107. ソルジャーアント
俺はインベントリーを開いた。そしてリストを確認すると、”水:最良、飲水可” と表示されている。
これは以前、シロに浄化してもらって蓄えていた川の水だ。
……聖水。 ……浄化。 うん、”浄化した最良の水” = ”聖水” だからいける。 フフフ♪ これで勝つる。 アンデッド共に。
あとは、おもちゃ屋に行って、ウォーターガンを仕入れるだけだな。
まあ、農業用の噴霧器でも、ポリ缶に付ける簡易シャワーでもいけるだろう。
よし、これらが全部揃うホームセンターに行くぞ。
俺には京都での土地勘がまるでない。 だからホームセンターを巡る為、一旦福岡へ戻ることにした。
「キャー! ゲン様エンカで沸いたー! お願いかまちょ」 と腕を組んで来たのは、豊満な胸をお持ちの茉莉香だ。
「ただいまー」と、居間に入ってきた途端にこれだ。
そして、一緒に居たメアリーがトトトッと寄ってきて、首にうでを回し ほっぺにチュッとキスをして離れていく。
「あぁ~、いいな~。私も私もー」 と言いながら茉莉香が迫ってくるが、片腕を紗月に引っ張られ引き剥がされていく。
「やあ、お帰り。向うは大変な事になっているね~」 と声を掛けて来たのは茂さんだ。
「はい。もの凄い揺れでしたよ。一瞬身体が浮きましたからね」
豊洲であれなのだ。これが震源地の銀座では……。
そして俺はこちらに戻った理由を簡単に説明していった。
それから、みんなに手伝ってもらい。 噴霧器は5台のみだったが、簡易シャワーと各種ウォーターガンはそれなりの数が集まった。
また、買い物などを一緒にして行く中で、茉莉香がようやく付与魔法を身に着けたことを知った。
これには、やはり向うで学校に行っている、マリアベルやメアリーの存在が大きかったようだ。
そして、もうひとつ。 「ダンジョン・イナリ」 の件だ。
一般登山者からの連絡を受け、京都府の消防隊や警察が動きだしたらしい。
これにはマスコミの方も敏感に反応しており。
もう数社が、すでに現場に張り付いているらしい。
これにより、ここ福岡でもマスコミの動きが活発になってきているようだ。
まあ、そうなるよな。 ダンジョンが出現するまでのプロセスがほとんど一緒なのだから。これでは、さすがに政府も隠し通すことはできないだろう。
なぜ、今まで公表していないのか疑問は残るが。大方、魔石やポーション辺りがからんでいるようにも思うのだ。
これで国民が納得できるような政策を打ち出していく必要が出てきたよな。
そうなると、ここ 「ダンジョン・ハンゾー」 もそろそろ嗅ぎ付けられそうだな。
せっかくなので、見物客を相手に何か商売でも始めてみるのも良いかもしれない。
俺はアンデッド対策用品の購入も終え。 久しぶりに、こちらで昼食を取っていた。
すると、ピポーン♪ ピポーン♪ 見ていたお昼のワイドショーの画面上部に、緊急情報のテロップがお知らせアラームと共に写しだされた。
「先程、東京 皇居外苑付近に 巨大昆虫が多数確認されました」
んっ、巨大昆虫? 何が出たんだ。 カマキリか 蜂か 蟻か 蜘蛛か どれが出たんだ。
みんなでワイワイやって見守っていると、画面がライブ中継に切り替わった。
今、映し出されているのが、おそらく皇居外苑なのだろう。 あの端に映っているのがたぶん巨大樹だな。
んんっ! いま木陰で何か動いたよな。 カメラがそちらにズームしていく。
おおっ、あれは ”ソルジャーアント” ではないか。
うわー。 また厄介なモンスターが……。
・ソルジャーアント
蟻の昆虫モンスターで、体長は1m程あり、強固な甲殻で覆われている。
移動速度も人間よりも早く、自在に動く6本の足は土や草の上はもちろん、岩場 木の幹なども自在に移動できるのだ。
そして、厄介な点だが、甲殻に覆われた体からは ”麻痺毒” が分泌されており、運が悪ければ麻痺毒に侵されて動けなくなる。
こちらも、ラット同様に数で押して来るタイプだが、地下にコミュニティが存在し ”クイーンアント” を中心に500匹程で1つのコミュニティを形成している。
さてさて、どうなんだ。 コミュニティは1つとは限らないからな。 毒消しは持ってきてはいるが、俺達以外となると数が足らない。
……ここは、ハンゾーとイナリに頼んで、増産させておくかな。
もちろんタダではあげないけどね。
まあ、昆虫モンスターは魔法全般に弱いから、魔法使いが揃っている俺達なら、そう苦労もせず殲滅出来ると思うのだけれど。
ただ今回は、地下コミュニティごと駆除になるから結構大変なんだよね。
さて、京都に戻ろうかと、腰を上げたところ。
「師匠、戦うんですよね。俺らも一緒に行くっす」
「そうですよ。何の為にここまで鍛えてきたのか、今回戦う為ですよね」 と、紗月までが。
……俺は茂さんの方を見た。
「うん、良いんじゃない。 この子達も真剣に頑張ってたからね。学校の方にも上手く伝えておくよ。ただ、……」
「わたし! もち、おけまるでしょ。置いていったら ”びえん” しちゃうし」
「しかし、親御さんは大丈夫なのか~。心配してるだろう」
「あー、ゲンさま。わたし親には何も隠してないしー。確かに心配かけるのはツラたんだけど、どこまで出来るかやってみたい」
……俺は、もう一度茂さんを見るのであった。
11.07 土曜日
11.24 満月