95. 坂井隊長
伏見稲荷にある地下基地の整備も大方終った。
それで俺は 昼過ぎに、一旦福岡に戻って来ていた。
すると、居間には1週間ぶりの休日だったらしく、坂井隊長の顔が見える。
どうも朝から、茂さんやタマ達に混じってダンジョンに潜っていたようである。
今も楽しそうに茂さんと、モンスターの倒し方について話している様子だ。
「こんにちは! 坂井さん。調子はどうですか?」
「あ、こんにちは。ゲン師匠。調子は万全です! 疲れ知らずと言いましょうか。とにかく絶好調です」
「それは、良かったです。これ、良かったら使ってください」 と、例の光学迷彩サングラスを渡した。……サングラスの使い方を説明すると、
「これは、また。とんでもない物ですね~」 と、恐る恐る受け取っていた。
レベルの方も Lv.5 に上がっている。順調そうだな。ついでに、他の隊員の事も訪ねて見たのだが。
レベルアップを果たし、Lv.2 になっている者が、全体の4割程度なのだそうだ。
如何せん攻撃が通らないので、かなり苦戦しているという事だ。
……う~ん。 俺は少し考えた上で、クルーガー王国で販売している。 ごく普通のチタンシャベルに刃を付けて、10本纏めて坂井隊長に渡した。
「こ、こんなに。良いのですか。 あ、でも。持ち運びが……」 と悩んでいる様子だ。
ん、なんだ。……あれっ。 教えていなかったかな? インベントリーの事。
そうだったかぁー。(汗) それに何か、制限が設けてあるかもしれないし。
とにかく、使えるように指導していく。それと同時に、検証の方も行う事にした。
するとどうやら、使用場所に制限が設けてある以外は 普通に ”インベントリー” として使える事が分かった。
その使用場所とは、ダンジョンが力を及ぼせる範囲までのようだ。つまりダンジョンから半径10㎞という事になる。
これを超えてしまうと、中に納めている物がすべて自分の周りに放出されてしまうようだ。
このように、制限付きではあるが、是非使いこなしてもらいたいものだ。インベントリーは、只物を出し入れ出来るだけのスキルではないのだ。
工夫次第で、いろいろな戦い方も出来るし、自分や仲間を守る事も出来るのだ。
しかも、”トラベル” や ”スキップ” を並行して使用する事で、相手の奇をてらった、動きや攻撃が出来るようになるのだ。
例えば、敵の上から、槍や 質量を無視したような大岩などを落としても良いし。
慣れてくれば、敵の得物や装備している物を奪取する事も出来る。
油や粘着剤などの放出も自在だ。
小さなトーチカや鉄条網を入れておけば、直ぐに拠点の確保も出来てしまうのだ。
それに移動魔法だ。
これも、場合によっては天井に張り付いたり、空中から攻撃だって出来てしまうのだ。
この他にも、各種バリエーションを加えていけば。自分に合った戦い方を見つける事が出来るだろう。
説明を言い終わったところで、坂井隊長を見ると。手をワキワキさせながら辛抱たまらん。と、言った感じだ。
今からでも一人でダンジョンに突っ込んで行きそうな雰囲気だ。――やれやれ。
夕方から、少し鍛えてあげますかねー。
それからは、高校生組が戻ってくるまで、ワイドショーやニュース番組を見ながら、情報収集を行っていた。
例の巨大樹木だが。大きいもので幹の直径が30m、高さは80m程だという。
米国西海岸、キングスキャニオンなどにある 「ジャイアント・セコイア」 とか言う、ヒノキ科の樹木とよく似ているようだ。
まあ、向うのは どれも樹齢はおよそ2000年以上らしいのだが。
発生の場所は、東京 上野 駒込 池袋 新宿 渋谷 新橋 の7ヶ所。
山手線沿いで、駒込を除いては駅の近くに出現している。 おそらく、人口密度の高い所を狙っているのかもな。
まあ、今は地震や、JRや私鉄の混乱で かなり減ってはいるだろうがな。
その後、高校生組の出動についても、茂さんと話をして行く。
彼らは、守られる存在である。未成年なのだ。 いくら力を持っていたとしても、モンスターとの戦いなど、政府や学校が許してはくれないだろう。
はがゆいが、無視する訳にはいかないからな。 それに、サキの事も考えてやらないとだな。
せめて、高校位までは、行っておくべきだろう。この件については、意外と顔の広い 慶子にお願いしようと思う。
サキと母親、双方に上手く話しをつけてくれるだろう。
そして俺は茂さんに向け、
「稲荷山に在る、京都基地の改修工事も無事に終わりましたし。今日はみんなに見てもらおうかと思いますが、いかがでしょう」
「あ、それはいいねー。 転移台座もあちこち設置しているんだよね?」
「そうです。裏の転移台座から何処へでも飛ぶ事が出来ますよ。あと、こちらの天神地下街や博多駅なんかにも飛べるようにしていますので、どんどん利用してください」
すると、学校より高校生組も帰って来たので。地下基地に居た、みんなを呼びよせ、稲荷山にある基地の方へ転移して行った。
京都基地に着いた俺達は、装備や水筒を身に着け、さっそくダンジョン突入の準備にはいった。
そして、気の合った者同士3人のチームを組んで、転移台座からダンジョンへ潜っていく。
そうして、各々がダンジョンへ突入していく中、1チームだけが壁側にくっついて何やらゴソゴソやっている。
本人たちは隅でコソコソやってるつもりだろうが、その赤い革鎧は目立つのだよ。その赤い革鎧は~。 って何やってんの?
11.02 月曜日
11.24満月 .03日ダンジョン