121. 幸多からん事を(終)
王都の大教会で結婚式を挙げた俺達は今。
束の間の休息をとりに、ディレクの温泉施設へ来ていた。
明日からは、怒涛のパーティーラッシュである。
3日だよ、3日。 勘弁してほしい所だよなぁ。
しかし、家の嫁御・三人衆は至って元気である。
ドレスがどうの、コサージュがどうの、髪型がどうのと大変だ。
まあ、俺はカヤの外なのであるが、今はこうしてハルに癒されながら露天風呂を満喫している。
「し、師匠。ズルいっす! 何ですか? この桃源郷は」
と、鼻息を荒くしているのは健太郎である。
コヤツは今、某私立大学の経済学部に通う大学生なのだ。
剣道をやっていたから体育大にでも行くのかと思っていたが、
「相手の動きや竹刀が止まって見えるっす。アレでは勝っても誇れないっす」
とか何とかぬかして、一般大学に進学したのだ。
まあ、おそらくは女子目当てであろうが。未だに彼女の一人も出来ない状態なのだ。
男の俺から見ても、ルックスは悪くはないのだがな……。
やっぱし、あれか? ”大食い病” のせいだろう。
一旦食い始めると、腹が満たされるまで、周りを無視して食べ続けてしまうからな。
これでは女性はついて来ないよなぁ。
それがレベルが上がって、さらに食欲が増強しているのだから救いようが無い。
それで、コヤツのたっての希望で、これから奴隷商館に連れて行く事になっているのだ。
……ホントにそれで良いのだろうか? まあ、人それぞれなのかな。
そして、やって来ました奴隷商館。
ところが なぜか、
「私も一緒に行っても良いかい?」 と、茂さんが声を掛けて来たのだ。
まあ、茂さんも奴隷を持つ身。
経験しておいて損はないだろうと、一緒に連れて来ていた。
「これは、これは、ツーハイム様。当商館へようこそ、いらっしゃいました。……今日はどのような者をお探しで?」 と、店主がもみ手で近寄ってくる。
「おう。今日は若い女性を中心に見せてもらえるか?」
「それは、”性奉仕を承諾せし者” と言う事でよろしいですね」
俺は黙って頷いてみせた。
「それでは、さっそく」 と、連れて来たのは人族の女性が7名。
彼女らは薄っぺらい貫頭衣を身に着けているだけである。 身体のラインが丸わかりである。
健太郎は大興奮して大騒ぎするのかと思いきや。 意外と冷静で 確り吟味してメモまで取っていた。
そして、奥の奴隷部屋まで見せてもらい20名の女性を見て来たのだが、いまいち決め手に欠けるようだ。
「……済まない。奥も見せてもらっても問題ないか?」
「はい。それはもう。 ただこれより先になりますと……。その~、お見苦しい者も居りますれば……」
俺は健太郎を見たが、ヤツは静かに頷いていた。
奥を一部屋、一部屋見ていくが、確かに見るに堪えない者までいるな。
そうして見ていく中で、健太郎の足がその部屋から動かなくなった。 俺も覗き窓より中を見てみた。
……そこには、椅子に座った一人のエルフがうつむき加減で佇んでいた。
その者をよく見ると、右の足が膝から下が無い。 そして、顔には火傷を負ったのか、左目から頬にかけてケロイドが覆っていた。
「師匠。俺、この子が良いっす。 この子をお願いするっす」
……ん~。 まあ、エルフに憧れがあるのは分かる。 だが、何故わざわざ故障者を選んだのかだ。
健太郎の心がそんな闇に侵されているとは思えないのだが。
「なぜ、彼女だったんだ?」
俺は健太郎を前に率直に聞いてみた。
「……同じっす」
「あの時の自分と同じ目っす。誰かが救ってあげなきゃいけないっす」
「でも、どうするんだ? ちょっとやそっとの回復魔法では無理だぞ」
「……見つけてみせるっす万能薬を。 俺なら出来るっす」
ハハハッ ハハハハハ。 俺は吹きだしてしまった。
「笑うなんて酷いっす。 俺は真剣っす!」
「ああ、いや。すまん。 俺はまた、お前が暗黒面に墜ちたのかと心配してたんでな」
「そんなアナ○ンとは違うっす。純粋な想いっす!」
その後、本当に大丈夫なのか再三確認して、俺はエルフの彼女を購入した。
そして、彼女を見世物にする気も無いので。 俺達は店を出てすぐ王都のツーハイム別邸に転移して帰った。
そして夕食の後リビングにて、俺は例の印籠からエリクサーを取り出すと、健太郎に黙って渡した。
「師匠。これ何んすか~?」
「それは萬金丹だな」
「また、デカい鼻くそっすね~」
「おう、今日中に彼女に飲ませるんだぞー」 と言って俺は寝室に向かった。
願わくば、健太郎に幸多からん事を……。
▽
そして、この年に「日本探索者協会」が発足する。
探索者資格は、日本に国籍のある18歳以上の健康な者としている。
事前の健康診断。 身辺調査に関しては、環境省が発行する ”狩猟免許” などに準ずる扱いになっているようだ。
そして、身体能力の向上への措置。
魔法に対する認識。 諸外国の圧力にどのように対応していくのか?
ダンジョンが出現して、まだ2年。 この国は、ダンジョンとの共存を始めたばかりなのだ。
―――そして、まだまだ続いていく。俺とシロの物語。
この話は完結いたしました。
最後までお付き合い頂きまして、ありがとうございます。
また、何処かでお会い出来ることを楽しみにしております。
マネキネコ φ(ΦωΦ )