突拍子もない話を、まともに取り合ってくれる人なんていないだろう。
ましてや身分証も持たない、どこの馬の骨とも知れないヤツの話だ。
度重なる地震で頭がおかしくなったヤツと思われるのが関の山だよな。
さて、どうする……。
こういう時って、ラノベの主人公たちはどうしているのだろう?
そうかラノベを読めば……。
だぁ――――っ! 開きかけたノートパソコンの天板を閉じる。
現実逃避してる場合じゃないだろ!
いや、ラノベは読みたいんだけどー。
(…………)
今は茂さんにお任せするしかないよなぁ。
話のわかる人物が見つかればいいけど。
じゃあ俺は何をする?
散歩・パチンコ・食べ歩き…………。
できないだろ、こんな時に遊ぶことなんて。
では何を?
話をする際に、説得できるものを探すんだ。
俺やシロの力を見せるとか?
下手なもの見せても、マジックだと思われて『テレビ局にでも行け!』と言われそうだし。
かといって、その辺を破壊してまわるわけにもいかないし。
ダンジョンの起動が地震の要因である証拠か~。
そんなもの、ダンジョンにでも聞いてみないとわかる訳ないだろう。
ん……、そっか!
ダンジョンだよ。ダンジョンを見つければいいんだよ。
そうすると、まずは場所の特定からだな。
1基目のダンジョンは意外と近くにあるんじゃないか?
女神さまは教えてくれなかったけど、何故かそんな気がする。
俺はさっそくパソコンを開くと、
ここ最近起こった地震の分布が載った地図を探しはじめた。
検索エンジンを使ってどんどん絞り込んでいく。
あった! ありましたよ震源地分布の地図が。
いくつかあった震源地分布の地図をたよりにダンジョンの位置を割り出していく。
すると、やはりこの神社の周辺があやしそうだ。
未だ一度も震源地にはなってないけど……。
一番あやしいのは、あの雑木林だよな。
もしや女神さま、俺とシロを直接ダンジョンの上に飛ばしたとか?
うん……、十分にありえる話だな。
よしゃ! ”現場百篇” とも言うし、もう一度行ってみるか。
「そこの雑木林までちょっと行ってきまーす!」
俺は茂さんにそう告げるとシロを連れて表にでた。
空は薄暗くどんより曇っている。
すぐには降らないだろうが、どのみち急いだほうが良いだろう。
参道の階段を駆け下り、中腹から手すりを乗り越え 右手に広がる雑木林の中へと分けいった。
程なくして、俺たちは最初に転移してきた場所に到着した。
「シロ、どうやらこの付近にダンジョンがあるみたいなんだ。何か痕跡がないか探ってくれるか」
「ワン!」
シロにお願いしたのち、俺はショートソードをインベントリーから取り出した。
ショートソードを片手に藪をはらいながら探索を進めていく。
ここ1時間ほど付近を調べてみたが、これといっては何も出てこなかった。
休憩を取ろうとシロを一旦呼び戻す。
手ごろな岩の上に腰掛け、牛丼弁当と水を出して一緒にいただく。
「シロはいつも楽しそうだよなぁ」
お座りしているシロの頭を撫でながら俺はそう呟く。
『おいしい、いる、いっしょ、いつも、おにく、うれしい』
そうかそうか、俺もシロと一緒に居られて嬉しいぞー。
それから、再び探索してみたが結局何も見つけることはできなかった。
ダンジョンが完全に覚醒しないと場所の特定は難しいのだろうか?
ふぅ――――っ!
しかし、有るのか無いのかわからないものを探すのって骨が折れるよな~。
せめて、ここがダンジョンの中ならば【ダンジョンマップ】が使えるんだけど。
……んっ、んん。
そうか! ダンジョンマップがあるじゃないか。
ここがダンジョンの上ならば使えるはずだ。
そう考えた俺は右手を地面につけダンジョンマップを発動させた。
……ははっ、ははははははっ!
わかる。わかるぞー! ダンジョンの構造が。
まだ、支配下にない野良ダンジョンなので転移陣などはないのだが、すでに入口は出来あがっているようだ。
俺は口笛を吹いてシロを呼び寄せると、その入口がある方へ向かっていった。
………………
着いた場所は草木が生える何の変哲もない ”ただの土手” であった。
そう、ダンジョンの入口はまだ土の中にあるのだ。
これから覚醒に向けて、どんどんせり上がっていき、いずれは地表に姿を現すのであろうが。
う~ん、こんなとき土魔法が使えるマリアベルがいると楽なんだけどなぁ。
仕方がないので物理でいきましょうか。
「シロ、大きくなってこの土手を奥に掘っていってくれないか。光学迷彩と遮音の結界も忘れずにな」
「ワン!」
シロは一吠えすると、スルスルスルっと4mを超える本来の姿 (フェンリル) へとサイズチェンジ。
両前足を交互に動かし、ガスガスと土手を削りとっていく。
”ここ掘れワンワン” 状態である。スケールは大きいけど。
(ああ、穴掘りが楽しいんだろうなぁ)
穴から出ている尻尾が左右に元気よく振られている。
5mほど掘り進んだだろうか。
シロは掘るのを止め、穴から出てきて顔をのぞかせる。
どうやら、向うへ貫通したようだ。
俺は冒険者装備を身につけると、通常わんわんサイズにもどったシロを連れてその穴に突入していった。
中は真っ暗で何も見えない。
う~ん、こんなとき光魔法が使えるメアリーがいれば、周りを明るくしてくれるのだが。
居ないものは仕方がない。
俺は小さいマグライト (以前ヤーマダ電機にて購入) をインベントリーから取りだすと、前方を照らしながらゆっくりと進んでいった。
ダンジョンマップの情報によると、ここはホールのような形状になっており、この先には階段があって下へ続いているようだ。
やがて階段に差し掛かかった俺たちは、そのまま下に向かっておりていく。
――――!?
俺は胸騒を覚えた。
これって以前に感じたことがあるような……。
そして下のフロアーへ足を踏み入れた瞬間、
ピーン!{時空間魔法(U)により、ダンジョンの使用者権限を取得しました}
――やっぱし。(汗)
でも、良いのだろうか。
俺はこちら (地球) の人間ではないんだぞ。
[主殿、そこは問題ござらん。某は主殿についていくでござる]
うわ~、ハ○トリ君のような声が頭に。獅子丸どこよ?
その内、ニンニンとか言いだしそうだよなぁ。
(そうそう、お前さんの名前は貫蔵。ちゃんと登録しとけよ)
[了解でござる、主殿。某はこれよりカンゾーでござる。どうぞ良しなにでござる]
う~ん、これで良かったのかなぁ~。
7月13日 (月曜日)
次の満月は7月29日
ダンジョン覚醒まで55日・115日




