101. 覚醒!
夜も更けて来たので、俺達は ”ティピーテント” を一組貸してもらい休む事にした。
すると、日を跨いで、少し過ぎたころ。
カタカタカタカタ ―――ドウン!
と、寝てた身体が10㎝程浮くような突き上げが襲ってきた。
そして、―――ゴゴゴゴゴ! 周りの軋む音が凄まじい。
立ち上がろうにも、立ち上がれない程の、激しい揺れが続いている。
今まで、こんな大きさの地震は経験が無い。 ひたすら耐えて、収まるのを待つしかない状況なのだ。
そして、地震は徐々に収まっていった。
時間にして4~5分だろうか? さすがの俺も少しビビってしまった。
急いでティピーテントを出る。
周りは真っ暗で、ただただ闇が広がっているだけであった。
昨日は、まだ新橋や、有楽町あたりのビルから光が漏れて、賑やかしかったのだが。
今は、何もない。
……暗闇だけが、そこに有るだけだった。
俺はみんなが無事なのを確認していく。
剛志さんは横に居るから大丈夫だ。 タマと、キロもこちらに寄ってきた。
みんな特に問題ないようだ。
……熊店長は大丈夫か?
向こうの方でジョンとパンチが吠えているのが聞こえる。
取りあえず、みんなを引き連れて、犬が吠えてる方へと向かった。
ああ、トレーラーハウスが横倒しになっている。 店長は無事なのか?
すると、かすかに声が聞えている。なんとか生きてるようである。
さて、どうするか? ガスは漏れていないか。どうだ?
よし。横倒しになって真上になってしまった窓から侵入しよう。
俺はマグライトを片手にヒョイッと上に登ると、窓から中を覗いた……。 だが、見当たらない。
さらに、慎重に見て行くと。
……居た! 横倒しのベッドに挟まれている。
俺は窓ガラスを外し収納すると、トレーラーハウスの中に侵入した。
そして、店長の状況を確認しつつ周りの物を収納していき、ようやく店長を保護することができた。
後はスキップを使い表に出た。近くに有った木製のパレットの上に毛布を敷き、そこに店長をそっと寝かせた。
鑑定してみると、右足の膝下部に骨折が有るようだ。
シロに頼んで、ヒールを一発。 2秒で元通りになった。
これには、熊店長も右足を擦りながら唖然としている。
……ふぅ。 大事無くて本当に良かった。
俺は、店長を立たせるとインベントリーから、変身サングラスを取り出して渡した。
初め困惑顔だったが、装着して使い方を教えると、
「おおおっ」
「スゲー! スゲー!」
少し煩い。
それで熊は放っておいて、また周りの状況を確かめて行く。
すると、さっきまでは無かった明かりがポツン、ポツンと見えている……。
周りが真っ暗なので、どのくらいの距離有るのかは分からないが、大事ない事を祈るばかりである。
大地震の後に付きものの火災である……。
しかし、あれだけの大地震のあとだ。
東京の大都会で、この静けさは逆に怖いとしか言いようがない。
ケガ人は出ているだろう。緊急車両はどうした?
このまま明るくなるのが、ちょっと恐ろしいような気がするな。
そのような、今考えても仕方が無い事で、耽っている俺の目の前にシロが寄ってきて お座りをした。
……そうか。 やはり来たか。
ちょうど、むしゃくしゃしてた所だ。暗闇に紛れて、少し暴れさせてもらおうか。
熊店長には あちら製のチタンシャベルを渡し。俺の後ろから、剛志さんと一緒に付いて来てもらうようにした。
パンチとジョンはシロと行動を共にさせる。 タマとキロは自由に動けと言ってある。
「敵はラットだ。一般人も居るかもしれないから、注意して行け」
「もし、襲われている時は判断は任せる。一匹残らず殲滅するぞ」
「よし、行け!」
と、俺の号令と同時に飛び出していく2人と3匹。 俺はゆっくり中央の道を進んでいった。
そして、横に展開しながら2往復。
そろそろ東の空が明るくなりかけた頃、俺達はワイ○ドマジックの敷地に引き上げてきた。
今は、シロやタマ達が道路に転がっている。魔石を集めている最中であろう。
そして、最初に懸念していたガス漏れは心配ないようなので、俺達は朝からバーベキューを始めていた。
戦った後は腹が減るのだ。
帰って来たシロやタマも、美味しく焼けた肉や魚にかぶり付いていた。
それから、シロに付いて良く頑張っていたパンチとジョン、2匹のゴールデンレトリバーは共に Lv.8 まで上がっている。
さすが中層のモンスター。 倒した時の経験値が高かったようである。
そうして日が昇り。 別れの朝。
「あなた方は……。いったい?」
「なーに俺達は只の通りすがりの者ですよ。 今は、どこも同じような状態だと思います」
「きっと良い世の中になると信じて、これからも お互い頑張りましょう」
俺はパンチとジョンの頭を撫でながら、
「それで しばらくの間は、この子達を夜に解き放っていてください。そうすれば、もしラットがどこかに隠れていたとしても、この子たちが駆除してくれるはずです」
そして、「何か有ったら電話を下さい」 と、スマホと福岡の連絡先を書いた紙を渡しておいた。
俺達は物陰に入ると、トラベルを発動し 有明テニスの森サイドに有る駐車場に帰ってきた。
ただ、停電がまだ復旧しておらず、駐車料金を支払う事ができない。
まあ、ここは仕方がないと、駐車時間と連絡先を書いてキャッシャーのパネルに貼り付けた。
そして、次にホテルへ行って見たのだが、完全に閉鎖状態になっていた。まあ、こちらは記録が残っているはずだ。
後で請求が有った時で大丈夫だろうと、その場をあとにした。
11.05 木曜日
11.24満月 .00日ダンジョン