星川明里を救うのは……
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黒い杖から放たれたものは、全てを飲み込む黒い光線。
愛乃さんとイリス様は想定外の状況にまだ動揺している。
二人をここで失うわけにはいかない!
「おらあああ!!」
愛乃さんとイリス様の身体を抱きしめ、光線を躱す。
「……やっぱり。その子たちがいるから私を見てくれないんだよね。そうだよね。そうに決まってる」
星川の杖が再び二人に向けられる。
このままじゃ、どうしようもない!
「二人とも! 変身して迎え撃つしかないラブ!」
突如、愛乃さんのポッケの中からネズミのような熊のような人形が飛び出す。
え……? 何こいつ?
てか、喋った!? ひょええええ! 化け物!!
「化け物じゃないラブ! 失礼な人間ラブね!」
心読まれてる! やっぱり化け物だあああ!
妖怪サトリだあああ!!
「……この人間、絶対に許さねえラブ」
そんなやり取りを人形としているといつの間にか、愛乃さんとイリス様が変身していた。
てか、愛乃さんもラブリーエンジェルだったのかよ。
「明里ちゃん! 元に戻って!」
「そうよ、明里! こんなやり方じゃ誰も幸せになれないわよ!」
「うるさい! イリちゃんは自分が幸せだからそう言えるんでしょ! イリちゃんにも、恋をしたことが無いかのっちにも私の気持ちなんて分からないよ!!」
星川はそう叫び、愛乃さんとイリス様に突っ込んでいく。
こうしちゃいられない。
今回の一件は俺のせいで起きたことだ。俺が何とかしないと。
「やめるラブ」
だが、立ち上がろうとする俺を人形が止める。
「今回の一件は間違いなくお前の責任ラブ。でも、お前が行っても何も出来ない。寧ろ、花音たちを庇うお前を見て明里の怒りが増えるだけラブ」
だとしても、このまま何もしないわけにはいかないだろ!
「うるせーラブ! 一般人は黙って見てろ! お前がイリスや明里に近づいたからこうなったんだラブ!」
こいつ……!!
悔しいが、反論は出来ない。
だが、この人形に従う道理もない。
考えろ。どうすれば、星川を助け出せる。どうすれば、星川に俺の思いを分かってもらえる?
「「きゃああああ!!」」
そんなことを考えている間に、愛乃さんとイリス様の悲鳴が耳に届く。
視線をそっちに向ければ、そこには地面にボロボロの状態で横たわる二人と、二人を見下ろす星川の姿があった。
「そ、そんな……花音とイリスがこんなに一方的にやられるなんて……ラブ」
人形も動揺している。動揺のあまり、語尾のラブが取ってつけたような形になっているぐらいだ。
「ふふふ。先ずはイリちゃんだよ!」
星川の持つ黒い杖の先端が槍の様に尖る。
その時には、既に俺は走り出していた。
星川が杖を振りかぶる。ダメージがでかいのかイリス様はまだ動けない。
ドスッ!
嫌な音が響く。脇腹が熱い。
「な、何で……?」
星川があからさまに動揺する。
それは当然だろう。星川の振りかぶった杖が刺さっているのが、俺の脇腹なんだから。
「ガハッ……」
「ち、違うの……あっくん……そんなつもりじゃなくて……」
さっきまでの強気が嘘のように星川は弱気になっていた。
ああ。そうだよ。そっちの方がずっとずっと星川らしい。
俺の知る星川は自分の欲望一つの為に人を傷つけるような奴じゃないし、人を傷つけることを喜ぶような奴じゃない。
「……星川。すまねえ。俺のせいだよな。お前がこんなことになったのは……頼む……戻って来てくれよ。本当のお前に言いたいことがあるんだ……」
星川の瞳が僅かに揺れる。そして、その手が俺にゆっくりと近づいて行く。
「ちっ……。まだ支配しきれてないようね。ここは引くわよ」
だが、その手が届く前にタマモの声が響き、狐に姿を変えたタマモが現れ、星川を連れてどこかへ飛び去っていった。
支配……?
どういうことだよ。星川は、今の星川は操られてるのか……?
そこで、俺の思考は途切れた。
「「善道君!?」」
***
泣いてる。
子供が三人。
一人は小学生程度の幼い子。裏切られて泣いてる。愛が欲しくて泣いてる。
一人は中学生。悲しくて泣いてる。この世で自分が一番不幸だと、絶望して泣いてる。
一人は高校生。苦しくて泣いてる。報われなくて、辛くて、自分の気持ちが抑えられなくて、泣いてる。
幼い子は救われた。一人のバカに出会ったことで。
中学生は救われた。一人の美少女に出会ったことで。
じゃあ、高校生は? 泣いてる高校生は誰が救う?
たすけてよ……あっくん。
高校生が呟く。
救いたい。救わなきゃならない。
本当か?
小学生は、中学生は、誰かに救ってもらったのか?
答えは出ない。一人の少女は、高校生はまだ閉じこもったまま。
***
変な夢を見た。
目を開けると、目の前にはネズミのような熊のような人形。いや、人の心を読み取れる妖怪サトリがいた。
「誰が妖怪ラブか! ラブリンは『愛の国』のエリート妖精ラブ!」
でも、人の心読んでるじゃん。
「ふん! 愛とは人の心の中に存在するもの。愛を知り尽くしたラブリンには、人の心を読むことなんて造作もないことラブ!」
へー。凄いな。
「キーッ!! この人間ムカつくラブ!!」
いや、今は妖怪サトリと「ラブリンラブ!」……読みにくいわ!
とにかくサトリンと「ラブリンラブ!」……うるせえ!
今はお前と話してる暇ないんだよ!
さっさと星川を助けに行かねえと……。ん? そういえばイリス様と愛乃さんは?
「花音とイリスなら、明里を追いかけたラブ」
そうか! なら、俺も早く動かねえと。
「ちょっと待てラブ」
直ぐに立ち上がって、その場から離れようとする俺をラブリンが引き留める。
「ここまで来たら仕方ないラブ。お前にはラブリンたちのことを話さないといけないラブ」
サトリンはやけに深刻そうな表情でそう呟いた。
「いや、いいです。間に合ってるんで」
そんなことより今は、星川を助ける方が大事だ。
大体、事情なら殆ど理解している。今更説明される必要はない。
「ちょ、ちょっと待て! 理解しているってどういうことラブか!?」
あ……やっべ。
いやー何もシラナイヨ。
オレ、ナニモ、シラナイ。
「しらばっくれても無駄ラブ! どういうことか説明してもらうラブよ!」
うるせえ! どうでもいいだろそんなこと!
大事なのは星川を救うこと!
「む……。確かに、それはそうラブ」
だろ? じゃあ、俺は行くから。
「ちょっと待てラブ」
何だよ?
「これだけ聞かせろラブ。お前はラブリンたちの敵ラブか?」
知らねーよ。
「なっ!?」
俺はイリス様の味方だ。そして、星川明里の――だ。
俺の返答を聞いたラブリンはため息をついて、呆れるような目を向けてきた。
「要はただのバカってことラブね。なら、さっさと行くラブ」
バカとは失礼な奴だ。
まあ、いい。今は時間が惜しい。
向かう場所はイヴィルダークの本拠地。
今の星川は別人のように変わっている。
どっちが本当の星川かは分からない。あるいは、両方とも本物の星川なのかもしれない。
とにかく、確実にタマモ以外にこの事件に関わっている奴がいる。
シャーロン。
先ずは、そいつから全てを聞き出す。
ありがとうございました!