98. 豊洲封鎖
俺は剛志さんに今日調べて回ったことを、詳しく説明していった。
「せ、1800! 中層のモンスターなんですよね」
剛志さんのレベルは、Lv.11 単独なら7~8階層 チームを組んでも10階層というところだろう。
だから、中層のモンスターの恐ろしさは身をもって分かっているのだ。 それが、1800匹である。
ラットはねずみタイプのモンスターで、攻撃力に関しては他の ”中層のモンスター” に比べると若干落ちる。
しかし、その分敏捷性が高くとても厄介な相手なのだ。
そして一番の脅威はその数である。 ”数こそ力” で攻めて来る。
少しでも怯んだり、動きが止まれば、たちどころに飲み込まれてしまうだろう。
全身齧られて終わりだ。 では、どうやって倒していくのかだが。 ズバリ魔法である。
特に雷魔法は出力が弱くても効果てき面で、コロッコロ転がっていく。
しばらく麻痺して動かなくなるので、後は止めを刺していくだけだ。
下手をすると、スタンガンでも行けるかもしれないな。 ちょうど、お誂え向きに剛志さんの魔法は雷魔法だ。
ただ、レベルは1である。 これでは単体のスタンぐらいしか使えない。これでは話にならないので、明日の戦いではシロに付いて戦ってもらい、魔法のレベルを引き上げてやろうと思う。
そして、スーツ姿の剛志さんを見て、
「着替えなんかは大丈夫ですか? 何だったら今からでも」 と言ったところで。
剛志さんはマジックバッグを見せながら、
「この中に全て入っています。沢山入るように圧縮パックを上手く利用してますよ」 と言って、シャツが入った小型の圧縮バックを見せてくれた。
おおー。凄い。衣類などを入れて、自分の手でクルクル巻いて行けば、自然と中の空気が抜けて行く仕組みだ。
へー。これ良いよね~。 今度買っちゃお! それでは明日、私も一緒に戦いましょう! となって剛志さんも同じホテルに泊まることになったのだ。
そして、翌朝。
シロにぺしぺし起こされた。散歩に行きたいようなのだ。
お台場の方まで一周回ってこようとホテルを出てみると、駅前の広場に自衛隊の輸送トラックが数台止まっているのが見える。
へ~、協力してもらえるようだ。 それにしても、何も連絡が無いというのは おかしいのではないかな~。
……何か、とっても嫌な予感がしてならないのだが。 取りあえず、シロの散歩を終わらせ、ホテルに戻ってきた。
シロに豊洲方面がどんな様子か、自衛隊などの配置がどうなっているのか、偵察をお願いした。
シロは光学迷彩を施し走り去っていく。
俺はそれを見送りホテルの中へと入った。 フロントに赴き事情を聞いて見ると、
「本日の5時から豊洲駅から南西側の全域において、一般人の立ち入りが規制されています。原因については、未だ明らかにされておりません」
……う~ん。どうするつもりだ? 住民がまだ居るだろうに。 自分たちでヤルつもりなら止めないが、少し甘く見過ぎだ。
とりあえず、部屋で待機だな。
テレビでどの程度情報を得られるか分からないが、デカいテレビ局も有る事だし、お手並み拝見させて頂きますかな。
と、その時である。
キュイ! キュイ! キュイ! 地震です。 キュイ! キュイ! キュイ! 地震です。
おおっ、ある意味聞きなれた警告音と、テレビに映る見なれたテロップ。
「緊急地震速報です! 大きな揺れに備えてください。落ち着いてください」……
そして2秒後。 ・・カタッ カタッ カタタッ ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ カタタ 1分30秒程揺れた。最高に揺れた。 芯まで揺れた。
「みんな、大丈夫か~」
「はい。大丈夫です。ご主人さま」
「タマも、大丈夫ニャン」
「今ので、電力の供給がストップしたな。 取りあえず、部屋を出る準備だ。次に剛志さんと合流し、一緒に外にでるぞ」
「はい!」
「はいニャ!」
俺達は急いで準備を行い、廊下に出て非常用の階段を下りだした。
剛志さんの部屋は6階。 ここより4つ下の階になる。
しかし、大勢の人が非常階段を利用する中で、逆行はなかなか難しいようであった。
そこで、俺はヤカンを送り出すことにした。念話で指示を出し6階の探索に向かわせた。
程なく外へ出られた俺達は、剛志さんが昨日乗って来たライトエースの方に向かい待つ事にした。 スマホを見るが、圏外となっている。
これは地震直後からである。 こうなってしまうと文明の利器も何の役にも立たん。
あちこちから悲鳴のような声も聞こえてくるが、パニックになっているだけのようだ。
すると、ヤカンよりも先にシロが帰って来た。
しかし何というか、ものすごい存在感である。
シロがいるだけで、今まで不安だった気持ちも、何処からくるのか分からない、焦りなどもキレイに無くなっていくのだ。
流石はフェンリルのシロちゃんなのである。
おっ、ヤカンも戻って来たな。 んっ、剛志さんは?
おおー、後ろに付いてるな。 見えていないだけで。
さっそく、役に立ったようで何よりだね。 ”変身サングラス” 。
「遅くなりました。半端なかったですね、あの揺れは」 と、サングラスを外しながら、剛志さんが挨拶してきた。
その身体には、すでに戦闘用の革鎧を身に着けていた。
11.04 水曜日
11.24満月 .01日ダンジョン