112. ゾンビ
大地震から3日か……。 そろそろ出てくるだろうと思っていたが。
そう、これが被災地の裏の顔でもある。
警察の目が届かない事を良いことに、窃盗 強姦 強盗 と、やらかすヤツが意外に多いのだ。
”ほんと人間て奴は~” と嘆きたくなるが 仕方がない。
自分の命(物)は自分で守る。
昼でも、この有様なのだ。女性のみなさんは気を付けてほしい。
さあて、女の子を放って行く訳にはいかないよな。
近くのベンチに座らせ、お茶のペットボトルを渡す。
「俺達は もう行くけど、ひとりで大丈夫かー? 何なら、表通りまで一緒に行くか」
……。女の子は何も答えない。
しかし、この付近は非常に危うい危険地帯である。
いつゾンビが溢れ出して来るか分からないのだ。
仕方ない。 俺は慶子に連絡を入れ。女の子を受け入れてくれるように頼むと、みんなと一緒に豊洲へ転移。
女の子を慶子に任せて、俺達は築地にトンボ返りしてきた。
さて、偵察再会だ。
ああ、あのアホ共は公園の樹木に縛り付けてきた。
ちゃんとお仕置き用の毒魔法 ”ハ・ゲール” そして、”タタナ・クナール” はそれぞれ付与済みである。
気が付いて、頭を動かしたと同時に、バッサリいくであろう。
まあ、ゾンビも迫っているので、早めに救出される事を祈る!
俺達は まず、築地本眼寺の表門に回った。
……誰もいない。 奥に進み本堂をコッソリ覗く。
……誰もいない。 そして並びの講堂のような建物をめざす。
出入口の引き戸は開いている?! 俺達はその出入口に近づき、そっと中の様子を伺う。 右みて~、左みて~、もう一回右~ と安全確認よし!
中へ入って見ると、ずら~りお棺が並んでいる。数は、……90基かな、不思議な事に蓋が開いている物と閉じた物があるようだ。
俺はその開いた棺に近づき、中を確認していったのだが どれも ”もぬけの殻” だ。
取りあえず、全て確認してまわった。
その結果。 蓋の閉じた8基以外は空であることが分かった。
この蓋の閉じた棺の遺体は、初日の早い時間に運び込まれたものだよな。
あとのヤツは……。 どこに行ったんだ?
ゾンビは考えなしにその辺をウロウロするものではないのか?
――と、その時である。
静まり返った講堂内の、壇上の方から カリカリ カリカリ と僅かな音が聞こえてくる。
なんだ? 誰か居んのか? 俺達は一番奥の壇上へと進んでいく。
そして階段へ足を掛けると同時に腰の剣を抜き放った。
居た! あれがゾンビだろう。
3体が奥のドアの前に屯している。
俺が壇上に駆け上がると、ゾンビ共は一斉にこちらを振り向いた。
……数秒の沈黙の後、こちらに向かい迫って来る。
目は白目を剥き。口からは泡を吐きだしていた。
そして、下に汚物をまき散らしなが近づいてくる。
く、臭い! 汚い!
勘弁してほしいが仕方がない。 3体をすれ違いざまに切り伏せ、
「シロ。浄化を頼む」 と、横にいるシロに指示をだす。
それと同時に3体のゾンビは白い光に包み込まれていく。
しばらくして光が納まっていくと、そこには小さな魔石と白い灰が残っており、ゾンビ本体は消えていた。
なるほど。 こういう感じになるのか。 ”ゾンビ” や ”ゾンビの成れの果て” は汚物と認定されてしまうのだろう。
そして、小さくても魔石が有るということはモンスターである証だよな。 遺体は残らないという事か。
あと、灰は。 ……放置で!
まあ、あとで誰かが採取して研究でもすんだろ。 知らん 知らん。
しかし、なぜ壇上の上に居たんだ? ゾンビは基本、階段を登れないだろ。
……ああ、襲われて壇上に逃げたのかもな。 それで、一人でも手傷を負っていれば……。
「ゲンさま。今のがゾンビですよね。ビックリしました」 と、言いながら肩の力を抜く茉莉香に、
「茉莉香! うしろ!」
「うキャー」 と、2m程飛び上がっていた。
「ヤカンが居るよ。と」
「ひ、ひどいです~。どちゃくそビビるーみたいな。ゾンビよりえぐいし」
「ハハハ。悪かった、悪かった」
するとそこに、紗月が来て、
「もーう、2人で何やってるの? ゲンさんも奥のドア 確認するんでしょ!」
怒られてしまった。
すんません。 俺はシロを連れて奥のドアへと進んだ。
そして、コンコンコン! ノックしてみた。
……へんじがない ただのしかばねのようだ。
いやいや、誰かいるよなー。
しかし かべに らくがきを みつけた。
【誰か たすけて!】 とある。 居るじゃねーか!
「おーい! 出て来ーい。ゾンビはやつけたぞー」 と、大きな声で言ってみるが。……ダメか。
「おーい! 出て来ないなら、帰るからな~。がんばれよ~」 と、俺はドアの前に牛丼弁当と水のペットボトルを2個づつ置くと、壇上から下におりた。
そして、ゾンビ共の痕跡を調べ始めるのだった。
壇上に居たゾンビのように汚物の跡がないのは、死体から出ないように、棺に入れる際に処置しているからだろう。
あと、ドライアイスも入れてあったはずである。
……ここはシロちゃん頼りで参りますか。
俺はシロに、匂いを辿ってもらうようお願いした。
そして、シロの鼻を頼りにゾンビ共を追跡することにした。
俺達は余計なトラブルを避ける為、”変身サングラス” を掛ける。
そして、光学迷彩を施したシロの後を追っていった。
(注:変身サングラスを掛けると、光学迷彩を施していても認識できます)
11.08 日曜日
11.24 満月