113. AV
本眼寺の門を出て左、晴海通りを横断する。
そのまま真っすぐ新大橋通りを通って、道なりに進んでいく。
カレッタ汐留を通り過ぎ、さらに西へと進み鉄道の高架下を潜った時点で、何処に向かっているのか見当がついた。
目に入って来たのは、例の巨大樹であった。
そして、やって来ました。新橋駅の西口。
この辺のビル群だが状態は酷いものだ。
大きいビルは何とか原型を留めてはいるが、一歩入った裏側は悲惨な事になっている。
そこら中が瓦礫の山で、足の踏み場もないほどだ。
そして巨大樹だが、駅の目の前にデデーンと立っていた。完全に西口広場を埋め尽くしている。
そして ここに有った、名物の蒸気機関車も、土台の花壇ごと巨大樹に押しやられ、ビルの脇に転がっている状態だ。
それで、問題であるゾンビの行方なのだが……。
駅の施設は割と頑丈に出来ており、災害などが起こった際には、避難してくる者も多いだろう。
しかしだ、大通りからここに来るあいだ。 誰も見ていないのだ。
本来なら、こういう状況の時は 駅前で炊き出しを行ったりして、ワイワイやっているものだろう。
それが、人っ子ひとりいない。
……そう、おそらくヤツらがいるからである。
避難していた人々はおそらく、殆どがヤラレているのだろう。
ゾンビだけなら、上手くやれば逃げられるのだろうが。
上位アンデッドがいるのでは、ほぼ全滅だろうな。
ヤツらは駅の中に居る! 見えはしないが、西口通路から立ち昇る ”負のオーラ” がそれを物語っている。
……取りあえず、状況は分かった。 後は準備をして乗り込むだけだな。
みんなの所に戻るとするか。
俺達は一旦、豊洲に引き上げる事にした。
みんなに、昼ご飯を食べながら状況を報告していく。
その時である、俺のスマホが着信を知らせてくる。
誰だ? おお、珍しい! フウガであった。
フウガは妹のキロと絶えず連絡を取り合っており、 大概はキロが俺に報告してくるからである。
と、いうことは、急を要する重要案件なのだろう。
俺は即座にスマホをタップし電話にでた。
そして、その報告内容とは。
都内の巨大樹がある町や周辺地域において ”ダンジョン・モンスーター” を多数確認。
すでに動き出していると言うことだ。
具体的にいうと、渋谷では ”トレント” と ”マツタンゴ” が。
上野では ”ゴブリン” と ”ホブゴブリン” が、人を襲いながら暴れているらしいのだ。
さらに、駒込富士神社では境内をうろついているオーガ3体と、オークが集団で動いているそうだ。
おう、おう、一気に来たなー。 さて、どう動く?
やはり被害が出ている所が優先だよな。
そうすると、渋谷と上野だな。
よし! 2手に別れて、一気に殲滅しよう。
俺はみんなに話を通し、二つの部隊を編制することにした。
・Aチーム
1. 俺 シロ ヤカン メアリー 吾郎 パンチ ジョン
2. マリアベル チャト キロ 紗月 茉莉香
・Vチーム
1. タマ 健太郎 サキ
2. 慶子 剛志 久実 楓 ダリルバート
編成は以上のように決まった。
初めは、Aチーム Bチームとしたのだが、一部の者から若干の苦情が寄せられ、Vチームと呼ぶようにした。
理由については、在り来たりなものであるため、割愛する。
各チームは2班に別れており、先頭に書かれている者が臨時で隊長を務める。
そして、向かう先なのだが 久実さんと楓がいるVチームを渋谷に向かわせる事にした。
渋谷駅と、その近辺なら大体分かるらしいのだ。
そういう訳で、先にVチームを渋谷まで送り届ける。
次にAチームが上野に転移することになる。
上野はゴブリン主体なので、見つける事さえ出来れば殲滅も早いだろう。
鼻が利く従魔達の活躍に期待するばかりだな。
「ゲンさま。わたしも渋谷が良きです。テンアゲでー、沸くしー」
「そうか。では、さっさとゴブ野郎を葬って応援に行こう」
「それに、言ってくれれば。いつでも連れていってやるぞ」
「えっ、ええっ。 いつでも、2人で…… う、うれしい」
茉莉香は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
何ですか、この可愛い生き物は。 チューしちゃうぞ? チュー。
「ハイハイハイハイ。離れてー 離れてー。 さっさと行きますよ! マリもいつまでテレテレしてんのよー」
紗月が割って入って来た。
そうだな、行こうか! 俺達は上野恩賜公園へ転移していくのだった。
ゴブリンの討伐は1時間と掛からずに終わった。 フウガからの情報も早かったが。
なにより、巨大樹が野球場の防護ネットで覆われていたおかげで、外に出たものは10体もいないようであった。
それすらも、ほとんどが公園内で狩る事が出来ていた。
最後に、2度と召喚ができないよう。 シロに指示をだし、”巨大樹” の魔力を吸い出してもらった。
すると、巨大樹は新宿の時と同じように、幹の色は黒く変色してクラックが走り、茂っていた葉は抜け落ちてしまった。
……これで良し!
俺は渋谷の状況を把握するため、慶子に連絡を入れることにした。
ふんふん。 目立った物はほとんど討伐済み。 後は、周辺の確認とケガ人の処置が中心らしい。
うんうん。 割と順調にいっているようである。
渋谷は今の編制で問題はないな。
そういう事であれば、此方はもう一つ先の、駒込富士神社まで足を伸ばすとしますかね。
機動隊や自衛隊が出張ってくると、却ってヤリずらくなってしまうからな。
11.08 日曜日
11.24 満月